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20章 咲希と私〔岸辺成美〕

学校に着いてから、私は鍵を借りて音楽室に向かった。今日の1.2時間目はブランク。トランペットの練習をしに行くのだ。

音楽室に近づくにつれて、ピアノの音が聞こえ始めた。その曲は、私が知っている曲だった。この時間にブランクがあるのは私だけだと思ったんだけど……誰が弾いているんだろう?

扉を開けようと思ってゆっくりと引いてみたが、手ごたえがあって開く事はなかった。

あれ?おかしいな。

誰かいるなら鍵はかかっていないはずなのに。

私は今度は鍵を開けてから扉をひいた。

キイッ……

今度はちゃんと音楽室の扉が開く。

音に気がついて振り返ったのは、咲希ちゃんだった。

「あれ?咲希ちゃんじゃん!元気?授業には出なくていいの?」

そう言ってから気づいた。彼女の後ろが透けて見えていることに。

「……あなたこそ、授業は……」

「ん?……待って……もしかして、咲希ちゃん……まさか、死んじゃったの?」

咲希は、うなづいた。

「……霊感が、あるんですか?」

「うん、まあね」

なんだかおかしいなと思った。話し方がやけに丁寧な敬語を使った話し方だったからだ。

空気が少し気まずくなった。

「あなたの名前は……なんですか?」

その一言で、なぜ咲希がそんな話し方をしているのかが分かった。

そうか、咲希は記憶を失っているんだ……!

私は笑顔で言った。

「わたしは岸辺成美。高校3年生で、音大志望なんだ。だから、ここでトランペットの練習をしているの。元吹奏楽部で、学指揮をやっていたんだ。よろしくね」

「よろしくお願いします。昨日はいませんでしたよね」

「ああ、昨日はブランクが無かったから」

「ブランク……?」

「授業が入ってない時間のことだよ。いつもブランクの時間に練習してるんだ」

咲希は納得した様子でうなづいた。

「それ、なあに?」

と、譜面を指して聞いてみると、

「曲の譜面です。みますか?」

と言われた。

「うん。見たい!」

と答えると、譜面を渡された。

やっぱり知っている曲だった。

「……この曲知ってるよ!えーっとね……あったあった!」

そう話しながら私はスマホの中にこの曲を入れていたはずだと思いあたりで探してみた。そして、見つけてそれを再生し始めた。

その時、あることを思い出し、カバンの中をあさってそれを出した。

「それさ、コピーだよね?原本がピアノの上に置いてあったよ。あと……これも咲希の物だよね?はい、他の曲もたくさん入ってるみたいだから、弾いてみたら?」

それは、本だった。たくさんの曲の譜面が載っている。それには名前が書いてあった。

『内川咲希』と、彼女の名前が。

「ありがとうございます」

咲希はそれをぺらぺらとめくってみていた。

私は楽器を取り出して、吹き始めた。やっぱり練習が足りない。思ったような音が出ない。でも咲希は、褒めてくれた。

「とても綺麗な音ですね!」

「ありがとう。でもまだまだだよ。もっと上手くならなきゃね」

じゃないと音大に合格できないよ、と私は笑った。

その瞬間、咲希の顔が曇った。

そうなんですか、と言って咲希は笑ったけど、ぎこちない笑いだった。

……なにがあったのだろうか。

気になったけど、聞いてはいけないような気がした。

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