エピローグ
あぁ、あれはまるで――
窓の向こうに見える真っ白な病室。
全身に器具を取り付けられた少女は、大きなカプセル型の容器に入れられていた。
その体はやせ細っていて、息をしているのかも疑わしいほど痛々しい。
――C。
彼はついに、ここまで辿り着いた。
あの時伝えられなかった言葉を携えて、彼はここまでやってきた。
けれどももう、少女は話をする事が出来ない。
――C。
彼女を見つめ続けていた少年は、ふと息苦しさをおぼえ我に返る。
呼吸をする事も忘れ、いつの間にか溢れていた涙を拭う事もせずに、少年は少女に見入ってしまっていた。
何の為に自分はこの日を迎えたのか。――少年の心は軋む。
少年は自己に問う。
もし彼女が目覚めたとして、自分の携えてきた想いを彼女に伝えてもよいものかと。自分という存在を、彼女の前に表しても良いものかと。
彼女が黙って消えてしまった理由を考えれば、それは自分にとってもいい結果になるかはわからない――いや、きっとならないのだ。
そんなことを言いに来たの?
だからそれがどうなの?
思いつくのはネガティブな未来。彼女のサインに気が付けなかった己が無能への後悔。
だが過去へは帰れない。最善だった選択を探すことに意味はない。溢れた涙を腕で無理やり拭い去り、少年はもう一度しっかりと少女を見た。
そうしたらその時、本当に偶然に、彼女のその手に握られている紐のような布が目に飛び込んできた。
リボン。
“ボクがこの世からいなくなってもさ、誰もそんな事知らないまま楽しい事は巡っていくわけだよ――――”
――見失うもんか。
昨日の事のように鮮明に思い出される彼女の影に、少年は心の中で呟く。
あの時何と言えばいいかわからなくて黙ってしまった自分。けれど、今ならそれにだって、答えられる。
“なんでプレゼントがリボンなわけ? キミは本当にセンスの欠片もないなぁ――――”
彼はあの時の、彼女の笑顔を思い出す。
“ボク髪短いからあんまに合わないと思う。まぁ、気が向いたらつけてあげるよ。気が向いたらね――――”
少年は、あの時に見た少女の記憶のかけらを思い出す。
少女の手に巻きつけ握られたリボンを見ながら、彼は彼女に――きっとうまくは出来ていないだろう事を自覚しつつ――微笑みかける。
まだこの壁を超える事は出来ないが、自分は彼女をちゃんと見つけ出した。
次は会いに行く――その目の前に立つ。そしてあの時伝えられなかった気持ちを、受け止められなかった彼女を受け止める。
少年は誓う。今度こそ、少女をつかまえて見せると。
そしてその時言うのだ。この腕いっぱいに抱きしめて、おかえり、と。
了




