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6章 サックスパート〔西野楓〕

「みんな!春花先輩が曲を見てくださることになったよ!」

琴音先輩は、教室に入ってくるなり言った。

思わず、笑みがこぼれた。

「まじ?やった!」

と、湧真先輩が嬉しそうに言った。

重い空気が、少し軽くなった。

先輩方2人は嬉しそうだけど、うちは喜びきれなかった。

咲希。

咲希は、春花先輩が大好きだった。中学の頃からの付き合いだから、当然かもしれない。

きっと咲希がいたら、喜んだだろうに。

ここにいる誰よりも、春花先輩がいらっしゃることを嬉しがっただろうに……!

「お待たせ、みんな」

「春花先輩、よろしくお願いします!」

「何の曲をやるの?」

「今日は……」

と、琴音先輩が説明を始める。うちはそれを聞きながらも、咲希のことを考えていた。

そのうち、パート練が始まった。春花先輩は明るく楽しそうにうちや先輩に話しかけてきてくださったし、先輩も楽しそうに見えた。

うちもパート練を楽しもうとした。でも、なぜかいつものように楽しめない。

3人で曲を吹く。

楽しいけど、楽しいんだけど……楽しいのと同じぐらい、いやそれ以上に苦しかったし、悲しかった。

きっと春花先輩にはこの音たちは暗い音に聞こえているだろうと思った。自分の心の中を、そのまま音にしてしまっているだろうと思った。

大切な人を1人、失ってしまったのだから。


不意に、かつかつという音が聞こえた。

なんの音かと思い、その音がした方を振り返ると、黒板に文字が書かれていた。

『午後の予定 学指揮合奏に変更』

目を丸くした。

さっきまであんな文字は……無かった。

「……先輩!あれって……誰が、書いたんですか?」

「あれ!いつの間に!千尋かあっこが来たのかな?」

「……にしては静かすぎる。扉が開く音なんてしなかったよ?」

「あっこならやれそうな気もするけど……」

「でも、あっこ先輩はそんなことしたことないじゃないですか、違うと思います!」

「じゃあ、誰が……」

少し間が空いて、湧真先輩が呟いた。

「……この字、咲希の字じゃない?」

「えっ⁉︎ そんな、ことって……」

「でも、そうだよね……これ、咲希の字だよね……」

見覚えがある字だった。


昨日の出来事が不意に蘇る。


『予定変更の連絡が来ました!午後は学指揮に変更だそうです。黒板に書いておきますね!』

そう言って咲希は、黒板に書いたのだった。

『午後の予定 学指揮合奏に変更』

今黒板に書かれている文言と、全く同じ言葉を。


間違いなくその文字は、咲希の字だった。

しばらくの沈黙。

「……もしかしたら、咲希は心配で、この世から旅立てていなかったりして」

ポツリと呟いたのは、琴音先輩だった。

「えっ?どうして?」

「なんとなく、そう思ったの」

「……俺は違うと思う」

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