83話 小奈落
「よし、あれが次の<氷壁の迷宮>の管理小屋だ! そのすぐ向こうに<死者の迷宮>のものもあるはず!」
「使徒殿、行けるか?」
「もちろん! 任せて!」
おびただしい数の死蟲に埋め尽くされた霊峰チェカルの中腹、延々と登りが続く谷筋の底。
エリシュカという古代魔法使いが合流したサシャたち一行は劇的に突破速度を上げ、一気に次の未踏破ラビリンスの管理小屋まで肉迫していた。
そこまで速度が上がったのにはふたつ理由がある。
ひとつはサシャたちが突破に重点を置き、目の前の敵だけを斬り捨てて前進していること。そしてもうひとつは――
「ヒャッハアアア! いったん死蟲どもをまとめて片付けるぞ! 歌え精霊、世界の敵の腹に片っ端から風穴を開けるのだあ!」
――圧倒的な広域殲滅力を持つ、エリシュカが参入していることだ。
通常の対魔獣討伐では、魔法使いが一人いるだけで戦力が倍加するという。これまで対奈落ではその魔法が効かなかっただけで、戦う手段を取り戻した魔法使いの働きは凄まじいものがあった。
ここまでも要所要所で途方もない威力の大魔法を放ち、谷筋を埋め尽くすほどに増加した死蟲をその都度一掃してくれているのだ。
「うはははは! どうだどうだどうだっ! 奈落の虫どもめ、魔法使いの恐ろしさを思い知ったかあ!」
そんなエリシュカの手には、大切そうに小ぶりの布袋が握りしめられている。中身は彼女が<偽りの迷宮>でかき集めた例の灰。
途中何度も袋を開けてその灰を舐めているエリシュカによると、なにやらそれには古代魔法の増強効果だけでなく、魔力の回復効果もあるらしい。舐めるほどに上機嫌になり、終いにはケタケタと笑い出すようになった彼女だったが、その腕は確かである。
今回もエリシュカの大きな身振りに合わせ、無数の氷弾が見渡す限りの地面から噴き上がって無防備な死蟲の大群の腹を下からズタズタに引き裂いている。
古代魔法の売りはその自由度だというが、地を這うムカデ形の死蟲にとって防ぎようのない、相性を踏まえた痛烈な威力の広域殲滅魔法だった。
「エリシュカさま、さすがです! さあ行きましょうサシャさま! 今こそ管理小屋に突入するチャンスです!」
「――ねえヴィオラ、エリシュカって大丈夫だよね? 魔狂いとは別口の、灰狂いとかになってないよね?」
今にも駆け出しそうなヴィオラに、思わずサシャがずっと気になっていたことを尋ねた。
エリシュカの古代魔法で、確かに管理小屋までの道は開けた。だがその自らの魔法の成果を前に、腰に手を当てて高笑いしているエリシュカの姿がなんというかその、ちょっとアレなのだ。……普段にも増して。
「エリシュカさまは以前から魔獣討伐に出るとあんな感じです! ひゃっはあ、とかは口癖で! さあそんなことより!」
「そ、そうなんだ。分かった、安心してスフィアに集中することにする!」
いや、それはそれで安心していいのか?と若干の疑問を残しつつも、サシャは先行したヴィオラを追いかけていく。
ちなみにヴィオラが口にした、ひゃっはあ、という口真似は妙に可愛らしく、同じ台詞でも人によって印象が全然変わる、改めてそんな事実を知った瞬間でもあった。
「使徒殿、急いでくれ! 次のラビリンスはすぐ近く、出来れば二箇所一気に片付けてしまいたい!」
「サシャ、私はイグナーツ殿とこの付近を掃討しておく! エリシュカを連れていけ、スフィア破壊後の石室封印要員だ!」
「分かった! エリシュカ、管理小屋の中はヴィオラと片付けるから後からゆっくりついてきて!」
サシャがそう叫んで先行するヴィオラに並び、広域魔法で虫の息となっている死蟲の海を二人揃って駆け抜けていく。
――弱々しくもがきながら、足の踏み場もないほどに折り重なった大量のそれら。
奈落の先兵相手に普通の魔法は効かないが、精霊由来の古代魔法なら一発でこの威力だ。今後の奈落との戦い方、それが一変するのは間違いのないところかもしれない。
サシャ個人としても、これまでは魔法使いとの共闘は出来るだけ避けてきたものだった。が、古代魔法ならここまでの規模のものであっても、怖気が走ったりは全くない。個人が剣や槍で戦う量には限界があり、共に戦う古代魔法使いが増えることは大歓迎――
「サシャさま、あの管理小屋から出てくる量は確かに多いです!」
サシャの物思いを、ヴィオラの声が遮った。
言われてみれば死蟲を踏み越えながら走る二人の先、すぐそこまで近づいた管理小屋から、かなりの量の新たな死蟲が太い奔流となって次々に流れ出てきている。
正面玄関の扉が壊されるどころか、周囲の壁までが大きく破壊されているのだ。それで開いた穴の全てから隙間なく死蟲が溢れ出してきているさまは、まるで決壊寸前の堤防を見ているかのよう。
「あれ、でも! あの量だけではやはり辻褄が合いません! まさか本当に他のラビリンスからも――」
「ヴィオラ、先に行く!」
ヴィオラが息を飲んだのは、眼前の管理小屋から出てくる量と、これまで散々戦ってきた谷筋を埋め尽くすほどの死蟲の量を対比してしまったからだ。
このすぐ奥にあるというもうひとつの未踏破ラビリンス、それを合わせたとしても到底足りない。確かにこれまで対処してきたラビリンスよりは全然多い。が、だとしても一体いくつのラビリンスから死蟲が出てきているというのか。
「こりゃ本気で潰しにかからないと!」
思わず速度が落ちたヴィオラとは対照的に、それで速度を上げたのはサシャである。
「目の前のスフィアを潰さなきゃいけないのは一緒っ! たとえそれがあと二つじゃなくても、むしろそれなら尚のこと早くここは片付けるよっ!」
サシャからしてみれば、時間をかけていられない理由がもうひとつ増えただけのこと。これまでも遊んでいた訳ではないが、もうなりふり構わずやるしかない、そんな切迫した焦りが彼を突き動かしていく。
「うおおおお!」
一気に最高速度まで加速し、ありあまる青の力で邪魔な死蟲を炎上させながら彗星のように管理小屋に肉薄するサシャ。そこで【ゾーン】を大きく展開し、精密な空間把握を土台にそのまま新手の隊列に突っ込んでいく。
多少の怪我は許容範囲。
ただでさえヴァンパイア由来の高速治癒力がある上に、今のサシャの体にはその源たる青の力がこれでもかと充満しているのだ。
出来るだけ足を止めずに済む、理想的な突入口を探して――
「ここだっ!」
――新手の死蟲が複雑に絡み合って這い出してきている管理小屋の戸口、その上部に残された僅かな空間。
その突入口をしっかりと見据え、サシャは渾身の力で跳躍した。
仰け反るようにサシャを見上げる新手の死蟲群、ぐんぐん近づく戸口の僅かな隙間。咄嗟の大跳躍はサシャの狙いどおりの軌跡を描き、サシャはその突入口に勢いよく体を割り込ませた。
同時に炸裂する蒼焔。
足りないスペースを最低限だがサシャが双剣で切り開いたのだ。
過剰なほどに注ぎ込まれた青の力は誘爆するかのように密集する死蟲を激しく燃え上がらせ、しかも双剣はそこでは止まらない。
双剣が間に合わなかった死蟲の甲皮に肩口を切り裂かれながらも、サシャは力ずくで両手の双剣を振り抜き、返す刀でもう一度斬り上げて。
「うわっ、何これ!」
蒼焔に包まれながら屋内に飛び込んだサシャの目に映ったのは、管理小屋のロビーを胸の高さまで埋め尽くす無数の死蟲だった。一体一体が体長三メートルにも及ぶ、緋色の巨大ムカデ――それが蠢き絡み合いながら、潮のようにサシャが飛び込んだ出口へと流れてきているのだ。
「き、気持ち悪っ!」
これまで散々相手にしてきたそれら死蟲だが、さすがに生理的嫌悪感が背筋に走るサシャ。即座に【ゾーン】を展開し、後先を考えない渾身の乱撃を繰り出して――
強烈な閃光が、周囲の全てからその輪郭を奪い去った。
解き放たれた蒼焔はもはや極白色に光り輝き、使用者のサシャの視界ですら覚束ない。双剣を振り抜いた姿勢のまま、色も音も消え失せた数秒間をサシャが棒立ちで過ごした後には。
その場に残っていたのは、ロビー全体に薄っすらと積もった例の灰だけだった。
「――よ、よし」
今は時間との戦いだし、一気に片付けたかったし。
サシャは誰にともなくそう言い訳をして、全てのラビリンスに共通する、転移スフィアがある石室へと駆け出した。体調は今のところ問題ないし、とにかく早くスフィアを潰すべきなのだ。
見れば石室の扉が跡形もなくなっているのはもちろんのこと、石組みの戸口自体が大きく破壊され、壁一面と言ってもいいぐらいにぼっかりと大穴が開けられている。
その大きさと、扉付近だけを破壊された管理小屋の出入り口の大きさ――ふたつを比べれば、管理小屋の中にあれだけの量の死蟲が充満していたのも納得がいくというもの。それぞれを通過できる死蟲の量が違いすぎ、ロビーで大渋滞を起こしていたのだろう。
ということは、もしかしたら。
ヴィオラが懸念していた、流出している死蟲の量と残る未踏破ラビリンスの数の計算が合わないということ。それはこの次の管理小屋が、建物の体裁を為さないぐらいに破壊されていたとしたら、ひょっとしたら説明できてしまうかもしれない。
もしかしたら石室の中でも渋滞をしていて、ロビーでも更に引っかかっていたとすれば、ヴィオラの計算は根底から覆ってくれるかも――
そんなことが連想される石室の壁をサシャは素通りし、先ほどの乱撃の余波で蒼焔が延焼しているその内部へとまっすぐ飛び込んだ。
が、そこで。
「え、何これ……」
飛び込んだその場で、たたらを踏んで立ち止まったサシャ。
石室の中央に浮かんでいるはずの、元々ラビリンスの転移スフィアだったもの。先ほどの<赤の湿地迷宮>まではどんどん瘴気を濃くしながらも、確かにそこに浮いていたのだったが。
「サシャさま、無理はなさらず! それと、残念ながら生存者は――」
ひと足遅れて駆け込んできたヴィオラも、サシャ同様その場でたたらを踏んで立ち止まった。
「ま、まさかこれ」
「うん。多分だけど、奈落の……こども?」
二人の眼前にあったもの。
それは人の背丈と同じぐらいの直径を持つ、何とも形容しがたい空間の“穴”だった。
先ほどのサシャの蒼焔の影響か石室の入り口側は歪にへこんでいるものの、元々は球体だったろうと思われるその“穴”。
今、死蟲は出てきていない。
おそらく先ほどまでは続々と溢れ出ていたのだろうが、サシャの過剰とも思えた蒼焔が球形を歪に損ねたお陰か、今は止まっているのだと思われた。
石室内の死蟲もここまで綺麗に一掃しているし、あの威力ならさもありなんといったところである。こうやってまじまじと眺められる機会など、本来はあり得ないものかもしれなかった。
「たしかに怖いぐらいに禍々しい、穴、ですね……」
「見てヴィオラ、奥に」
瘴気渦巻くその中を透かし見れば、どこまでも続く暗く歪んだ別空間が広がっているのが分かる。そしてその奥から、こちらを窺うようにおびただしい数の死蟲や飛行蟲、巨岩蟲などがわらわらと蠢いているのだ。
それは遠い昔、子供の頃によく見ていた悪夢を思い出させるような、全てを放り出して泣き喚きたくなるような、けれども一度目にしたら細部まで確かめたくなる光景。
魅入られるように“穴”を覗き込んでいるサシャの頭に、徐々に鈍い痛みのようなものが――
「あ……」
「ちょ、ちょっとヴィオラ!」
唐突にへなへなと崩れ落ちたヴィオラを、サシャが隣で慌てて抱き止めた。
蒼白となっている顔を覗き込めば目や耳、そして口からもそれぞれひと筋の血が流れ出ている。
「え、ヴィオラ大丈夫!?」
慌てて癒しを注ぎ込むサシャ。
その青光がふんわりと腕の中の小柄な体に広がると、ヴィオラの顔色が少し良くなるのが分かった。ならばと癒しをもう一度贈り、さらにもう一度。
何度か癒しを続けて顔色は元に戻ったものの、ヴィオラは未だその琥珀色の目を開かない。呼吸はしっかりしてきたものの、どうも衰弱甚だしいといった具合に見える。
「……これってもしかして、“穴”を覗き込んだから?」
サシャも感じた頭の痛み。
先ほどの蒼焔のお裾分けが“穴”を未だにへこませていることを思えば、サシャの体内に満ちる青の力は充分な対抗手段になり得るのかもしれない。けれども、それを持たないヴィオラは。
「……どっちにしても、これは潰しておかないと。ヴィオラ、ちょっとごめんね」
サシャはヴィオラを背後の石床にそっと横たえ、大きく息を吸って立ち上がった。
直視を避け、視界の端で“穴”の様子を窺う。蒼焔で出来たと思しき正面のへこみは、呪詛のように滲みでる瘴気が集まって少しずつ治っているように見える。
「…………」
サシャは改めて思う。
転移スフィアが変質して出来たこれは、非常に危険なものだと。
青の力で対抗はできるようだが、それを持たないヴィオラがひと目見て倒れてしまった。もしかしたらこの“穴”は、本当に初期段階の奈落なのかもしれない、と。
さんざん噂されていたではないか、奈落とは巨大な底なし穴だと。
これまでにも誰か見た人がいるのだろうか。
ただ、あまり近くで凝視するとヴィオラと同じことになる。本来なら周囲には先兵が溢れ出てもいるだろうから、きっと遠くからちらりと見たに過ぎないとは思うけれども。
「全力で青を叩き込めば何とかなる……か?」
正確にいえば、“穴”が奈落なのではない。
先ほど垣間見えた先兵ひしめく異質な空間、そこと繋がる“穴”こそが奈落なのだ。
この転移スフィアと繋がっていた嘗てのラビリンスというヴラヌスの空間世界、それがどうなってしまったのかは分からない。ただ、垣間見えた光景からすると、あの異質な空間に喰われて消えた――そんな推測すら抱いてしまう。
「とりあえずは、この穴さえ壊しちゃえれば。もうひとつも同じだとすると、嫌な予感しかしないって」
軽く目を閉じて体内の青の泉からありったけの力を汲み上げつつ、誰にともなく独り言を漏らすサシャ。
今の眼前の“穴”は、大きさこそまだこのサイズだ。
そして、それならば、と納得がいく部分もあるのだ。
「まだ足りない。確実に今、これを壊せるだけの力を……」
これまでサシャはこの谷筋で戦いながら、うっすらと疑問には思っていた。
――なぜ相手は死蟲だけなのだろう、と。
ザヴジェルの防衛を考えれば、飛行蟲や巨岩蟲といった厄介な先兵がいないのはありがたいことではある。だが、なにか落とし穴があるのではないか、と不安にも感じていたのだ。
今、サシャはその答えを知った。
未だ“穴”が小さく、死蟲しか出てこれない――単純にそれだけのことだったのだ。
先ほど見えた中に、飛行蟲や巨岩蟲、そして他にも見覚えのない異形の化け物が大量にひしめいていた。けれどもそれらは、どれも“穴”より大きいものばかり。ムカデのような細長い死蟲ばかりが先に出てくる訳である。
「もう一度ここに戻ってくる時間なんてない。これ以上大きくなる前に、確実に壊しておかないと……」
だが、眼前のこの“穴”は、これまで焼き尽くしてきた転移スフィアの変異体とは格が違う。まさに初期段階の奈落、小奈落とでもいうべきものに進化してしまっているのだ。
もし壊し方が足りず、サシャたちが戻ってくる前に穴が再び成長して、大型の先兵が出てくるようになってしまったら。
飛行蟲がザヴジェルの騎士団らを悠然と飛び越え、オットーたち一般市民がいるファルタの街を我が物顔で荒しまわる光景がサシャの脳裏に浮かぶ。
「――うおおおお!」
そんなこと、絶対にさせない。
準備がついに完了し、サシャは制御できる紙一重の量の青の力を双剣に集中しはじめた。
両の刃がバチバチと濃密な紫電をまとい始め、それがみるみるうちに太く荒々しいものへと変わっていく。
そして、満を持しての――
「うおりゃあああ!」
――掛け値なしの全力攻撃が、未だ小さき奈落の穴へと叩き込まれた。
爆発するが如き猛烈な青光が全てを飲み込み、押しやり、上書きし。
まるで神罰のようだと、かつてイグナーツが評したその大技。それがその時に倍する力で解き放たれたのだ。
青を通り越して白となった焔が暴れ狂い、この世界に属さない邪な存在に喰らいつき、悉く焼き尽くしていく。
『……し子……其れこそ汝の…………や』
その時。
サシャの脳裏に、ひどく遠くから弱々しい声が聞こえた気がした。
その声は、サシャがザヴジェル行きを決めた時に囁いてきたものと同じもの。更に弱く聞き取りづらくはなっているが、以前ヴィオラが天空神の神託だと断言した、まさにその声だ。
『……て……外……虚……を…………せん』
かつて、赤子の時にクラールによって神隠しに遭ったサシャ。何のために、どのくらいこの世界から姿を消していたのか、そしてその間何があったのかサシャ自身も知らない。
けれども、今のサシャの攻撃の直後に語りかけてきたこのタイミングといい、どこか満足そうな声色といい。
『……て…………よ……』
最後は文字どおり、掠れて消えていったその声。
サシャの直感的なものではあるが、今回の行動はそれだけクラールという存在のお眼鏡に適ったものだったのだろうか、お褒めと激励の言葉だった気がしないでもない。
「でも、ちょっと何言ってるか全然聞こえなかったんだけど」
荒れ狂う白焔が徐々に収まり、ようやく周囲が見えるようになってきたサシャが小さくぼやいた。
とりあえず奈落の穴は綺麗に消滅してくれたようだ。今の石室の中には瘴気のかけらもなく、あの別世界への繋がりは無事に壊せたと思われる。
クラールの声のことは、もうこの際気にしないことにする。ヴィオラたちと違い、天空神なるものの裏事情を知ってしまったサシャからしてみれば、クラールに褒められたくてやった訳ではないのだ。後で姉のダーシャに相談すればそれでいい。それよりも。
「ヴィオラ、大丈夫だったかな」
サシャは背後に寝かせた大切な仲間を振り返り、その胸当てが規則的に上下しているのを確認して安堵の息を吐いた。
「さてと――」
予想外のことだらけだったが、この場所からの先兵の流出だけは止めることが出来た。
だが、ヴィオラはこんな有り様だし、彼女も気にしていたようにこの先のことが気がかりで仕方がない。
サシャは今は安らかに眠っているような可憐な姫君をどうしようかともう一度眺め、「ちょっとゴメンね」と声をかけて。




