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妖怪『目力』の涙。  作者: つちのこの子
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妖怪『目力』の涙。 上

 僕は一人暮らしを始める。今日はそのための荷物の整理だ。


「あーこれ、懐かしいなぁ……」


 僕が見つけたのは小さなメモリーカード。このメモリーカードの中には中学3年生の頃のクラスビデオが入っている。

 僕はどんなクラスビデオを撮ったのかすっかり忘れてしまっていた。


「今出てきたのも何かの縁、見てみよう」


 そう思い、僕はクラスビデオを撮ったときから使っている白いノートパソコンを探した。


 ― ― ―


 6月、僕たちは卒業前にクラスビデオを撮ることを計画した。

 今日がその撮影日だ。


「……ということになりました。これでいいですか?」


 川野さんはクラスに問いかけた。

 川野さんは甲高い声、というかロリボの元気で明るい女の子だ。彼女は人柄も良く、クラスビデオの実行委員も引き受けてくれた。


「それじゃあ机、後ろに下げて」


 そう伝えるとみんなが一斉に机を下げ始める。

 この指示を出したのは豊島さん、キャピキャピした雰囲気の女の子で、川野さんと同じく実行委員だ。

 僕は豊島さんとは2年生の頃同じクラスだったが、あまり好きではなかった。出来れば関わりたくない。そうまで思っていた。


 後ろで笑みを浮かべながらこっちを見ているのは河崎先生。僕のクラスの担任で、新婚ホヤホヤの国語の先生だ。

 彼女には特技がある。ずばり、それは目力だ。

 睨むだけで生徒を黙らすことができる。だから生徒の中では、『妖怪 目力』と呼ばれている。


 そんな河崎先生もこのクラスビデオ撮影に欠かせない役割を担っている。それは、ビデオの終盤に騒いでいる生徒を睨む、というものだ。そして睨まれた生徒は次々に倒れていく、そういう計画だった。


 河崎先生は最初、恥ずかしそうにしていたが、


「私も精一杯の目力、頑張るからみんなも頑張ってよ」


 と、生徒のために決心を決めたようだ。この時点ですでに目力がネタになり始めていた。


 河崎先生がカメラを持った先生を呼んできて、早速撮影開始……

 ではなかった。


 カメラを持った先生が来てから10分が経ってもみんなは友達と話をしている。そして男子はふざけ始めた。

 すると女子の何人かが、

「速く掃除して帰りたいんだけどぉ……」

 とつぶやいた。


 その瞬間、うるさかったはずの教室に一人の怒声が響いた。


「みんないい加減にしてよ!こんな雰囲気じゃクラスビデオなんて撮れるわけないでしょ!」


 声の主は河崎先生だった。


「みんな自分勝手にやってさ」


 そして、次の瞬間、

「私はクラスビデオは撮りません」


 そう宣言して河崎先生は教室を出た。



 河崎先生が教室を出たあと、みんなは反省したかというとそうではなかった。みんなヘラヘラしながら、


「オレ、部活だから速くいかなきゃ。終わってラッキー」

「さ、掃除して帰ろっと」


 そんな声がちらほら。僕はこの光景を目の当たりにして、悲しくなった。



 みんなが教室を出たあと、僕は急いで河崎先生に謝りに言った。

 河崎先生のいる職員室には他にも先生もいる。僕は中に入るタイミングを掴めず、長い時間その場で固まってしまった。


 ようやく決心がつき、先生のデスクまで歩いていった。


「河崎先生、本当にごめんなさい……僕たちが騒いじゃったせいでせっかくのクラスビデオが撮れなくて」


 すると河崎先生は、


「なんで君が謝ってるの、君はちゃんとやってたじゃん。それにみんなが変わるまで私は許しません。でも、いいに来てくれてありがとう。少しは気持ちが楽になったよ」


 その言葉を聞いて僕は決意した。


「みんなで一緒に謝ろう」


 と。

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