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極大魔法戦争マジックシューターズVR  作者: 告井 凪
第5話「本当の気持ち」
29/45

4「隣にいたから」


「……どうするのよ、沖坂」

「…………」


 リーナと代未が先に帰り、フードスペースには晃人と絢萌のみ。

 晃人はほぼ放心状態で、さっきまでリーナの座っていた席をぼんやり見ていた。


(リーナに、なにも言うことができなかった……)


 テーブルの下で固く拳を握り、晃人は先程の話を思い出す――。






『こいつ、チートやってんじゃねぇか?』

『強すぎだろ、絶対なんかいじってる』

『おかしいよね、通報した方がいいんじゃない?』



「――リーナちゃんはこういう言葉を、何度も言われてきたんだ」

「まっ、待ちなさいよ! チートって、マジックシューターズにチーターなんているわけないじゃない。家庭用ゲームやネトゲじゃないんだから。そんなの誰だってわかるはずよ」

「お前の言う通り、マジックシューターズでチートなんて、この筐体とサーバーを同時にハッキングでもしない限りは無理だ。初期の頃に、スマホのアプリを改造しようとしたヤツはいたみたいだけどな。サーバーにアクセスした瞬間弾かれるし、どんなに偽装しても筐体で読み込む段階でアウト。すぐにアカウント抹消だ」

「く、詳しいわね、代未……」

「まーな。色々、調べたし。とにかくチーターがいるという考え自体、そもそもおかしいんだよ」

「でしょ? だったら、そんなのただのやっかみじゃない。リーナが強かったから、悔しくて言ってるだけでしょ。気にすることないわよ」

「普通ならな。沖坂、お前ならわかるんじゃないか? EVSが発現してから、何度かバトルしてるだろ」

「……俺は……」


 晃人はスッと代未から目を逸らす。けどそれは、答えなくても肯定しているのと同じだった。


 代未は一瞬だけ晃人に冷たい目を向けたが、誰も気付かなかった。

 元の顔に戻り、話を続ける。


「僻みだろうと冗談だろうと、関係無い。チート、改造、不正……そう言った言葉を、リーナちゃんはスルーできないんだ。何故なら――」


「同じことかも、しれないから」


 それまで黙っていたリーナが、ぽつりと呟く。


「他の人から見たら、たぶん、EVSはずるいんだと思うから。だって『チートなんじゃないか』って、つまり『ズルしてるんじゃないか』って言いたいわけでしょ? だからね、おかしいとか、チートとか言われても、わたしは言い返せないし、聞き流すこともできないの」


 晃人は逸らしていた目をリーナに向ける。

 さすがに、なにも言わずにはいられなかった。


「す、少なくともチートなんてしてないじゃないか! リーナはおかしくなんかない、否定したっていいはずだよ!」


 だけど……違う。リーナが言ってるのはそういうことじゃない。

 わかっていても、ちゃんとした答えを返すことができない。


 晃人は自分の手が震えていることに気が付く。


(ダメだ、こんな言葉じゃ……もっと、なにか……なにか!)


 でも、そのなにかが。晃人の口から出てこなかった。


 リーナは悲しそうな顔で、ゆっくりと首を横に振る。


「……晃人くん。わたしのね、ここ、おかしい(・・・・)の」


 こんこんと、指で自分の頭を叩くリーナ。


「人と違って、おかしい(・・・・)から。ズルしてるようなものなんだよ、これ。だからそんな人が、ランクモードをやっていいわけがない。みんな一生懸命やってるのに、ズルしてる人間が入ったら台無しでしょ? ……それが、わたしがランクモードとチームモードをやらない理由なの」

「リーナ……」


 晃人は再び目を逸らす。

 見ていられなかった。


 自分の頭を指さして、おかしいと言えてしまうのは。

 それだけ悩んで、苦しんで、傷ついてきた証拠だから。


(どれだけ……辛い思いをしてきたんだよ……!)


 悲しそうに晃人を見るリーナと、目を合わせられず。

 俯いたまま、晃人は尋ねる。


「リーナ。一緒にタッグを組んでくれたり、チームに仮メンバーとして入ってくれたのって……。俺がリーナと同じことを言われるんじゃなかって、心配してくれたからなのか?」


 少しの間があって、リーナが答える。


「……うん、そうだよ」






 ――結局それ以上、晃人はなにも喋れず。代未とリーナは先に帰ってしまった。


 前に、リーナが言っていたことを改めて思い出す。



『うん、これからはお互い共有できるんだよね。……晃人くん。EVSは、きっと思っている以上に辛いと思う。慣れるまで……慣れてからも、大変なんだよ。でもわたしがいるからね。きっと大丈夫だから』



 思っている以上に辛い。その言葉の本当の意味を、晃人はまったくわかっていなかった。

 EVSの本質に、気付いていなかったんだ。

 他の人と見えているものが違うということが、どういうことなのか。

 そんなことまで、考えることができていなかった。


「リーナは……」


 ぽつりと、晃人は呟く。


「……リーナは、マジックシューターズが好きだから。ズルしていると言われながら――ズルをしているかもしれないと思いながら、ランクモードはできなかったんだ」

「……でしょうね。あたしだって、嫌だもの。あたしのしていることがズルかもしれないなんて、そんなこと考えながら戦えない」

「不正してランクを上げても意味が無いのと同じだ。結局自分が強くなれたわけじゃないんだから」


 自分自身が強くなるのではなく、ゲーム自体を改造してしまうのは、間違っている。

 晃人はそういう行為が嫌いだった。


「じゃあ沖坂。EVSはどうなの? あたしはまだ、実感湧かないけど……。ズルをしているの?」

「それは……」


 自分自身の感覚が進化したものだというEVSは、不正なのか?

 EVSのおかげで、バトルを有利に進めることができるのなら、それは――。


(……わからない)


 でも、リーナはズルいと思っているのだろう。

 だから、あんな悲しい顔で、あんなことを……。


「沖坂。もう一度、聞くわよ。……チーム、どうするのよ。あたしたちも、EVSが発現してるんでしょ?」

「…………」


 絢萌自身が、さっき言っていた。

 ズルかもしれないと考えながら、戦うことはできない。

 EVSがズルくて、不正だと言うのなら。晃人と絢萌も、もう戦うことができない。


 もし戦うことができたとしても、そこには――。


「それに、リーナは? ……チームに誘える?」

「っ……!!」



『きちんと話して理解させれば、諦めるだろ』



 代未の言葉が、今になって突き刺さる。


 結局、絢萌の問いかけに、晃人は答えることができなかった。




                 *




 家に帰った晃人は、自分のベッドに倒れ、天井を眺めながら考えていた。


 EVSは不正なのか? ズルをしているのか?


 正直まだ、晃人は答えを出せるほどの恩恵を受けていなかった。

 確かに有利だと思う。実際、相手の口の動きで行動が読めたりもした。

 それを平等ではない、フェアではないと、不正扱いするのは……少し、違う気もする。


(でもリーナは、自分がズルいと思っているから……ランクモードやチームモードをやろうとしない)


 代未の言う通りだった。理解した今、チームに誘うのは無理かも知れないと……思ってしまった。

 あんなに悲しそうな目をしたリーナは、初めて見た。

 これ以上チームに誘うのは、余計に傷つけるだけかもしれない。


(傷つける……? どうして、チームに誘うことでリーナが傷つくと思ったんだ?)


 もちろん、あの顔を見たからだ。

 誘いを断るというのは、それだけでもエネルギーを使うだろう。


(でも……そういうことじゃない)


 だって、リーナはマジックシューターズが――



『うん! すっごく詳しいよ! あ、じゃあどれくらい詳しいか、教えてあげるね! そうだなぁ、まずこのゲームがどんなゲームかってところからなんだけど――』


『もちろん研究部の方も、マジックシューターズが好きなんだなぁっていうのがよぉっっく伝わってきたんだよ? でもね、マジシュー部のあの言い方はずるいっ。あんな風に盛り上げられたら、もうマジシュー部しか選べないよ!』


『……絢萌さんが入れ込む理由、少しわかった。……また戦いましょう、理流那さん』

『うん! またやろうね、マジックシューターズ!』


『わぁ! 面白そう! わたしもやる! 晃人くんもやろうよ! 一対一のバトル!』


『ねぇねぇ! わたしは? わたしはどうだった? 絢萌ちゃん!』

『えぇ? そ、そうね……あなたは、個人技は文句なしでしょ。余裕でSSランク狙えるレベルよ。少なくとも、Sランクであなたほど強い人、見たことないわ』

『おおぉ……そっかぁ。えへへ。照れちゃうなぁ』



 ――マジックシューターズが、大好きなんだ。


 思い出すのは、マジックシューターズの話をする時の、嬉しそうな、楽しそうな、生き生きとしたリーナの笑顔。

 春休みに出会って、高校で再会して一週間。決して長いとは言えないけど、隣でその笑顔を見続けてきた。

 その気持ちを、受け取ってきたんだ。


(そうだよ……リーナの気持ちが、わかっていたから)


 大好きなものを断らなくてはいけないのは、とても辛いことだ。


 チームに誘っても、EVSのせいで断らなくてはいけないから。だから傷つく。


 だったら……どうすればいい?



「どうすればいい? そんなの決まってるじゃないか」



 晃人は身体を起こし、鞄からスマホを取り出した。


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