村の現状
ティリアのおかげでゴブリン達は全滅されて村の全権を手に入れた緋陽はガチャで手に入れた斧で薪割りをしている。
「ふぅ」
爽やかな汗、適度な肉体労働。これまでパソコンやお偉いさんの相手などで過酷な社畜生活を送っていた緋陽にとってこういう肉体労働は気持ちが良かった。
次々と山積みになっていく資料、会議のレポート作成、案件の変更、会議、交渉…………etc。
終わらない、むしろ増えていく紙の束に休憩時間も休日も使って一枚でも多くを終わらせようと社畜根性全開で頑張ってきた。
異世界に来てまで働きたくない、という気持もなくはなかったけど仕事中毒のせいか、何かしていないと落ち着かない緋陽は試しに薪割りをしてみたけど予想以上に楽しかった。
肉体労働の良さを知った緋陽はサラリーマンではなく工場や現場で働く仕事をしていればよかった、と今更ながらに思う。
「あの、神様……………神様が自ら働かなくとも」
「いえいえ、俺が好きでやっているだけですし、それに男手も足りないのですから」
神様を働かせている事に申し訳なく思いながらこえをかけてくる村人にそう答えて村を見渡す。
「やっぱりゴブリンの襲撃による被害は大きいか………………………」
「はい…………」
ゴブリンがこの村を襲った為にこの村の男達は村を守る為に殆どが命を落とした。女子供はいるも人手が減ったのは事実だ。
男手も欲しいけどそれ以前に人も少ない。
「まぁ、食料は今のところ問題はないけれど」
「はい。天使様のおかげです。私もドラゴンの肉など初めて口にしましたよ」
「俺もですよ」
ハハハ、と苦笑いを浮かべる緋陽の視線の先にあるのはドラゴンの鱗と骨が村の端に置かれている。
ゴブリンを倒した次の日にティリアが近くにいたドラゴンを狩って持って来た。自分よりも何十倍も大きいドラゴンを片手で、それも飛びながら。
そこからドラゴンの解体ショーが始まった。笑顔のままドラゴンの鱗を削って腹を裂いて内臓を取り出し、カットしていく。ドラゴンの返り血を浴びながらも笑顔のまま解体していく天使様には正直ゾっとした。
流石に子供達にはよろしくないので親子さんが目を塞いだのは正しい判断だと思った。
切り分けて半分はその日に食べて、残り半分は燻製にして保存食にして管理している。
ちなみにドラゴンの肉は美味しかった。特に尻尾。
そんなこんなでティリアのおかげで食料に問題はない。だが、農作業、村の補強、警備、色々としなくてはならない仕事は多いが人数もいない。
「その辺りはリックさんと相談するか………………………」
「村に人を招き入れたい、ですか………………………」
「ええ、ゴブリンの被害は大きい。今はまだいいかもしれませんがいずれは人手が足りなくなってしまいます。そうなる前に村に住む人を増やすいい方法はありますか?」
その夜、早速リックに相談する緋陽の言葉にリックは考え込む。
「そうですなぁ………………この近くに街がありますから多くの人はそちらに行きますから難しいでしょう」
「そうですか………………………」
誰だって村よりも街に行くのは当然だ。そちらの方が生活にしろ仕事にしろ都合がいい。
誰だって自分に利益がある方を選ぶ。街か村か考えるまでもない。
「しかし、神様も信者を増やすのでしたら街の方がよろしいのでは?」
「そうでしょうね。それは誰だってそう考えます。俺でなくとも他の神も街で信者を増やそうとするでしょう。そんな中で俺が行っても信者になってくださる人は少ないでしょう。この村と街のように」
まだ新人もいいところの神と多少は名の知れた神。選ぶなら後者だろう。
「それよりも今はこの村の地盤を固める方が優先です。今のこの村の問題は人材不足。とにかく人手が足りない。人を増やす方法を考えないといけません」
人が増えればそれだけ現状を回復させることができる。その方法について話し合うと。
「では、奴隷などどうでしょうか?」
「奴隷?」
「はい。街には奴隷商人が奴隷を売買しております。奴隷を買ってこの村に住むことを条件に労働をさせる。というのはいかがでしょうか?」
「なるほど………………………」
「金銭もティリア様が狩ってくださったドラゴンの鱗や骨を売れば問題はないでしょう」
悪くはない。勿論奴隷だからと労働を強制させるつもりはない。だが、奴隷なら一気に人材も確保することができる。
「ではその案でいきましょう。早速明日にでも街へ行って交渉に参りますので一人、案内役をお願いします」
「お任せ下され」
取りあえずの案として奴隷を買って村に住まわせる。で、落ち着いた。
そこから先は様子を見ながら少しずつ改善していこう。
「………………………って、あれ? 俺、働いてねぇ? 自由に気ままに生活するはずなのに」
今更ながら働いている自分に驚いた。だけど、村の現状を考えれば最初ぐらいは働かないと後々楽はできない。
「マスター。お話は終わりましたか?」
「ああ、取りあえずは明日は街に行くから一緒に来てくれるか?」
「勿論です。どこまでもお供します」
笑顔で即答する。
ティリアがいたら怖いものなしだ。後は交渉は自分の力でどうにかするしかない。
―――の前にすることがある。
周囲にナビの姿はいない。恐らくは村の子供達の面倒を見ているのだろう。なら今の内に。
「ティリア。お前に話があるから部屋に来てくれ」
「はい」
ティリアを部屋に招き入れて緋陽は一度大きく息を吸って吐いて覚悟を固める。
「マスター?」
首を傾げて声をかけてくるティリアの顔のすぐ横の扉に手をつき、緋陽は顔を寄せる。
「ティリア。お前は俺の事をどう思ってる?」
俗に言う壁ドンをしながら真剣な表情で尋ねてくる緋陽にティリアは予想外の展開に顔を赤くしながら答える。
「わ、私の尊敬するマスターです………………………」
「それだけ?」
「お、お慕いしております………………………」
胸元でぎゅっと手を握りながら想いを口にしてしまう。それを聞いた緋陽は構わずに続ける。
「ティリアみたいな美少女に慕われるなんて男として本気で嬉しいし、俺もティリアのことを本当に頼りにしている。お前が隣にしてくれるだけで安心する」
「は、はい………………いつまでもお側でお仕えします」
「ああ、頼む。きっと俺はもうお前の事を特別な存在だと思ってる。若返ってはいるが、29歳のおっさんにこんなことを言われても気持ち悪いだけかもしれないが」
「いえ、マスターはマスターです。見た目も歳も関係ありません」
「…………………ありがとう。そう言ってくれるだけで嬉しい」
「あ…………」
ティリアの頬に手を当て目を合わせる。
「俺はこれから神様として多くの信者を受け入れるつもりでいる。時には異性と話したり、触れ合ったりもするけれど素の自分を出せれるのはきっとお前だけだ。だから、これからも俺だけの天使でいてくれ」
頬に触れられている手に触れながらティリアは頷いた。
「はい。ティリア・エンゲルの全てはマスターだけのもの。これからも貴方様のお側に」
「ありがとう」
そっとティリアを胸元に寄せて抱きしめる。ティリアも背に腕を回して抱き着く。
そのティリアの死角で緋陽はガッツポーズを密かに取っていた。
(まさかオタク時代で培ったギャルゲー知識が役に立つ時が来るとは………………………)
ヤンデレ天使を制御する為にギャルゲー知識をフル活動させた緋陽は成功したことに安堵する。
万が一にヤンデレ天使であるティリアが暴走でもしたら間違いなく殺される。これから人と接点も増える前にどうにか首輪をつけておきたかった。
ヤンデレは自分以外の異性との触れ合い拒む。最終的には『貴方を殺して私も死ぬ!』なんてことにならないように前もって自分だけはこの人にとって特別な存在と教えておく必要があった。
それなら多少嫉妬する程度で収まる。少なくとも殺される可能性はこれでぐっと減ったと信じたい。
自分がガチャで召喚したキャラクターに殺されるなんて笑えない。
とにかく危険性は減ったことに安堵すると、不意に浮遊感が緋陽を襲った。
「え…………?」
ティリアにお姫様抱っこされたままベッドの上に寝転がされてティリアは緋陽の上に跨る。
「ふふ、マスターはなにもしなくていいですよ? 全て私にお任せください」
「それ、男側の台詞だと思うのですが………………………あの、ティリア様? 目がちょっと怖いんですけど、というより病んでいるんですけど!?」
「大丈夫ですよ、マスター。天井のシミを数えている内に終わりますから」
「いやいやいやいや! 男として嬉し恥ずかしいことですが! 逆! これ男女逆! それにほら、ムードとかも重要じゃないですか!?」
「ご安心してください。私は処女ですが知識はありますから」
「やったー初体験の相手が処女だー……………って言うと思ったか!? ストップ! 落ち着こう! まずは、そう、会話だ! 話し合おう!」
「必ず幸せにしてみせます」
「だからそれは男の台詞だからぁぁああああああああああああああああ!!」
こうして緋陽はヤンデレ天使に初めてを奪われたのであった。
ということはなく、ナビがやってきたおかげで緋陽の貞操は守られたのであった。
だけど、ちょっと残念だと思うのは男として仕方がないことだ。