天使(重愛)
現代社会では29歳の歳まで社畜として働き、終には過労死で命を落としてしまった緋陽は自由を司る神様として転生し、転生特典としてガチャを回して美少女天使を引き当てた。
前世ではオタクで友達も少なく当然彼女もいなかった。たまにオタク仲間でイベントに参加するぐらいであとは引き籠もっていたに近い青春を過ごして、社会に出たら社畜として働く毎日。
当然結婚もできずそれどころか童貞も卒業できずに死んでしまった。そんな緋陽に自分のことをマスターと呼んでくれる美少女、それも天使から言われたことに感無量だ。
「うぅ………………涙なんて何時頃だろう」
「マスター、お気を確かに」
優しく微笑んで声をかけてくれるティリアにまたも涙が溢れ出る。美少女それも天使と話せてモテない男心とオタク心が二つ同時に満たされた気がしてならない。
「ああ、死んでよかった………………………」
「そこは生きててでは?」
ナビが何か言うも緋陽にはどうでもよかった。ただ、今の幸せを一秒でも長く堪能したい。
「えーと、話を進めてもいいですか?」
「………………………………ああ、頼む」
頬を掻きながら話を進めていいのか尋ねるナビに緋陽は渋々頷いた。
「ヒヨウさんはご自分が何を司る神様になられたのでガチャもそれに変動されました。そして、ガチャから召喚されたキャラクターは召喚された時から自然にヒヨウさんの従者となります」
「……………………つまり、俺はティリアのご主人様? エロい命令とかできるの?」
「…………………それはできますが」
「うん、ごめん。今のは俺が悪かった」
侮蔑の眼差しに耐えられずに即座に謝るも、隣にいるティリアは微笑む。
「マスターが望まれるのでしたら私はいいですよ?」
「天使か!!」
「天使ですよ。それとガチャで出てきたアイテムも壊れるまで使用可能です。試しに何か使ってみたらどうでしょうか?」
「そうだな…………………じゃ、この若返りの秘薬だな」
SRのアイテム。若返りの秘薬。見た感じは丸薬のように見えるために本当に若返るのかが不安だったが、緋陽は早速それを口にして飲み込む。
「うっ!?」
飲み込んだ途端に襲いかかる嘔吐感。思わず吐き出しそうになるも咄嗟に手で口を押えて耐えると体中から煙が噴き出て肉体が凄い勢いで若返っていく。
数十秒もしないうちに緋陽は29歳のおっさんの身体から若い肉体へ変化した。
「お、おお………………本当に若返った。身体が軽い、力が漲ってくる……………………そうだ、これが歳をとる度に失っていく若さだ」
「とても格好いいですよ、マスター」
「思っていたよりも美形ですよ? どうしてオタクになられたのかがわかりません」
自分の体格を見て高校生ぐらいまで若返った緋陽は失ったものを取り戻せた達性感を抱く。
「さらば老いた俺の人生。こんにちは新しい俺の神生………………………」
「感動は後ほど。次に召喚されたキャラクターのステイタスは携帯から見ることができます」
「へぇ、それじゃ早速―――」
ティリアのステイタスでも見ようと携帯を操作しようとするが、ティリアが緋陽の腕を掴んで止めた。
「マスター。私のステイタスを見られるのはちょっと………………………」
恥じらうように頬を赤くしてもじもじするティリアに緋陽は見るのをやめた。
「ああ、そっか。そうだよな、女の子だもんな」
ステイタスといえば本人の全貌を記されているから見られたくないところもあるのだろう。
「あ、このウンディーネのを見てみるか………………………」
SRキャラであるウンディーネ。水の精霊で有名なキャラの姿は少女というよりも幼女だ。ただ少し耳が尖っているのが特徴的だが。
召喚する前にステイタスを確認してみる。
名前:ウンディーネ
種族:精霊
性別:女性
Lv:30
HP:25000/25000
MP:34000/34000
筋力:1300
耐久:1100
敏捷:1600
器用:2400
魔力:5000
〈アビリティ〉
水系統魔法・魔力回復・魔力操作・水中呼吸・精霊視
「うわ、レベル高。どういうこと? 普通はLv1じゃないのか?」
興味本位でステイタスを見てみたら初めからLv30の精霊を引き当てた緋陽の携帯の画面を覗き見るナビはある推測を口にする。
「もしかしたらヒヨウさん。ヒヨウさんの司る”自由”の影響かもしれません。自由だからこそ何が出てくるのかが分からない。恐らくは召喚されるキャラクターやアイテムだけではなくレベルやステイタスといった部分にも自由に変動している可能性が高いかと」
「………………………それが今回はたまたまいい方に出た、と?」
「その通りだと思います」
自分で決めておきながら今更冷汗を流す。最悪の場合はとんでもないものまで召喚していた可能性だってあった。今回いいものを引き当てたことができたのは本当に運がよかっただけだ。
「ま、まぁとにかくいきなりSSRキャラであるティリアとLv30のウンディーネがいてくれるのは大きい。早速召喚するとしよう」
「あ、少しお待ちください。マスター」
召喚しようとしたら静止の声を投げられた。
「マスターはまだこの世界に転生したばかりです。それをいきなり二人も召喚して戦闘にでもなれば大変でしょう。まずは私だけで慣れてからの方がよろしいかと」
「あー、そっか。言われてみたら一理あるな」
頭を掻きながらティリアの話に納得する。
まだ知らない世界で何をすればいいのかもわからない。戦闘だって素人以下だ。まずは環境に慣れるところから始めた方がいいティリアの提案には頷ける。
とりあえずはウンディーネの召喚は後回しにする。
「では、説明も終わりましたので後は御自分で体験してみましょう。この小屋を出たら正真正銘の神様としての新しい生活が始まります」
「よし」
息を大きく吸って吐き出し、頬を軽く叩いてボロ小屋の扉に手をつける。
新しい世界、新しい神生活。これから何が起きるかは全くの未知。その未知の扉を緋陽は開けた。
青白い空に浮かぶ島、見たこともない動植物。
異世界にやってきた緋陽は笑みを作る。
「では、参りましょう。マスター」
「ああ、よろしく。ティリア、ナビ」
「はい」
「お任せください」
頼りになる二人と共に緋陽は一歩を踏み出す。先頭にたって周囲を警戒しているティリア。
緋陽はやっぱりどうしてもティリアのステイタスが気になって内心で謝りながらこっそりとティリアのステイタスを見てみた。
名前:ティリア・エンゲル
種族:天使
性別:女性
Lv:78
HP:64000/64000
MP:85000/85000
筋力:10400
耐久:10700
敏捷:11000
器用:9700
魔力:10500
〈アビリティ〉
光系統魔法・飛翔魔法・強化魔法・剣技・魔力強化・魔力回復・魔力操作・天眼・自動回復・異常耐性・速度上昇・高速飛行・加護・祝福
「………………………………」
言葉が出なかった。予想を遥かに超えるレベルとステイタス。これなら確かに見られたくはないと思うのも無理はない。初めからこんな高レベルに高ステイタスなら引かれると思う。
はっきり言って初めからチートを引いた緋陽はとりあえず頃合を見てからレベルやステイタスについて話そうと考えているとよく見たらステイタスに続きがあった。
〈キャラクター詳細〉
優しくも温厚でしっかりとした性格。高い素質と実力を併せ持ち召喚された者に忠を尽くす。何事にも笑みを崩すことは無く戦闘だけでなく日常でも頼りになる天使。しかし、彼女のマスターとなった者はどこまでも彼女に愛され続けるほどに重い。それこそマスターを監禁して独占したいほどに。
「………………………………………………………………………………………………………………………………ぇ?」
一瞬だけ思考が真っ白になった。
しかし、思い当たることはあった。ステイタスを見られたくない意味もウンディーネを召喚させないようにしたのも全てはマスターとなった緋陽を独占する為。
監禁して独占したいほどに愛が重い。それはつまり…………………………。
「あ、マスター。村が見えてきましたよ? あそこに行ってみましょう」
柔和な笑みを見せてくれる天使様はヤンデレだった。下手をすればこの天使様に殺される日が来るのではないかと思うと恐怖に震える。