破滅の刻印②-1
彼女の翼は折れている。荒れ狂う雪の渦に逆らわず、それでも己が力を精密に制御し、わずかな隙間を確実に捉えては身をねじ込ませ前へ進む。逆巻く吹雪の激しいうねりは、渦潮の重い水流さながらに彼女を容赦なく締め付けた。
傷の裂け目から血しぶきが上がる。
筋力を調整し、傷の裂け目が広がらぬよう庇ってもそれには限度があった。
しっかりと足で掴んだ己が主の体を気遣いながら、彼女は己の意志を示す。
我は大空を覇する現界の王。
如何なる事でも退かぬ。
如何なる事でも媚びぬ。
如何なる事でも顧みぬ。
竜王は吠える。
――さぁ神殺しの大樹よ。偽りの伝承を纏いし我が眷族の怨嗟を捧げよう。
喰らうがいい。その呪いに満ちた禍々しき大管で。
守護者たらんと鎮座し貪る贄の裾野に、我、災いをもたらさん――
巫女は問う。
神殺しはウヌらであろうと。誹りを吐くは筋違いぞと。
竜王は吐く。
この世ならざる現に囲まれ悪鬼に従う下賤の巫女よ。その身に鍵を預けよう。ヤー=シェリの祝福を。
翼竜は巨大な湖に落ちた。
水面に波紋が広がり、湖面に巫女を繋ぎ止めていた薔薇の蔓が、その衝撃ではじけ飛んだ。
雪が渦巻いていた空は次第に落ち着きを取り戻し、水面に出来た波紋もやがて消えた。
湖面に立ちあがった巫女は手を伸ばし、空を確かめる様に手を振る。まるで空を掬い取ろうとしているかの仕草で。
その巫女には見覚えがあった。少なくともアイヒシュテットにはそう思えた。
シホだろうか。彼女に似ている、シホではないその巫女は、アイヒシュテットの方を見て優しく微笑んだ。
アイヒシュテットはその微笑みも、過去にどこかで一度だけ、見た事がある気がした。




