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主人公じゃない!  作者: ウスバー
第五部 力と代償
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第百一話 剣を捨てる時

予告詐欺のせいでサボってるイメージ持たれてそうですけど、更新ペースだけ見ると実は最近結構頑張ってるんですよね


 勝負が始まっても、最初はお互いに動きがなかった。

 互いが互いを警戒するように、じりじりと間合いを測る時間が続く。


 二戦目に似た展開。

 だが内情は、二戦目とはほぼ逆だ。


 すでに〈マニュアルアーツ〉を使うことが出来て、腕力で大幅に勝るアインは、俺に対して圧倒的に優位に立っている。


 お互いの攻撃がぶつかった場合、威力の差で俺の敗北がほぼ決定する。

 つまりアインは俺の攻撃に対して剣による攻撃か、盾によるパリィかのどちらかを合わせればいい訳で、俺はその両方を潜り抜けなければ敗北することになる。


 それに……。


「二刀流はめずらしいけれど、対戦経験がない訳じゃないんだ」


 にらみ合いを続けていると、アインが楽しそうに語りかけてくる。


「両方の手で攻撃出来るのは、確かに強いよね。特に、剣聖……君も戦ったことのあるニルヴァの二刀流なんて見てしまうと、その圧倒的な火力には驚かされるばかりだ。だけど、うん。少なくとも僕は、二刀流が剣と盾に勝るとは思わなかった」

「何が言いたいんだ?」


 俺が弱みを見せないように意識して強気に尋ねると、アインは盾を誇示するように軽く持ち上げてみせた。



「――パリィ、使えないんだろう?」



 その指摘に、俺は一瞬言葉に詰まる。


 二刀流を採用する上で必須とも言える〈ニンジャ〉のスキル〈両利き〉は、「左右に同じ武器を装備した際、利き手ではない方の武器も利き手と同じように扱える」という効果を持つ。


 これで左手の武器でも右手と同じようにアーツを使えるようになるのだが、その代償として「利き手では使えない」技、〈パリィ〉や〈ガード〉などは扱えなくなるというデメリットを持つ。


 特に、こういう対人戦ではパリィは切り札だ。

 これは試合を一発で決める手札が一つ使えなくなるというだけでなく、アインの攻撃に回避以外の選択肢が取れないということも意味している。


「……どうかな? 俺が〈両利き〉のスキルを持ってないかもしれないぞ」


 かろうじてそう口にしたものの、アインの笑みは崩れない。

 アインは積極的に人を騙すようなタイプではないが、かといって腹芸が苦手という訳でもない。


「君ほどの剣士が、それを理解していないはずもない。なのに、それでも二刀流にこだわったのはどうしてだろうね? もしかして、君が狙っているのは二つの武器を持っていなければ出来ない戦術、例えば、武器を一つ失わないと使えないような……」


 あまりにも的確な読みに震えが走る。

 これ以上、アインに思考を重ねさせてはいけない。


「御託は、終わりだ!!」


 俺は、アインの話を遮るように前に駆け出した。


(こうなったらしょうがない! とにかく先手を取る!)


 剣の腕も、能力値も、アーツの扱いでも、アインは全て俺の上を行く。

 だから、俺に勝ち目があるのならそれは奇襲だけ。


「へぇ。なら、これはどうかな?」


 しかし、アインとの距離が遠い。

 俺がアインへの間合いを縮められないうちに、アインは剣を振りかぶり、斜めに振り切った。



「――〈エアスラッシュ〉」



 穏やかなその声に、戦慄する。


 俺はまだ、アインの前では真横に振る〈エアスラッシュ〉しか見せていない。

 なのにあいつは、自力で角度を補正して、見てもいない「斜めの〈エアスラッシュ〉」を開発しやがったのだ。


(この、チート野郎が!! 少年漫画のコピー能力者だってもう少し慎みがあるぞ!)


 脳内で悪態をつくが、それで状況が変わる訳じゃない。

 振り抜いた剣から風の刃が放たれ、同時にアインも俺に向かって駆け出してくる。


「くっ!」


 無造作なようでいて、よく考えられたいやらしい攻撃だ。


 斜めに放たれた風の刃は、最初の試合で放たれた縦の〈エアスラッシュ〉よりも格段に避けにくい。

 無理に風の刃を避ければ、そこで体勢を崩した俺にアイン本人が追い打ちをしかけてくるだろう。


 しかし、今の俺は、盾を捨てて武器を取ってしまった。

 盾で風の刃を無効化は出来ないし、剣で相殺しようとしても威力差で場外負けになるのはすでに二試合目の結果が証明している。


 なら……。



「――〈疾風剣〉!」



 俺は、回避も防御も捨てた。

 逃げるどころか速度を増して、ノーガードで風の刃とアインに向けて自分から突っ込んでいく。


「なっ!?」


 右手の剣を振り上げ、無防備に身体を晒す俺の胸に、風の刃がぶつかって、



「――〈瞬身〉」



 次の瞬間、俺はアインの背後に跳んでいた。


 これが、俺の絶対的な切り札。

 攻撃を受けた瞬間に攻撃していた相手の背後に跳ぶ、対人最強の回避技。


 場所は移動しても、振り抜く腕の速度は変わらない。

 加速のついた右の剣を、俺はアインの隙だらけの背中に振り下ろし、




「――〈パリィ〉」




 まるでそれを見越していたように、身体をひねったアインの盾が、俺の剣を迎撃する。


 いや、見越していたように、じゃない。

 このタイミング、俺が〈瞬身〉を発動する前から動いていたと考えなければ、説明がつかない。


 アインは、同じく〈瞬身〉のスキルを使えるニルヴァのことを知っていた。

 だから俺が無策で攻撃を受ける訳がないと悟り、〈瞬身〉による回避を予測していたのだ!


 振り下ろす腕は止まらない。

 俺が繰り出した右手の一撃は、完璧なタイミングで放たれたアインの〈パリィ〉にぶつかって、



「……え?」



 アインの盾を、弾き飛ばした。


 俺は「してやったり」とばかりに唇を歪める。

 アインには、いや、世界中の誰にも、分かりはしないだろう。


 この世界で〈ツインアーツ〉のスキルを持っていたのは、〈剣聖ニルヴァ〉だけ。

 そのニルヴァも、本当の意味ではこのスキルを使いこなしてはいなかったのだから。


 仕掛けは、単純。

 俺は、右手で〈疾風剣〉を使いながら、左手で〈シールドブレイク〉を発動させていた。

〈ツインアーツ〉の「片側の手で繰り出した技の効果が反対側の手にも乗る」という効果によって、左手だけでなく、右手の攻撃にも盾破壊の効果が乗る。


(いける!!)


 勝利の確信と共に、俺は左手のアーツを解除すると、焦りの表情を浮かべるアイン目掛けて左手の剣を突き出す。


「ま、だだ! 〈疾風剣〉!」


 しかし、アインはそこで終わらない。

 今アインが使えるもっとも速い攻撃で、俺の突きを刈り取りに来る。


 攻撃のため、前のめりになった俺は、その攻撃を回避出来ない。

 俺の攻撃がアインの身体に辿り着く前に、アインの〈疾風剣〉が俺の剣まで到達し、



「――〈パリィ〉」



 俺の剣が、アインの剣を、撥ね上げた。


「な……っ!?」


 今度こそ、アインの顔が驚愕に染まる。


〈両利き〉のスキルによって、俺の左手はアーツが使える代わりにパリィが使用不能になった。

 だから、今ここでパリィが使えるはずがない。


 アインはきっと、そんな風に思っていたのだろう。

 そして実際、それは正しい。


 ……直前に、俺が右手の剣を手放してさえいなければ。


 左手でアーツを使えるようになる〈両利き〉は、「左右に同じ武器を装備」していることが発動条件。

 つまり、右手が木剣を手放して素手になった瞬間に、〈両利き〉の発動条件が未達成になり、左手でアーツが使えなくなる代わりにパリィが使用可能になる。



(――これが、俺の奇襲。初見殺しのフルコースだ!!)



 実力で負けていたとしても、アーツの知識量では俺が勝っている。

 だから、初見殺し、分からん殺しを重ねて、何もさせずに封殺する!


「く、ぅ!」


 しかし、それでも。

 数々の予想外に見舞われ、盾を飛ばされ、剣を弾かれても、アインの目は勝負を諦めてはいなかった。


 今、俺の右手に武器はない。

 だから、パリィの隙で武器を拾って、一度仕切り直しするだろう。


 そんな風に、アインは思ったのかもしれない。

 だが……。



(……悪いな、アイン)



 俺は剣を、拾わない。

 その代わり何も持たない右手を、強く強く握り締め、



(お前がこの試合を仕組んだって分かった時、俺は言ったよな)



 まるで弓を引くように、右腕を引いて、



「まさか、ちょっ――」



 動揺したアインが、制止の言葉を言い終える、その前に……。






 ――お前は絶対、あとで殴る!!






 握り込んだ俺の拳が、白の王子の顔面に突き刺さったのだった。

私怨爆発!





次回は後日談

騎士たちの前で思いっきり王子を殴ったレクスの明日はどっちだ!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 素手でヒトを殴ると意外に殴った方が怪我をするという。 ステータス的にもレクスの手の骨が折れそうだ。
[良い点] > 剣の腕も、能力値も、アーツの扱いでも、アインは全て俺の上を行く。 この世界で唯一、誰に対しても持っていたかもしれないアドバンテージ、「アーツの扱い」でも劣ってしまうのか……。 税抜き…
[良い点] 猫耳猫エイプリルフールから来ました! [一言] エタるかエタらないかドキドキしながら更新を待ちます。書籍がなろうを追い抜くってこともあるのかしら?
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