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極大魔法戦争マジックシューターズVR  作者: 告井 凪
第4話「強くなりたい理由」
25/45

7「それぞれの道で」


「あたしの勝ちね。沙織」

「……うん」


 夕暮れ時の、誰もいない公園。

 一対一のバトルを終えて、ハガ―アミューズメントから場所を変えた五人。

 ずっと無言だった絢萌と沙織が、ようやく話し始めた。


「ヒートボム、撃ってこないなって。気になってたけど……」

「まさか変えてるとは思わなかった?」


 コクリと頷く沙織。

 でしょうねと、絢萌は心の中で呟く。


 ヒートボムは、フレンズ4ガールのみんなで考えたカスタム魔法。

 それを外して別のカスタム魔法にするのは、沙織の想定外だっただろう。


(迷いはあった。でも、それでも沙織に勝って、強くなったことを認めて欲しかった。この気持ちに、決着を付けたかったから)


 だから絢萌はヒートボムを外して、リーナが使っていたミストバリアを入れたのだ。


 先日リーナとバトルをして、ミストバリアを使われた時に。

 沙織のヒートレーザーへの対策は、これしかないと思ったから。


「ねぇ沙織。……あなた、研究部を辞めて、チームを抜けて、あたしと新しいフレンズ4ガールを作るつもりはない?」

「…………」


 沙織は黙って、首を横に振る。


「……でしょうね。わかったわ」


「ええ~!! 絢萌ちゃん勝ったのに! どうして?!」

「そうだよ……神津原さんも、なんでそんなあっさりしてるんだよ」


 絢萌が沙織の拒否を受け入れると、リーナと晃人が騒ぎ始めた。

 すると代未が、


「リーナちゃん、ここは割り込んじゃダメだと思うぞ。沖坂、お前もだ。これは二人の話で、私らが口挟んでいいことじゃないからな」

「そうだけど~、絢萌ちゃん、このために頑張ってきたのに」

「リーナの言う通りだ。新しいフレンズ4ガールを作るんだって、諦められないって、言ってたじゃないか!」


 絢萌は三人の方を見て、微笑む。


「そうなんだけどね。でも戦ってみて……気付いちゃったのよ」


 いいや戦う前から、心のどこかでわかっていた。


 フレンズ4ガールは、もう、終わっているんだと。


 だからヒートボムを外す決断ができたのだ。

 でも、それを認めることができない自分も、まだ残っていたから。


「絢萌さん」


 呼ばれて、絢萌は沙織の方に向き直り、じっと見つめて続きを促す。


「私は、もう。研究部のみんなの……仲間、だから」

「そう……ね」


 沙織は研究部のアドバイスで強くなっていた。


 それは改めて、フレンズ4ガールが終わったと、突きつけられたようなものだった。


 目の前の沙織が。

 フレンズ4ガールの沙織ではなく、マジックシューターズ研究部の沙織だということだから。


(そしてあたしも……もう)


 フレンズ4ガールの、絢萌ではないのだ。


「あたし、ちょっと気付くのが遅かったみたいね。四人で作ったフレンズ4ガールは、もう終わっていたことに。沙織はとっくに受け入れて、前に進んでいたのに」


 沙織はまた、首を横に振る。


「違う……違うよ、絢萌さん。私は、逃げただけ。またフレンズ4ガールの時みたいなことになるのが、嫌だったから。研究部の、愛海部長みたいな強い人がいるチームなら、私のアドバイスなんて必要のないチームなら、私のせいで仲間が辞めることは無いって、思ったから」

「沙織……。それが、スカウトを受けた理由なのね」

「そう。だからぜんぜん、前になんて進めていない。技術的には強くなっても、私は……成長していなかった」


 沙織の頬を一筋の涙が伝う。

 相変わらず表情の変化は乏しいけど、絢萌にはその涙に込められた強い気持ちがわかった。


「沙織。あなたはでも、今のあたしの誘いを蹴ったじゃない。もう、立派に研究部のチームメンバーなのよ。最初は違っても、これから前を向いて歩いて行けば、それでいいのよ」

「絢萌さん……私は」

「むしろあそこで断らなかったら、ひっぱたいて目を覚ましてやろうと思ってたわよ」

「でも、絢萌さん! 私は、本当は、私、だって……絢萌さん」


 沙織は苦しそうに胸を押さえる。どうしてもその続きを口に出せない。

 それで、十分だった。


「本当に、どうしようもないくらい、遅すぎたみたいね。もっと早く、こんな風に話していれば、あたしたち……あたし、たちは」


 絢萌も、続きを言うことができなくて。

 正面の沙織が、なにを見たのかハッとした顔になり、くしゃっと顔を歪ませる。

 そしてボロボロと、涙をこぼし始めたのだ。


「さ、沙織……」


 名前を呼んで、絢萌も気付く。

 自分も、沙織と同じ顔で、涙をこぼしていることに。


「絢萌さん……!」


 二人は、向かい合ったまま、嗚咽を漏らして涙を流し続ける。

 言葉の続きは、もう。口に出すことはできないから。

 代わりに涙を流すことしか、できなかった。





 どれくらいの時間、泣いていただろう。

 二人が落ち着くまで、晃人たち三人は、じっと黙って待っていてくれた。


「……ごめん、みんな。変なとこ、見せちゃったわね」


 涙を拭って、絢萌は三人の方を向く。

 晃人は少し視線を逸らしながら、


「いや……変じゃないよ」

「そう? でも、やっぱりごめん。色々してくれたのに、ね」

「いや、だから……それも、気にしなくていいって」


 そんな風に言う晃人に、絢萌は微笑みかける。


「沖坂。あたしね、気付いたのよ。沙織が研究部のチームのおかげで強くなったように、あたしはあんたたちとのバトルのおかげで、沙織に勝つことができた」


 ヒートボムを外し、ミストバリアを入れたおかげで、バトルに勝った。

 沙織がマジックシューターズ研究部の沙織として、強くなったように。

 絢萌も新しい場所で、強くなったのだ。


「あたしも沙織みたいに、前に進まなきゃね」


 絢萌は晃人に近寄り、正面に立つ。


「ねぇ沖坂。……あたしを、あんたのチームに入れてくれない?」


「えっ……お、俺のチームに?!」

「ダメなの? メンバー、探してるんでしょ?」

「ダメじゃない! むしろ、もし新しいチームを作るのがダメだったら、こっちからお願いしようと思ってたくらいだ!」

「あっはは、あんたはもう……まったく」


 絢萌は晃人に手を差し出す。

 晃人は呆気に取られていたが、すぐに顔を引き締めて、絢萌の手を握った。


「これから、よろしくね。沖坂」

「こちらこそ。よろしく、神津原さん」


 見つめ合い、そっと手を離すと、絢萌は沙織の方に振り返る。


「そういうことだから。沙織、あたしはこっちのチームで、強くなるわ」

「……うん。見てるよ、絢萌さん。絢萌さんが、強くなるのを。だから」

「わかってる。あたしも見てるわ。沙織のこと。そしていつか……強くなったあたしたちと、勝負しましょ」

「うん。……沖坂さんじゃ私たちのチームには勝てないけど」

「そこは冷静に答えなくていいのよ! まったく」


 そう言って笑い合う二人。



 でも、と絢萌は心の中で思う。


 本当に、勝てないだろうか?

 研究部の実力はわからないし、当の本人は後ろで肩を落としている。


 でも。

 絢萌は先日の晃人の言葉を思い出す。

 指導を引き受ける際、三人の中で一番弱い晃人には、ダメ出しをいっぱいすると半ば脅しのように言ったのに、晃人は――



『強くなりたいからだ! そのためなら、どんなにきついこと言われたって、受け入れられる! ちゃんと聞く! そんなの当たり前のことだ!』



 それを聞いた時、思ってしまったのだ。

 ああ、彼が同じチームメンバーだったら……強くなれるのかもしれないと。


「本当に、楽しみにしてなさいよ。沙織」


 そう言った絢萌自身が、楽しそうに笑うのだった。




「そういえば絢萌さん。さっきのバトルの最後。……よくあんな、範囲の狭いミストバリアで防げたね」

「あれねー。あの距離で防げるか、一か八かだったんだけど。我ながらよく反応できたと思うわ。なんか、覚醒した感じあった」

「ああ……うん、そう感じるとき、あるよ」


 相手の攻撃に超反応できた時や、不利な状況で正面からの撃ち合いに勝った時とかに感じる、覚醒した感。

 あの時は、いつも以上だったかもしれない。まるでゲーム(・・・・・・)とは違う(・・・・)――。


「……あれは……なんだったのかしらね」

「絢萌さん?」

「なんでもない。……きっと、気のせいよね」


 絢萌は首を振って、あの時感じた違和感を、気のせいにしてしまう。



「…………?」


 そんな絢萌の様子を、晃人は首を傾げながら見ていた。



                  *



「よかったね、晃人くん。チームメンバーが増えて」

「そうだな。これで四人に――」

「わたしは仮メンバーだから、まだメンバー集め頑張らないとね!」

「……やっぱりそうなるのか」


 すっかり陽が落ちかけた、公園からの帰り道。

 晃人は隣を歩くリーナと、そんな話をしていた。

 絢萌と沙織は並んで前の方を歩き、そのすぐ後ろの代未と三人でなにか話している。

 おそらくこちらの声は聞こえていないだろう。


(メンバーか……。リーナと代未が、そのままメンバーになってくれるのが一番いいんだけどな)


 というより、晃人にはそれ以外考えられなかった。

 絢萌を入れた、この四人でチームを組む。そのためには、やはり……。


「リーナ」

「うん? どうしたの?」


 晃人は足を止めて、リーナの名前を呼ぶ。

 突然立ち止まった晃人に、リーナも首を傾げて立ち止まる。


「ずっと、聞こうと思ってたことがあるんだ」

「わたしに? なになに、マジックシューターズのこと? だったらなんでも答えるよ?」


 晃人は首を縦にも横にも振らず、真剣な眼差しでリーナを見つめた。


「……晃人くん?」

「もしかしてリーナは……ランクモードのバトル中に、酷いことを言われたことがあるんじゃないか?」

「え……」

「それで、ランクモードをやらなくなってしまったのか?」


 空を赤く照らしていた夕陽が沈み、辺りがすうっと影に覆われていく。

 ゆっくりと目を逸らすリーナが、どんな顔をしていたのか。

 暗くなってしまったせいで、見ることができなかった。


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