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ACTー特殊犯罪捜査係第5課  作者: あるかでぃあ
1/1

Abnormal Crime Task force

「____やってしまった。」


都会の深い街並みの中、「私」こと鈴代すずしろ 蘭は携帯電話を片手に小さな溜息をつく。


今日は私史上最も悲惨な事件が起こったのだ。


時は2時間前まで(さかのぼ)

田舎から東京都内に上京して早2日、私は将来が懸った警視庁の採用試験でのことだった。

1次試験の作文はまあぼちぼち出来ただろうとは思っている。


問題は2次試験の面接。待合室に行く前にトイレに寄ろうと思って庁内をうろついていたら道に迷ってしまい、目の前にいる職員らしきスーツ姿の男性2人を見つけたので声を掛けた。


「あ、あの~すいませんちょっとお尋ねしたい事が…」

二人の男性が振り返ろうとしたその時、


「キャッ!!」


私は何もない所で躓いた。

そして事もあろうに一方の男性の顔に頭突きをしてしまった。

その黒いスーツに身を包んだ男性は硬い表情をこちらに向け睨みつけるように私を見た。

すると青いスーツを着たもう片方の金髪の男性は私に手を差し出し、掬い上げてくれた。


「大丈夫?怪我は無いかい?」

と柔和な表情で心配してくれた。

私はこの事態にパニックになってしまい、

「す、すいませんでした!!」

とその場を逃げ去るように駆け抜けていった。

トイレは自力で見つける事が出来たのだが…


そんな小さな事件が起こった後、二次試験の面接の時間が来てしまった。


「1187番、入りなさい」

私はノックの後、面接室のドアを開けて一礼した。

眼前には一つの椅子と見るからに偉そうな人達が堂々と座っている。

そして私は思わず固まった。その中には先ほどの男性2人組がいたのだ。

そんな私の表情を見て椅子に座っている先程の金髪の男性は吹きだしてしまったようだ。

頭突きの被害者である男性は咳払いを一つ。私は気が気ではなかった。まさかさっきの相手が面接官だったなんて___

再びパニックになってしまった私のその後の記憶は残っていない。当たり障りのない質疑応答をして終わった。あえて言うならばその件で悪目立ちした位であろう。


「…それでお前すっ転んで面接官に頭突きしたのかよ…ある意味注目株だわな…プクク…」

 蘭の幼馴染である悠太は電話越しに笑っている。


「笑い事じゃないの!もう私本当にダメかもしれない…」


ガックリ肩の力が抜けた。幼い頃から目指していた警察官という夢がこんな事で潰えるなんて…。


「まあ、流石にわざとじゃないんだし、お前の人柄とか個性はきっと警視庁の人たちの心に届いたさ」


「ならいいんだけどね…ごめんありがと、話聞いてもらって。」


「おう!合否の結果良かったら知らせてくれよ!」


分かった。と返事をして電話を切る。誰かにこの大きな不安を話せただけでも何だかリラックスできた気もする。

一度の安息を終えて帰路につく。


東京の駅は宇宙だ。人々は自分には目もくれず、広い世界でもしかして自分はたった一人なんじゃないのか。居場所はいくらでもあるのにどうも息苦しさを感じる。


今日の面接で上手くいった人もこの駅を歩いてるのかな。都会の息苦しさの中でわずかな親近感を求めようする。上京して借りた新居への路は陰鬱だった。田舎にいたときの日常が恋しい。あの頃は都会の非日常をあれほど欲しがっていたのに。


重い足取りで道を歩く。何だか周りがざわついているような気がする。あたりを見回すと人が倒れこんでいる。倒れている男性は何だか呻いているようだ。


駅員が早急にやってきて声をかける。男性は聞こえていないのか、ずっと呻いている。駅員は見切りをつけて他の駅員に担架を運んでくるように指示したその時、男性の体が膨らんだ。筋骨は体の体積をゆうに越えて発達していく。


次の瞬間、倒れこんでいた男性は異常なまでに隆起したその腕で駅員を弾き飛ばすと、駅員は間髪入れずに数メートル飛んでいった。

それから悲鳴が駅構内に飛び交い、蜘蛛の子を散らすようにあんなにいた人の大群がいなくなった。


私もみている場合ではない。そう思って体を動かそうとするが動かない。人生で感じたことない危険に冒された私は未知の現状にどうすればいいのか分からなくなった。


じっくりとこちらへ男は近づいてくる。あの駅員を弾き飛ばした瞬発力、逃げても結果は火を見るより明らかだ。刺激しないように動かないのが最善と体は判断したのだろうが、このままでは埒があかない。


そうこう思考を進めるうちに男はもう眼前にそびえ立っていた。視界に捉えた私が次の標的だろう。男は呻き声をあげながら巨大な腕を私に振り下ろす。


私は瞬時に体を翻し後方に飛んだ。普段聞かないような音がした。私がさっきまでいた所はタイルごと粉々になっていた。


完全に逃げ場を失った私に男は詰め寄り、もう一度大きな拳を向けた時___


「パンッ!パンッ!」


二発の銃声が響いた。男は銃弾を体に受けよろめき、体を崩す。

振り返ると、日中私が頭突きをした警視庁のあの人が銃を持って立っている。その横には駆けつけた鉄道警備員もいる。


「怪我はないか」


男性は私に声を掛ける。私は頷く。


「あれは…一体なんですか?あんなのあり得ない…」


「そう、あれは普通の人間ではない。多少撃ったところで死んだりはしない。だから警告射撃もしなかった。もうじき起き上がるぞ、下がってろ。」


会話をする間もなく男性は銃を構える。


「これからもう数発撃つ。抵抗しなければそうしなくて済む。」


男性は冷静な口調であの怪物に警告する。

怪物はよろめきながら立つと男性に向かって走り出した。


男性は距離をとりながら発砲する。怪物は流血するものの止まる気配はない。男性は即座に銃を構え直す。


「アルテミス、起動。」


すると銃が折り紙のように展開され形状が変化する。

銃の先端に眩い光が集まる。怪物は男性に殴りかかろうとする。壊れた床を見る限りあれを人が食らったら間違いなく重傷だ。最悪の場合死んでしまう____


「対象を攻撃する。」


次の瞬間男性は銃のトリガーを引くと光弾のようなものが銃口から放たれ怪物は被弾する。光弾は命中すると怪物を弾き飛ばした。怪物はもう動く気配を見せなかった。


男性は銃を元の形状に戻す。私は開いた口が広がらなかった。

状況を飲み込めなかった。この混沌とした現場に新たな人物が見える。茶髪の女性と、昼間の面接のときにこの男性と行動していた金髪の男性だ。


「他の改札の規制も解いて、現場処理はほぼ全部終わったわよ」

女性がそう言うと、男性は

「こちらの犯人の対処が遅れてしまい申し訳ありません」と女性に謝罪する。警視庁の中でも目上の人物なのだろうか。


「いや〜早くて助かったよ〜それにしても最近似たような事件が多いね〜」と飄々と金髪の男性が話し掛ける。


「同一犯ですね、それも恐らくフィクサーの…」


次から次へと現れる新たな展開に私は混乱した。すると金髪の男性は、

「おや…君は昼間の志願者…だよね?奇遇だね〜」

と私に語り掛ける。


「こんな偶然があるとは思いませんでしたよ…」と私はため息を着きながら言葉を返す。

すると先ほどの入ってきた女性は

「あなたも巻き込まれて大変でしたね。もう安心して大丈夫ですよ」と私を抱擁する。咄嗟の出来事に驚いたが、私も女性の背中に戸惑いつつも手を寄せる。


「よし、じゃあこれで終わりと。」

そう言って女性はほっと肩をなでおろす。


私はそろそろ既に生まれている多くの疑問を解消したいところであった。今日はあの怪物といい、あの男性の銃といい訳の分からないことが多すぎる。


「結局何だったんですか?あの怪物って」と私は3人に訊く。


すると少し間が空いて男性は困ったような様子で女性に話し掛ける。

「どうするんですか…奥田さん。班長も。」


奥田と呼ばれた女性は慌てた様子を見せて、金髪の男性は笑っている。班長と呼ばれた金髪の男性は意味深に


「僕は歓迎したいと思ってるよ〜まあもう無関係って訳じゃないし」と笑いながら言うと、もう一方の男性はさっきより困った顔をしてため息をつく。


「ごめんなさい、私もさっき沢山仕事してきたから疲れてるのかしらね…もうそうするしかないわね。」などと困り顔で苦笑いしている。


私は全く状況がつかめないまま、回答も得られず困惑していた。


「さっきからどういうことなんですか?私はどうすればいいんですか?」と率直な疑問をぶつける。


女性は警察手帳を開く。

「警視庁総務部広報課の奥田です。今日は事件に巻き込んでしまって申し訳ありませんでした。詳しいことはこの人に話を聞いてください。ではお願いします」

そう言い、現場から去っていった。

すると金髪の男性は、

「よし、じゃあ今日から君はウチの5課に配属ね!詳しいことは明日話すよ、じゃあまた明日庁舎に来てね〜」と私に言う。


私はその後、事件現場から出るように言われそのまま帰路についた。幸い何の怪我もなく無事に住んでいたからこその帰路であった。


私は結局何の情報を得るわけでもなく、何だかんだで警察官としての生活が明日から始まるようだ。正直幼い頃からの夢がこんな感じに叶うとは少し複雑な気分だ。面接が終わったときの無力感こそ今は無いものの。


その後、地元の両親に今日あった事を伝えると、私が新天地で落ち着いたらまた連絡をくれと伝えられた。おそらくその怪物の件は想像か何かだと思われているのだろうか。


疲れた、もう休もう。本当に警察官になるのだろうか、信じられない。とりあえず明日また向かってみようか。疑念とともに少しの期待を持って新居に向かった。


新しい棲家となるアパートの玄関の扉を開け、ただいま、と声を掛けたが、誰もいなかったことを思い出した。少し寂しい気分になって玄関先に出るとその日は半月だった。周りに見られていないのを確認してから玄関先で小さくジャンプした。




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