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27章 日常の中の魔法〔内川咲希と思われる人〕

「咲希ちゃん、晩ごはん作りを手伝ってくれる?」

「はい!」

「じゃあね、これで大学いもを作ってほしいんだけど……」

「はい」

「まずはね、芋を切って、ほんの少し茹でるてほしいの。そして、その後揚げて、醤油、黒ごま、そして水飴が混ざったものに絡めてね。分量はこのメモに書いてあるから」

「分かりました」

私は言われた通りに大学いもを作る。

最初は大変だったが、とても楽しかったし、焦がすこともなく完成させらせた。美味しそうな匂いが漂って来る。

「いい匂い!」

「そうでしょう?実は、この水飴には隠し味が入っているの。というのも、この水飴は間の国にある砂糖で作っているんだけどね、あの砂糖はここの砂糖とはだいぶ味が違って、とにかくここの砂糖よりも甘いの。だからそのまま使うとどうしてもこってりしてしまって。だから、隠し味として、その砂糖に私の故郷にはあってここにはない調味料、ナジアを混ぜてあるのよ」

「ナジア……ですか?」

「そう。ナジアは真っ白な根をよく洗って、天日干しにしてから粉にして作られるの。色はもちろん白くて、味や香りはこっちの食料に例えると、レモンみたいな爽やかさがあるの。そして、レモンほどではないけど、少し酸っぱいのよ。これを私の故郷の砂糖と合わせて水飴を作ると、とても甘いのにさっぱりとして食べやすいものになるの。じつは、ナジアの実は黒ごまによく似ていて、酸っぱくはないけど、根っこと同じように爽やかな香りを持つから、ほんの少し黒ごまに混ぜて使ったりもしているのよ」

「そうなんですか……面白いですね!」

「なんだか魔法みたいでしょ?そんなものは何も使ってないんだけど、日常の中に、こんな風にほんの少しだけ幸せの種を蒔いていくことが私の楽しみだったりするの。時には不思議な力を使って、時にはこんな風に工夫をしてね」

「すごいですね……!」

「でもね、幸せの種は誰でも蒔くことが出来るのよ。例えば、誰かが作った料理が美味しかったら美味しいと言って食べること、ただそれだけで相手の心に幸せの種を蒔くことができるのよ。……私は、誰かの心に幸せの種を蒔くことを『魔法』って呼ぶんだと思うの。きっと、昔はその種をまく時に不思議な力を使うことが多かったから、その不思議な力を魔法って呼ぶようになったのかな、って思うの」

「なら……魔法は誰にでも使える……ってことですか?」

「そうかもしれないわね」

中村さんのお母さんは、そう言って笑った。

「さあ、ご飯にするわよ!」

「はーい!」

その声、その光景。

それは間違いなく、私がここにやってきてからの日常の風景だった。

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