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見えない赤

 高校まで四十分ほどの道を煌々と照る太陽の下、シティサイクル所謂いわゆるママチャリで走っている。

 反対側の歩道では陽キャがウェイウェイしている。


 先週、朝飯を食っている時にテレビの天気予報で言っていたが、現在は4月下旬だが気温は7月上旬のようで、かなり堪える。


 多少風があるお陰で暑さは和らぎ、スピードを出し風を切りながら学校に向かう。


 そして放課後、今日は俺が好きなミステリー作家さんの小説の発売日。

さっそく帰りの仕度をして帰り道に通る本屋へ向かおうとする・・・・・・が生憎今日は日直。

 

 しかも五十嵐お嬢様とだ。

 変なことに巻き込まれたくないから職員室まで運ぶよう頼まれている提出物を一人で先に半分持って行き廊下を歩く。


 職員室のドアをノックして中に入ると、そこには担任の神田かんだ先生と五十嵐がいる。

糞暑くてみんなシャツ一枚なのに、五十嵐はブレザーを着ていて見てるこっちまで暑くなる。


 恐らく五十嵐は俺に気付いていないようだからそっと机に提出物を置いて職員室を後にしようとするがそこで神田先生が俺に気付く。


 「丁度来たわね、待ってたの。

 五十嵐さん説明してくれるかしら」

 

 俺を待ってた?

 別に何も悪いことしたつもりはないが教師から呼び止められると怯える。

 これは全ての生徒が同じ気持ちを味わったことがあると思う。

 それに、唯でさえ教師と話すことなんて無いし、職員室なんて入らないから余計に身構える。


 「瀬川君、昨日の今日で悪いんだけどまた頼まれてくれないかな?」


 またか。


 神田先生もいることだし話だけは聞いておいたよさそうだな。

 それに今は公彦がいないから適当な言い訳して逃げれるチャンスはある。


 「瀬川君、私からもお願いよ。

 少し五十嵐さんの話を聞いてもらえないかしら」


 先生からのお願いなら断れない。

 それに話を聞いてもらえないかしら。

 だから別に話を聞けば良いだけ・・・・・・。


 「ええ、大丈夫ですよ」


 俺はそう言うと少し話を聞いてもらえないかと言われたはずなのだが、五十嵐が長くなるからといって神田先生と共に応接室まで連れて行かれた。


 応接室は普通の教室より設備がよく、エアコンの冷房が良く効いていて、肌寒いぐらいだ。

 壁上には歴代の校長の写真が飾られている。

 この高校の歴史は校長の写真をみた感じ概ね70年ほど。


 「それじゃあ話させてもらうね」


 五十嵐が席に座り話が始まる。


 「今私は文芸部に入ってるんだけど文芸部に入る前に仮入部で演劇部に友達二人と行ったんだけど、その次の日から二人とも不登校になっちゃって、原因を考えたら仮入部を終わった後私以外の二人がその先輩に呼ばれてたんだよね。

 それが原因だと思うんだけどなんで不登校になったのかが分からないから、手伝ってもらおうと思ったんだけど大丈夫?ちなみにその後二人は演劇部に入ったよ」


 なげーよ。

 デジャブだ。


 選択肢は一つ。


 「すまん、五十嵐。今回は断らせてもらっ」


 言い切ろうとしたその時応接室のドアが大きな音を立て開けられる。

 そこに立っていたのは親友の神木公彦。


 「それはないよ真実!今回も僕が一緒に受けるからやろうよ真実」


 何でお前がいる。


 こいつはいっつも余計なところで話に入ってくるから油断がならんな。


 「ところでなんで公彦がここにいるんだよ」


 「下駄箱に行こうと思ったら真実が職員室入ってくの見えたから覗いて見たら五十嵐さんと話してるから、またなんかありそうだなーと・・・・・・そのあとは職員室から出てきて応接室入ったから外で聞いてたと」


 こいつ本当にいい性格してるな。


 公彦が来たからには断ればグチグチ言われるだろう。

 ここは素直に言う事を聞いておくか、読書はお休みだ。


 「手伝ってやる。

 でもそれじゃあ情報が少なすぎる、他に仮入部のときになんかしたとかないのか?」


 と言うと、神田先生お電話が来ております職員室までお願いしますと校内放送が流れる。


 「それじゃあ五十嵐さん、瀬川くん、神木くん、あとはよろしくね」


 そう言い神田先生は応接室を後にする。


 「えーっとじゃあ続きね。

 発生練習やった後早口言葉とかやってその後は、お菓子食べながら先輩も入れて話してたってくらいかな?」


 これだけの情報じゃまだ推論は立てそうに無いな、他になんかあると良いんだが。

 というか前回も今回も全く公彦が役立っていないのは気のせいなのか気のせいじゃないのか・・・・・・。


 「もっと細かく教えてもらえない?話した内容とか」


 公彦が喋った!そうそう俺もそれが言いたかったんだ、役に立ったな!

 なんて思っていると五十嵐が詳細に話しだす。


 「うーん。まずは二人と旧校舎にある演劇部の部室まで行って先輩が居たから、仮入部したいでーすって言って部室に入って。あ、二人ってのは同じクラスの牌羅はいら瑠唯るいちゃんと阿野伊あのい優希ゆうきちゃんね」


 二人とも顔が出てこないな。


 いつ仮入部期間がわからないからいつ不登校になったかも分からないな。


 「仮入部した次の日って具体的には何日だったんだ?」


 「確か仮入部した日が十三日だから十四日だよ」


 入学してから割りと早い段階で仮入部期間があるから不登校になったのも初めの方だな。


 「それで部室に入った後はさっきも言ったけど、発生練習やった後は、お菓子食べながら先輩が行く学校どこですかーとかくだらない質問タイムだったよ。先輩っていうのは三年のたらい雅也まさや先輩ね、超イケメン!話聞いたら千葉大学行きたいんだってさ、学年でもトップクラスで頭良いらしいよ。あとは記念に先輩が写真取ろうって言うから写真取ったってくらい?」


 かなり自分に自信があるようだな。

 これだけ聞いてると何にも原因は無いように思うが、盥先輩に呼ばれたってことであれば盥先輩に原因があるってのは明白だ。


 「他になんでもいいから気になった事とか無いのか?」


 「うーん。多分今ならみんなスマホ使ってると思うけど先輩はガラケーだったから連絡とか如何してるのかなーって思ったぐらい?」


 ガラケーか・・・・・・ていうことはガラケーで写真を撮ったのか?

 まさか。


 「真実、気付いたのかい?」


 と公彦が言う。


 「ああ、推論を完成させるために聴くが五十嵐、お前なんで今日もブレザー着てるんだ?」


 俺の質問に少し笑いながら五十嵐は答える。


 「前に転んであざが腕にできたの、だから隠すためにブレザー着てるんだ。ものすごい暑いけどね」


 なるほどな。

 ワイシャツも袖が長いから隠せると思うんだが、こいつってかなりのアレだ、なんというか馬鹿なのか?


 「最後に聴くが、仮入部で写真を撮った時もブレザーを着ていたのか?他の二人はシャツだったか?」


 「うん、着てたよ。二人はシャツだけだったかな」


 じゃあこれで推論は完成だ。

 だが、なんでそんなことをしたのかが分からない。

 そんなことを考えていた時、神田先生が職員室から戻ってきた。


 「神田先生。盥先輩でなんか知ってることありませんか?」


 神田先生が渋々答える。


 「個人情報はあまり人に言っていい事ではないけれど、今回は仕方ないわね。盥君は千葉大学の推薦に、あと一つだけ如何頑張っても内伸点が足りなかったの。それを埋めるのは部活動を三年間やりとげる事だけ。だから内伸点を如何しても欲しがってたわね。去年は誰も入部しなかったから前の三年生が居なくなってから、部員は盥君だけ」


 なるほどな、これが理由か。


 公彦が生徒手帳を出してペラペラ捲っている。


 「部活の存続条件は部員が三人だね。牌羅さんと阿野伊さんが入ったから廃部は免れたって感じか」


 これで確定だな。


 多分これで合点が行くはずだ。


 「とりあえず推論はできた。話させてもらうぞ」


 俺がそういうと興味津々に五十嵐と公彦が俺を見つめてくる。


 神田先生も姿勢を直す。


 「まず結論を述べると女子二人が不登校になったのは、盥先輩の犯行で間違いない。

 盥先輩が二人を不登校に追いやった理由は一つ、今さっき神田先生が言ってた事だ」


 五十嵐は良く分からない様子で首を傾げる。


 公彦と神田先生は分かっているようだ。


 「今さっき神田先生が言ってたことって内申点が足りないって話・・・・・・?」


 五十嵐はようやく分かったらしい。


 「そう、今さっき神田先生が話した内申点の話だ。

 神田先生の話によると盥先輩は内申点が如何しても後一点足りないらしいな。

 ここも他の学校もそうだと思うが、三年間部活動続けていれば内申点がもらえるってのを狙って盥先輩は演劇部に入っていた。

 だが前三年生が引退してから部員としては一人。

 この学校の部活継続条件は部員が三人居る事」


 俺がそういうともう一度公彦が生徒手帳を出し部活継続の条件の欄を見つけ、そうだねと返してくる。


 「ということは今年二人入部しなければ廃部になる、演劇部の唯一のメンバーの盥先輩はこのまま廃部になると内申点が貰えなくなることが分かりメンバー集めに必死になってたんだ」


 神田先生は納得した顔をしている。


 が、五十嵐は不満そうな顔をし、身を乗り出して俺に聞いてくる。


 「それが不登校になった二人に如何関係してるの?」


 「そう焦るな今から話す所だ。

 謎の鍵を握るのは盥先輩の携帯電話だ、五十嵐は最後に写真を取ったって言ったな、先輩の携帯電話はガラパゴスだったはずだガラパゴス携帯とスマホートフォンの違いを考えてみろ」


 全員考え込んでいる。


 確かにガラケーとスマホの違いは何かと言われても俺も最初に思いつくのは、折りためるのと折りたためない、それと、アプリの普及率ぐらいしか思いつかないものだ。


 「うーん、折りたためるぐらい?」


 やっぱそうなるよな。


 「赤外線もあるね」


 公彦近いな、赤外線が重要なところだ。

 もったいぶっても仕方が無いな。


 「重要なのは赤外線だ、赤外線カメラがあるだろ」


 全員まだ分かっていない。


 「赤外線カメラは薄い布とかを透過するんだ。

 盥先輩はその機能を利用した。

 五十嵐は最後に写真を撮ったって言ったな、さらにお前はブレザーを着ていた。

 ブレザーは厚くて透過できなかったんだ、でも他の二人はシャツだけだったから透過されていた。

 部員が足りなかった盥先輩は焦っていたからその、シャツが透けて下着が見えている写真で二人を脅して入部させた。

 写真を撮った後に二人が呼ばれたのは、誰かに言ったら写真をばら撒くとでも言われたんだろう」


 「それなら筋が通ってるわね、五十嵐さんの言うとおり相談して正解だったわ」


 神田先生は立ち上がりそういうと頭を下げてくる。


 「それなら合点が行くね」


 五十嵐も公彦もスッキリした様だ。


 「それじゃあ俺は帰らせてもらいます」


 俺がそう言うと二人も席を立つ。


 「私は盥君がまだ部室に居ると思うから話を聞いてくるわね、五十嵐さんも神木君も最終下校時刻まで近いから早く帰りなさいね。

 さようなら」


 全員声をそろえてさようならと言い教室を後にする。


 「やっぱり瀬川君はすごいね」


 「真実はこういうところでしか役に立たないからね」


 「失礼だな、たまたまだ」


 他愛も無い会話の後にじゃーなといいオレは駐輪場に向かい、自転車に跨って本当ならもう買っているはずの本を買いに向かう。


 進学のために犯罪まで犯す。

 俺には良く分からない。

 前日の五十嵐の弟に続いて、人の気持ちを理解することは到底不可能なのだろう。

 

 自転車に跨り並木道を通る。

 本屋に着くと俺はもう考えるのをやめていた。

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