神様に転生
東海林緋陽、29歳、社畜。
数日徹夜は当然。会社で寝泊まりも当たり前。休日出勤もアリのブラック企業で仕事だけの人生にある日突然と終止符が打たれる。
死因は過労死。
働き過ぎて死んでしまった緋陽は29歳で人生の幕を閉じたのであった。
「ヒヨウさん、起きてください。早く起きないと遅刻しますよ~」
「遅刻!? まずい! もしかして寝落ちしちまったのか!? クソ、まだ次の案件も片付けてないのに!」
遅刻。という言葉に反応して一瞬で意識を覚醒させてネクタイをしめていざ出勤………………できなかった。
「あれ? ここ、どこ?」
緋陽が目を覚ました場所は今にも崩れそうなボロ小屋。明らかに自分の部屋ではないことに気づいた緋陽は納得した。
「なんだ、夢か…………まったく、夢なら巨乳の姉ちゃんの乳ぐらい揉ませろってんだ」
夢と悟り、目を覚まそうと藁の上に寝転がる緋陽。だが、それを阻む者がいた。
「コラー! 起きろー! ここが現実ですから起きて私の話を聞いてくださーい!!」
誰かに起こされて起き上がる緋陽が目にしたのは手の平サイズの妖精だった。
蝶のような羽を持つ妖精の少女の姿に目を見開いて驚愕する。
「よ、妖精…………………? ついに幻覚を見るほど疲れたのか………………………」
「違います! 夢でも幻覚でもなく現実を直視してください!」
「そりゃ休みもなく一日の殆どを仕事で済ませていたら疲れも溜まるか………………………」
「私の話を聞てください! ここは現実で、私は本物で、貴方は一度死んでしまってこの世界に転生しました!!」
「死んだ? ……………………ああ、そういえば仕事場で倒れた記憶が、あれ、マジで? 俺、死んだ!?」
ようやく自分が死んだことを自覚した。
「まぁ、仕方ないか」
「ええ!? そんなあっさり!?」
しかし、それをあっさりと認めた緋陽に今度は妖精が驚かされた。
「えっと、何かこう、ないんですか? あれをしとけばよかったとか、家族に会いたかったとか………………………」
「ないな。まぁ、俺はオタクだったから昔はアニメや漫画をよく見ていたけど、働き出してからは仕事だけしかしていないし、両親はもうとっくに他界していたから別に心残りはないな」
「そ、そうですか………………………」
あっさり自分の死を受け入れた緋陽に驚かされながらも妖精は気持ちを切り換えるように咳払いする。
「では改めましてヒヨウさん。私の名前はナビ。この世界で神様となった貴方をサポートする妖精です」
「ん? 神様? 俺が?」
「はい。貴方は一度死んで神様転生を果たしました。貴方はこれから先の人生は神様として始まります。まぁ、まずはご自分の携帯を取り出してください」
「ああ」
ナビに言われた通りに携帯を取り出す。そこのナビが触れると何か文字が出現した。
名前:東海林緋陽。
種族:神(現在未定)
性別:男
年齢:29歳
Lv:1
HP:1500/1500
MP:2000/2000
SP:0/∞
筋力:400
耐久:900
敏捷:750
器用:600
魔力:500
携帯の画面にステイタスのようなものが出てきた。
「ゲーム?」
「それに似たようなものです」
コホン、と咳払いしてナビは説明を続ける。
「ここに映されているのはヒヨウさんのステイタス。レベルが上がれば変化します。レベルを上げる方法は自分を祟拝する信者を増やすもしくは徳を積むことです。ほらここ、SPがあるじゃないですか? これがヒヨウさんを祟拝する信者の数を現します」
「あ、SPじゃなくてSPってことね………………………」
「はい。信者を増やす方法はヒヨウさんが好きにしてください。お願いするのもよし、交渉するのもよし、とにかく信者が増えれば増えるほどいいこともあります」
「例えば?」
「ガチャが引けます。例えばSPが300溜まったとしましょう。つまりヒヨウさんは300人の信者がいます。その信者から信仰心をエネルギーとして変換してガチャを回せます。ちなみにガチャは300人で一連、1000人で十連です」
ナビは携帯を弄ると何か福引のような画面が出てきた。そこにはナビの説明通りに300で一連、1000で10連(SR一枚確定)と出ている。
「ガチャはN~SSR。レア度が高いほどいいですよ。ただし、いくら信者が増えても何回でもガチャが回せるという訳ではありません。一度消費したエネルギーを回復させるには一人につき一時間は必要です」
つまり300で一連のガチャを引けば300時間はガチャが引けない。
「新しく信者を増やしたり徳を積めばその分SPも増えます。それと転生特典として最初の一回だけはなんと! SSR確定十連ガチャが無料で引けます!」
「おお、それは助かる。ところでこの(現在未定)ってどういうことだ?」
「あ、それはですね。ヒヨウさんがまだご自分が何を司る神様になるか決めてないからです」
「自分で選べるのか? 便利だな」
「ただし、選び時は慎重にならないといけません。一度選択をしてしまえば二度と変えることはできませんし、この決定でガチャにも変動が生じます」
「どんな?」
「火を司る神となられましたら火に関わるものしか出てきません。ご自身が振るわれる神威も火だけです。ご自身が司るものしか引けない誓約となっています」
「じゃ、巨乳を司る神となったら巨乳にかかわるものしか出てこないと?」
「………………………そうですけど、そんなに大きいのが好きなのですか?」
「男の子は皆、大きいのが好きさ。しかし、確かに慎重に考えないといけないな………………………」
悩む。この選択で全てが決まると言ってもいい。
何を司る神様になるか、それは非常に悩むことだ。
一番無難なのは幸運を司る神様だろう。誰だって運気を上げたいはずだ。自分の運気も上がればガチャを回す時だってレア度の高いものが出てくる可能性だってある。
しかし、どうもピンとこない。
これまでの人生は社畜として仕事だけの人生を歩んできた。なら、せっかく得た人生、いや、神生は自分の自由気ままな生活を送りたい。
「一つ訊くが、信者は絶対に増やさないといけないのか? もしくは何かしらの悪影響があるとか?」
「そんなのはありませんよ。強いて言えばただレベルが上がらないぐらいですかね。レベルが上がらないと普通の人間と大して違いはありません」
つまり普通の人間として生活はできる、と。なら決まった。
緋陽は携帯を操作して自分が何を司る神様になるのかを決めた。
「自由の神様に俺はなるッ!」
年甲斐もなくどこぞの海賊のような台詞を叫ぶ。
自由を司る神様。なにものにも縛られない自由気ままに生活したい緋陽には打ってつけだ。
「じ、自由………………………」
ナビは戦慄する。予想斜め上を行くものを選んだ緋陽に。
ガチャも何がでてくるのかはわからない。それでも緋陽は早速ガチャを回した。
「何がでるかな~♪」
N 木の棒
R 魔導書(火)
HR 幸運の鈴
N 鍬
SR 若返りの秘薬
R 魔導士の杖
SR ウンディーネ
N 斧
HN ランタン
SSR ティリア・エンゲル
「お、思っていたより当たりを引いたな。じゃ早速SSRキャラを召喚、と」
『実行』を押す。すると画面が光輝きだしてSSRキャラが姿を現す。
その姿は天使だ。
黄金のように輝く金色の髪に金と紅の左右非対称の瞳。繊細な顔立ちは遠目でもわかるほどに整っており、その神秘的雰囲気と容姿に目を奪われる。白を基調した装束に腰には剣を携えている。なにより一番特徴的なのは穢れを知らないその純白の翼だ。
そんな彼女は緋陽に柔和の笑みを浮かべる
「召喚に応じて参上しました。ティリア・エンゲルと申します。召喚された以上身命を賭して献身しますのでよろしくおねがいしますね、マスター♪」
「ああ、よろしく頼む」
召喚した天使と友好の握手をする。