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極大魔法戦争マジックシューターズVR  作者: 告井 凪
第5話「本当の気持ち」
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2「芽生えた気持ち」


 状況を整理しよう。


 まず、マジックシューターズ研究部の部長。

 彼女の名前は柏沢愛海(まなみ)

 マジシュー部部長の、柏沢陸緒(りくお)の妹だった。


 二つの部が統合すれば、広い部室がもらえる。

 生徒会にそう言われた愛海部長は、それがマジシュー部からの提案だとわかると、抗議をしに乗り込んできた。


 晃人たちは部が分裂した理由をまだ知らないが、反発が起きるのは容易に想像できる。

 陸緒部長はどうして、そんな話を生徒会に持ちかけたのだろう?


 それから、研究部の二年生。

 新太(しんた)美月(みつき)

 入学式の日、リーナとタッグを組んだバトルで、敵側のチームだった二人だ。

 その時晃人は、新太にこれでもかと言うほどやられている。


 ――よえーなぁ……――


 こっちのことはわからないだろうし、説明もできない。でも晃人にとっては忘れることのできない一戦だった。



 これだけでも十分お腹いっぱいだというのに、放課後はまだまだ終わらない。



「では、こういうのはどうだ? 愛海」



 陸緒部長と愛海部長の言い争い――正確には、キレる愛海部長を陸緒部長がのらりくらりとかわすだけ――を終わらせたのは、陸緒部長のとんでもない提案だった。


「マジックシューターズのチームバトルを行い、マジシュー部が勝てば統合、負けたらこのままだ」

「私のことやっぱりバカにしてるでしょ? 研究部がその勝負を受けるメリットが無いわ!」

「ふむ……では、こうしようか。負けた方は、勝った方の部の言うことをなんでも一つ聞く」

「……なんでも(・・・・)?」


 そう呟いた瞬間、愛海部長は冷静な顔に戻り、氷のような冷たい眼差しで陸緒部長を見た。


「いいわ。ただし、こちらの条件は……柏沢陸緒部長。あなたに、マジシュー部を辞めてもらいます」


「えぇ? ちょっと待ってくださ――」


「いいだろう。こちらの要求は部の統合だ。――三本勝負でいいか?」

「いいわよ。どうせ勝つのは私たちだから」


 晃人が口を挟もうとしたが、話はとんとん拍子に決まってしまう。そして――



『マジックシューターズ、バトルスタート!』



 すぐにハガ―アミューズメントに移動し、一本目のバトルが開始されたのだった。



                  *



「なんっっで私らが、バトルしなくちゃなんないんだよ!」


 バトルが始まると同時に、ヨミが叫んだ。

 プライベートモードを使い、マジシュー部と研究部、それぞれ四人タッグ、つまりチームでのバトルなのだが……マジシュー部側は一年生四人が戦うことになった。


「まぁまぁ、ヨミちゃん。しょうがないよ、わたしたちがやらないと、研究部の不戦勝だって言うんだもん」

「なんか理不尽だよな……。ていうか、陸緒部長の退部がかかった勝負なんだから、自分が出ればいいのに。なんで俺たちなんだよ」

「ほんとよね。……だいたい、今のあたしたちで勝てるの?」


 アヤメのその問いに、誰も答えることはできなかった。

 研究部のチームは、三年生を除いた四人。チームの強さは未知数……だが、想像はできる。

 沙織の強さはよく知っているし、その沙織が愛海部長のことを強いと認めていた。

 そしてなにより、晃人がまったく刃が立たなかった二年生、新太と美月がいる。


「とにかくやるしかないよ。わたしとコートくんが前衛でいいんだよね」

「そうね、あたしが中衛、ヨミが後衛ね。……今のあたしたちなら、このフォーメーションでやるしかないでしょ」


 まだチーム登録もしていないし、リーナとヨミはチームメンバーとして決まったわけでもない。

 アヤメも昨日一緒に組むことが決まったばかりで、四人での連携はまったく練習していない。

 そんなチームで……勝てるのか?



『いいから、君たち四人で戦ってくれ。頼む』



 陸緒部長はそう言って晃人たちを戦場に送り出したが、本当になにを考えているのかわからない。


 コートはそっと溜息をつき、首を振る。今は考えても仕方が無い。バトルに集中しよう。


 リーナと前線へ急ぐ途中――気が付くと、景色がリアルに見えるようになっていた。

 EVSの発現。相変わらずきっかけはわからないが、あまり意識しないでも、開始すぐに発現するようになってきた。


 今回のフィールドは、放棄された市街地。

 石畳の道路沿いに、ヨーロッパの古い石造りのような家が立ち並ぶ、ファンタジーの王道のような大きな街。

 レッドリウム王国とブルーガイム王国の、ちょうど中間辺りにあったこの街は、戦争が始まるとすぐに戦場へと変わり、放棄された今でも激戦区となっている。

 建物の多くは崩れ、半壊し、屋根の無くなっているものも多い。戦いによる炎は今も消えることなく、あちこちに瓦礫の山があった。EVSでリアルに見える晃人にとって、それらの破壊の爪痕は本当に生々しい。


 マップ構造は、中央に円形の広場と、陣地を隔てる一本の川が流れている。

 川は生きていて、きちんと水がある。

 このゲーム、ホバー移動なこともあり、川の上でも浮いて移動が可能だ。

 しかし少しでもダメージを食らうと水没し、起き上がるまでの間無防備になる。水辺でダメージを食らうのは、命取りだ。


 もう一つの特徴として、拠点の場所が他のフィールドと違い、左右ではない。

 小さな塔が拠点になっていて、一つは中央の広場の円の一番手前に。もう一つは、広場と儀式塔の中間地点。

 つまり儀式塔と拠点、広場が一直線になっているのだ。


(だから中央でのぶつかり合いが多くなるんだよな、このマップ)


 コートとリーナは中央の広場。アヤメはその手前、拠点で様子を見る。


「ここ、中衛も前衛の援護ができるのよね。きっと向こうの中衛も前の拠点まで上がってるはずよ」

「そうだね~。あ、向こうも二人、広場に出てきたよ」


 赤いローブが二人、広場の反対側に姿を現す。

 ちなみに今回も、コートたちはブルーガイム王国、青いローブだ。


 敵は二人ともフードを被っていて、誰なのかわからないが……。


「……たぶん、左がシンタって人かな。右はマナミ部長?」


 リーナが小声で呟く。

 コートは思わず、リーナの顔を見てしまう。


(わかるのか? 俺にはまだ、顔は見えていないけど)


「……おいアヤメ! 中央はいいから、下がって後ろの拠点を守れ! 私も前に出る!」


 突然、ヨミがアヤメに指示を飛ばす。


「はぁ?! なんでよ、奇襲が来るって言うの?」

「昨日サオリが言ってただろ! あの魔法のセッティングは短期決戦狙いだって! 前衛にサオリがいないなら、左右どっちかから奇襲が来る!」

「待ちなさいよ、前にいる二人がサオリじゃないって保証は」

「いいから下がれ! リーナちゃんを信じろ!」

「っ……! わかったわよ!」


 結局アヤメは、ヨミの指示に従って後ろに下がるようだ。


「コートくん! わたしたちが踏ん張らないとね! がんばろっ」

「お、おう!」


 返事をし、前方に意識を集中するが――。


(ヨミはリーナの言うことを全面的に信じているんだな)


 敵の二人がシンタとマナミだというのは、リーナの予測だ。

 EVSで見えているのなら――間違いないのだろう。


(……ヨミはEVSのこと知ってるのか?)


 リーナがEVSのことを話すのは、いつもヨミがいない時だ。知らないのかもしれない。

 だとしたら、とんでもない信頼感だ。


「あっ、ほら、やっぱり左はシンタ――先輩だよ!」


 左側の魔法使いは、早くも炎の大剣を創り出した。

 それを見て、コートもスイッチが入る。


「今度こそ……っ!!」

「コートくん! 無茶しないで、一緒に戦おう!」

「わ、わかってる!」


 一人で突っ込んでも勝ち目はない。そもそも、マナミという強さが未知数の魔法使いがいるのだ。コートだけでは時間稼ぎにもならないかもしれない。


 コートは川越しに、近付いてくるシンタに向けて通常射撃魔法を撃つ。

 シンタはそれを難なくかわし、川に架かっている橋の袂まで迫る。


 リーナとマナミは橋よりも右側で、川を挟んで通常射撃魔法を撃ち合っている。


「さすが、噂のフリーモードの魔女ね。狙いが正確だわ」

「…………」

「……あら、つれないのね」


 マナミ部長がリーナに話しかけるが、リーナは反応しない。


「リーナちゃん! 広域通信(・・・・)!」

「……えっ。あ、ごめんなさい! 集中してて」

「いいわ。……そうね、私も集中しないと、落とされそう」


 右側の撃ち合いが激しくなる。一緒に戦おうとリーナは言うが……。


「よう、後輩! オレは松行(まつゆき)新太だ。よろしくな!」


 シンタも広域通信で話しかけてくる。

 リーナの援護は期待できない。ここは、コート一人で彼を抑えなければ。

 コートは左手の魔道書をめくり、通信を切り替える。


「……沖坂晃人、です」

「なんだぁ? 暗いヤツだな。もっと楽しく行こうぜぇ!」

「……っ!」


 シンタはコートが以前戦ったことのある相手だと気付いていない。

 そのことに一瞬頭に血が上りかけるが、すぐに冷静に、ならばチャンスだと頭を切り換える。

 こっちは相手のセッティングを知っているが、相手は忘れているのだから。


「行きますっ!」


 コートは叫んで、橋の左側にジャンプする。

 川に落ちながら、シンタに向けて通常射撃魔法を連射する。


「おっと、水上戦か? ま、付き合う義理はねぇけどな」


 シンタは落ちていくコートに向けて右手を伸ばす。

 赤い火の玉が五つ浮かび上がり、ドンッと撃ち出された。


(きた、追尾火の玉!)


 予想していたコートは、川の上に着地すると同時に、橋の下に潜り込む。

 コートを追尾しようとした火の玉は全弾橋にぶつかってしまい、消えた。


「へぇ? しょうがねぇな、付き合ってやるか」


 シンタは言いながら、川にジャンプする。


(……今だ!)


 シンタが下りてきた反対側からハイウィングで飛び上がり、橋の上に戻る。


「あ? どこいった!」


 シンタがコートを見失う。

 コートは橋の上を駆け、再びジャンプ。シンタの真上から魔法を連射し――



 ドガッ!



「なっ、後ろ……!?」


 コートの背中に風属性の通常射撃魔法が直撃する。

 バランスを崩し、落下しながら背後を見る。


(……マナミ部長?!)


 リーナとの撃ち合いの最中に、コートの動きに気付いて一発飛ばしてきたのだ。


(狙撃を警戒して、素早く動いてたのに……当ててくるなんてっ)


 ザパン! ザパン!


 水に落ちる音が二つ。

 どうやらコートが撃ったのも一発当たったようだ。シンタも川に沈んだ。


「このやろ、どうやって上に……ってハイウィングか!」


 コートが水上に飛び上がると、目の前に、同じく水中から飛び出したシンタ。


「もらった!」

「しまっ……」


 咄嗟に通常射撃魔法を撃とうとするが、遅い。

 炎の大剣が蒸気を纏い、横薙ぎ一閃。コートの身体が引き裂かれた。



『敵プレイヤー:シンタに プレイヤー:コートがやられました』



(また……また、勝てなかった……)


「コートくん、ごめん! 援護できなくて! でもこっちは……なんとかするから!」


 リーナの声にハッと我に返る。


 戦いはまだ終わっていない。

 コートはリスタート地点に戻る前に、リーナたちの方を見る。

 マナミ部長がコートを攻撃した隙に、リーナがジャンプ、橋の縁を掴んでさらにジャンプ。三角飛びで向こう岸に渡っていた。

 着地と同時に飛んできた通常射撃魔法をかわし、素早く距離を詰め――


「リーナっ! 狙撃に気を付けろ!」


 コートの声と同時に、敵陣の拠点から闇属性の狙撃魔法が撃ち出された。


「ミストバリア! ――きゃっ」


 咄嗟にリーナはミストバリアを使うが、威力の高い狙撃魔法は完全には防げなかった。

 バリアにより弱まった魔法が、リーナに直撃する。


「今のタイミングで、防げるものなのね」


 リーナが顔を上げると、目の前にマナミの手のひら。

 魔法が撃ち出され――



『敵プレイヤー:マナミに プレイヤー:リーナがやられました』



(リーナがやられた……!)



 そこへ、さらにアナウンスが流れる。


『敵プレイヤー:サオリに プレイヤー:ヨミがやられました』

『プレイヤー:アヤメが 敵プレイヤー:サオリを倒しました』



「サオリのやつ、最後の最後でこっち狙ってきやがった!」

「やられるとわかって、相打ち狙いに切り替えたんでしょ」


 本当にサオリが後ろの拠点に奇襲をかけたようで、二人が撃退してくれていた。


「それより……なんなのよ、これ」

「なんだ? どうかしたのかよ、アヤメ」

「な、なな、なんでもないわよ! あたしは急いで前の拠点を守りに行くけど、敵の前衛二人残ってるのよね?」

「……すまない」

「もうちょっと踏ん張れよな、コート! ま、三対二ならしょうがねーか。リーナちゃんもやられちゃったし……。って、リーナちゃん?」


 コートと一緒にリスタート地点に戻ったはずのリーナが、みんなの会話に入ってこない。


「……わたし、負けた……勝てなかった」


 ぽつりと呟くリーナ。コートは心配になり、名前を呼ぶ。


「リーナ……?」

「強かった……あの人。わたしは――」


 次の瞬間――



 ズキンッ!!



「っ……あぁっ!!」


 突然激しい頭痛に襲われて、コートは思わず膝を突く。


「きゃああっ! こ、こんどは、なに……よっ……!」

「おいどうした! なにかあったのか?! アヤメ! コート!」


 ヨミが声を荒げて呼びかけてくるが、頭痛が酷くて返事ができない。


(一緒に悲鳴を上げたのは――アヤメ?)



『敵プレイヤーに 一つ目の魔石を起動されました』


『敵プレイヤー:マナミに プレイヤー:アヤメがやられました』



 アヤメも同じ頭痛に襲われているのだとしたら、拠点を守りに行く途中で動けなくなったのだろう。拠点はあっさり奪われてしまう。

 すでに復帰が完了しているコートも、頭痛でなにもできない。


「なんなんだよ! リーナちゃん? リーナちゃんは無事か?!」

「……うん。わたしは、なんともないよ」


 いつの間にか復帰していたリーナは、後方の拠点、塔の頂上に姿を現す。



「この拠点は、絶対取らせないから!」



 リーナのその宣言と同時に、視界が真っ白になり――



  ――もう負けない――



 ――元に戻ると、さっきまでの頭痛がすっかり消えていた。


「っ……ハッ、ハッ、ハァ……」


 あまりの頭痛に呼吸を忘れていた。胸を押さえて、呼吸を整える。

 突然頭痛が収まったせいか、なんだかクラクラする。


「なっ、なんだったのよ……今の、頭痛はっ」

「やっぱり、アヤメも……?」

「コートも? ……ねぇあんた、もしかして」


 アヤメがなにかを言いかけた時、


「三人とも! 拠点まで急いで! ここは全力死守だよ!」


 リーナの檄が飛び、ハッとする。


 そうだ、ここは戦場だ。ぼうっとしている暇はない。

 急いで儀式塔の裏から飛び出し、リーナの待つ拠点へと向かった。



 拠点に辿り着くと、リーナの塔の上からの攻撃に、シンタとマナミは攻めあぐねている様子だった。


 コートは左側から回り込み、シンタに通常射撃魔法を撃つ。

 シンタはすぐに気付き、その攻撃をかわした。


 二人は正面から向かい合う。

 シンタはじっとコートの顔を見て、口を開き――



「……んん? オレ、戦ったことある?」



(やっと思い出した……!)



「ありますよ! 俺は先輩に――」


 言いかけて、気付く。シンタの顔に浮かんだ、焦りのような表情に。

 左手の魔道書を見て首を傾げる、その仕草に。


(なんでそんな顔をするんだ? それに、その動作は……まるで、まるでっ)


「どうした、コート! 突然なに言ってんだ?」


 シンタの仕草とヨミのチーム通信で、コートはわかってしまった。


(俺には、シンタ先輩の『()』が聞こえた。でも今のは――)



「っかしいな、やっぱり今のチーム通信だったぞ(・・・・・・・・・・)?」



 たった今、広域通信に切り替えたのだろう。

 コートはシンタの言葉に、衝撃を受けるのだった。


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