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星明りの塔と銀の棘

作者: kazae

 「星明りの塔と銀の棘」

           峰 かざえ




 星明りのランプを灯そう。

 遠くにいる君に届くように。



 夕方になると、街中に橙色のランプの光が灯る。

 星明りの声が聴こえる。私はこの声に呼ばれて目を覚ます。のそりとベッドから起き上がる。カーテンをほんの少しめくって、空に、藍色と紫が滲んでいるのを眺める。

 ああ、やっと今日も、夜。この優しい暗さに安心する。

「おはよう……兄さん」

 階段を下りると、仕事から帰ってきた兄さんが、野菜スープを煮込んでいた。美味しそうなミネストローネ。私の好きな、甘めの味の。

 まだ頭が回ってない私の、寝ぼけた様子を見て、兄さんが呆れた溜息をつく。

「おはようじゃないだろう……、今日も昼夜逆転した生活して。体に良くないぞ」

「こっちのほうが体のリズムにあってるんだもの。お日様の光は眩しすぎて、そっちのほうが体壊しちゃうの」

本当は、明るすぎる場所が苦手なだけ。

「占いに使うための、新しい水晶玉がほしいな。ちょっと買ってくる」

「一人で外に出て大丈夫か」

「いつものお店だから平気。兄さんも、お仕事のあとで疲れているでしょう。のんびりしてて」





 占いなんてただの気休め。それをお仕事にするほどの強い力は無いの。

「キミは未来を視ることができるんだね」

星明りのランプを買うお店で、よく出会う人がいる。

「星属性の人ってなかなか出会わないから、ちょっと珍しいなぁ」

「会って話しただけで、人の属性がわかっちゃうのね。あなたも星属性?」

これってナンパかしらね。

「まぁね。そういうものを買ってるってことは、キミは占い師?」

 私の持っている水晶玉を見て、そう尋ねてくる。

「私は……仕事はしてないの」

 普通、十五歳になったら、自分の属性に合わせて職業を選ぶ。属性というか、適性なのだけど。

 でも私は、何もできない。

 実家は花屋で、土の属性の兄が毎日鉢植えや切花を育てているのだけど、私はそれもほとんど手伝えてない。

 日の光に当ることが苦手だから。

「なんだか悩んでるね。どうしたの」

「別に、普段から私こんなだけど」

 あ、まただ。

 急に、目の前がすっと暗くなっていくような。

 ちかちかと、朧な光の粒が、目蓋の裏で瞬いている。

「キミみたいな症状の人を知ってる。大丈夫だよ。連れて行ってあげたいところがあるんだ」

「……あなたは、誰なの?」

「ボクは、夜空の天空造園師」

 銀色のピアスが、彼の左耳でちらちらと揺れていた。





「ここのお店、いいでしょう。夜中でも営業してるんだ」

 ガリザがつれてきてくれたのは、星明りのランプを看板につるした、コーヒーショップだった。

「光アレルギーなんですって? それはずいぶん辛い思いをしてきたでしょう」

「ミグラ、紹介するね。この子はボクの妹の、キャマラ。風花壇師なんだ」

 ゆるくウェーブががった黒髪に、薄くすけるような蒼色を何重にも重ねたドレスを来た少女だった。肌の色は陶磁器のように白い。笑った表情は、ガリザとよく似ていた。

「風花壇師……?」

「風を操って、空の上から花を散らす仕事なんだよ。花びらが風の中に溶けて、天候をコントロールするんだ。見せてあげて」

 キャマラが包みの中から取り出したのは、蒼い花びらだった。ふわりと指先ですくって落とすと、くるくると踊るような円を描いて落ちていく。花びらがまるで妖精の羽のように動くなんて。

「だけど、今、キャマラはこの仕事ができなくて困ってるんだ」

「できないって、どうして?」

「これのせいだよ」

 ことり。と、小さな音を立てて、石の欠片のようなものを卓上に置いた。

 灰色の枝のようだった。燻し銀の色をした枝には、鋭く尖った、牙のような棘が沢山突き出ている。

「この棘には毒があるんだ……。銀茨の枝だよ。これが凄まじい速さで育って、塔を覆ってしまったために、他の植物が育たなくなっている。これをどうにかして、刈り取らなきゃいけないんだ」

「でも、近寄ることができないのにどうやって」

「植物は、夜になると通常は成長を止める。キミの持ってる星明りの属性が必要なんだ。どうかボクを手伝ってほしいんだよ、ミグラ」

 ガリザは、卓上に、透き通った翠色を灯す丸い石をいくつか並べた。緑色の石は、蝋燭の灯火のように、ゆらゆらと揺れる暖かな淡い光をまとっている。

「これって……」

「加工前の星の欠片。これを手に握ってみて」

 私の手の中に置くと、緑色の石は、火がついたようにぼんやりと、揺れる橙色を帯びて輝き始める。

「ああやっぱり、キミが持つほうが相性がいいみたい」

 私が灯す、星の明かり。

 ずっと自分のこと、臆病で役立たずで、自分に自信がなかったの。

 私でも、何か頑張れるのかな。

 必要とされたい。何か、私にできることをやりたい。

「ガリザは、塔の茨を取り除きに行くの?」

「そのつもりでいるよ。あれがあると雲が出てきて、夜空が曇っちゃうんだ。ボクも星属性なんだけどね。あの塔を、夜の明かりの塔にしたいんだ」

「……私にも手伝わせて」

 一人でじっと引きこもっているのは、もうやめよう。

 少しでも、光の灯るほうへ。



☆  



 ずきりと、胸の傷が痛む。それは心象的な比喩ではない。本当に、傷跡が残っているのだ。

 子供の頃に、不用意に触れて肌に刺さった、花の棘が。

 花は美しい。

 癒される。

 愛すべきもの。

 普通はそう思うだろう。だけど、私にとっては怖いものだった。私を傷つけるものだった。

 ガリザから銀茨の塔の話を聞いて、私はそっと、服の内側に隠して身に着けているチャームのペンダントを取り出した。銀色の花。妖精の羽のような形の、小さな花弁が重なり合った、星のような形。

「僕は天空造園師になるよ。君のために、銀のリファの花を育てるから」

 これをもらったときに、そんな言葉をもらった。あの声を今でも覚えている。忘れてしまいたいと思ったこともあるけど、いまだにこのペンダントと一緒に胸にしまいこんである。

 あの人は、今も元気にしているだろうか。私のことは忘れてしまっただろうか。

 銀の飾りを身に着けることはできないけれども、今でも私はこれを捨てられずにいる。本当はこの銀飾りは偽物だ。頂いた銀飾りを着けることができないとわかってから、樹脂細工師にそっとお願いして、銀色の塗料でそれと似せて作ってもらったもの。こんなもの、着けてても何の意味もないのに。それでも、持っておきたかった。

 天空造園師。その名前が好き。素敵な響き。

 

 茨の塔。

 封じられた記憶。

 光を灯す星の欠片。


 夜空の天空造園師。


 私でも、明かりを灯すことはできるかな。

 光が欲しい。



  ☆



「私ね、銀アレルギーだったの……」

 恥ずかしさのあまりに、声がかすれて消えそうになる。

 なのにどうして話そうと思ったのか、自分でも不思議だ。

 私は銀を怖がっている。ガリザはそれを見抜いたんだ。なのに、私の目はずいぶん愛しげに、そして悲しげに銀色を見つめる。それには何か意味があるの? と。問いかけられた。人の心を見抜く力は、星属性に通じるものがあるらしい。 

 銀茨の塔。燻し銀の色をした枝が、あちこちに茂っている。枯れた枝はただ地面に転がっているだけだからまだ平気。これの主幹が奥にあるはずだ。

「銀アレルギー?」

「実は、婚約者がいたのだけど、婚約指輪をもらったときにわかったの」

 指輪とネックレスが揃いになっていた。

だけど、それに触れた手も、指も、首元も、真っ赤にただれて、アクセサリーを付けることができなかった。

「私、結婚なんてできない……」

「それはアレルギーなんかじゃないよ。銀茨の棘が刺さって、毒のために中毒症状が出てるんだ。毒を抜くことができれば、そんな症状なんかでないよ」

 ボクが助けてあげる。

 一緒に、銀茨の塔に行こう。

 そう告げて、ガリザが私の手を取る。

「銀茨の毒を取り除くことができれば、キミの銀アレルギーも治せるはずなんだ」

「そんなことができるの?」

「アナフィラキシーショックみたいなものだから」

そんなことができたのなら、オリバも、がっかりさせずにすんだのかな。

 私に、銀のアクセサリーと指輪を手渡して。それきりだった。

 もっともっと、私が、嬉しかったって上手に伝えることができたらよかったのに。

 私が、ごめんなさい、これを身につけることができません、と伝えると。悲しそうな顔をして、「ごめんね」って笑っていた。

 それから一切の連絡が取れなかった。

 二ヶ月後に伝えられたのは、『婚約は取り消しにしてほしい』という電報。

 待って。私、そんなつもりじゃない。

 私は嬉しかったのに。

「ミグラどうしたの、気分でも悪い?」

「ねぇ、ガリザ、あなたならどう思う」

「え」

「もし男の人の立場だったら……、せっかく用意してくれたエンゲージリングを、身につけることができません、なんて言われたら、そんなに傷つくかしら」

私は胸につけている、偽の銀アクセサリーを取り出す。

「本当は……キミに伝えなきゃいけないことがあるのだけどね。聞いたら、キミはボクのこと、許せないとかもしれないけど、聞いてくれるかな」

 瞳を少し、彷徨わせて、ガリザが小さく微笑んでいた。隠してた悪戯がばれてしまった、子供みたいな目をしていた。





「本当は、キミは婚約破棄なんかされていない。キミは何も悪くない。

 天空造園師だったオリバが、キミのことを突き放したのは・・・・・・キミをここに来させないためだったんだよ」

 あの人の名前が出てくるとは思わなかった。

「オリバのことを知っているの」

「だって、仕事仲間だったからね。ボクっていろいろできるんだよ。ボクは、元・天空造園師。今は引退したけどね」

 黒のジャケットの胸ポケットから取り出したのは、鋏。天空造園師が植物の剪定に使う鋏だった。

「私をここに来させないためって、どういうこと? ガリザ、あなた、一体何を知っているの? 今の言葉はどういう意味なのか教えて」

 昼間に咲く花は沢山ある。リファの花を育てることで、空の気候を安定させる。

天空造園師はそのために、空に届く高い塔に、植物を育てる。

 夜に咲かせる花を育てたかったんだ。星明りの灯るアーチを作って、そこに花を覆わせる。

 だけど、うまく行かなかった。銀茨は花を咲かせなかった。毒性を持って、そのまま茨だけが育ってしまった。

 ボクが育て方を失敗したからいけなかったんだ。星明かりが足りなかった。光が足りないと、茨は毒を持つ。棘の枝ばかりが育って、花が咲かない。

 夜空の天空造園師になるはずだった。それは笑っちゃうくらいに、見事な失敗に終わったんだ。

「銀茨の棘に捕まりそうなボクをかばって、オリバは棘に刺されて、塔の中に取り残されてしまったんだよ。棘の毒で、今は石化状態のままになってると思う」

 想像もつかない言葉に、私は指先から全身が一気に冷えていくような感覚がした。

 私との婚約に失望して、連絡が取れなくなったんだと思っていた。

知らない間に、オリバが、そんなに危険な目にあっていたなんて。

「本当は、ボクが助けに行かなきゃいけないって思ってた……。でも、一人じゃ何もできないのもわかっていた。

 キミを巻き込まないようにって、オリバから言われたのもわかってた。だけどボクは、自分勝手を承知でキミをここに連れてきた。

 今のままじゃ、誰も幸せにならないから。

 キミから大切な人を奪ってしまってごめんね。ボクのことを一生憎んだってかまわないよ。

 でもボクは、自分の親友を助けたいと思ってる。

 オリバにとって大切な人だった女性を、不幸せにしたくないと思う。

 こんなボクだけども、少しだけ、キミの力を貸してもらってもかまわないかな」

 ガリザは、肩をすくめながら、小さく微笑んだ。

「あなたはそうやって、自分ひとりでずっと抱え込んで悩みながら過ごしてきたのね」

「仕方ないよ。自分のせいだもん。どうしてオリバが帰ってこないのに、ボクがこんなところでのうのうと過ごしてるんだろうって、毎日毎日思っていたよ」

「……行きましょう。私に、本当のことを教えてくれてありがとう」

「キミが銀アレルギーなのは、きっと意味があるんだ。キミにしか触れることができない何かがあるはずだ」

「もし、ここから無事に帰れたら、一つだけお願いがあるの……」

「なぁに」

「私に、銀の指輪を……贈ってちょうだい?」

ガリザは微笑んで、左耳につけている銀のピアスを外した。

「これあげる」





チカチカと、目蓋の裏に、白くて小さな光が瞬いて見える。まただ。何度もこの光が、脳裏にちらついているんだ。これは何のシグナルなんだろう。星明りのランプの光に似ている。私の好きな占い。水晶玉の中にそっと星明りのランプの光をかざすと、光の色が少し変わって見えるから、何か先のことがわかる気がする。

特に何の特技もない私が唯一できる、星属性の占い。

「こいつがなかなかやっかいなんだよね……」

 ガリザが、うんざりした口調でつぶやいて、枯れた棘を剪定鋏で刈り取っている。

 銀茨に花を咲かせたかったんだ。

 星の光が足りなかった。

 ガリザはそう言っていた。

 顔には出さないようにしていても、酷く後悔しているように見える。

 銀茨がうまく育ったら、花が咲いたら、銀アレルギーを治せる。花を使って、アレルギー症状を消すことができる。そんなの、私がもっと早く知っていたら。オリバが私のために頑張ってくれているって、もっと早く知ることができたかもしれないのに。

「茨を全部刈り取ってしまわないとね」

 ボクがまいた種なのだから。

 低く呟くガリザの声に、何かひやりと冷たいものを感じた。これは、危機感。この先に踏み込んではいけないような、何か恐ろしいものがある。

「さてと、ここから先はボクのお仕事」

 にこりと、能天気で朗らかな笑顔を作って、ガリザが私の方へと振り返る。

「この塔をもう一階登って、さらにもう一階登ると、ようやく屋上へと続く階段通路があるんだけどね、そこに順に、星明りのランプを灯してきてほしいんだ。ボクはその間に、ここに茂っている、邪魔な銀茨の枝を刈り取っておく。大丈夫、キミが星明りのランプを持っている限り、

棘が刺さることはないよ。だから一人になっても危険はない。安心して」

「私は危険じゃないとしても、あなたは大丈夫なの?」

「屋上にランプが灯れば、光が塔の全体に灯るから、あとは毒の消えた茨を刈るだけだ。でも、ここの棘がどうやら一番大きく育ってしまってね……、オリバと仕事してたときも、ここで失敗しちゃったんだよ」 

 枯れた枝の一つを足で払いながら、ガリザは進んでいく。

「本当の銀の指輪は、ちゃんとキミの婚約者からもらってね。ボクができるお仕事は、ここまでだから」

 党全体が星の明かりで包まれたら、ざぞかし綺麗な光になるだろう。

「夜の空を切り取って、星の花を咲かせよう。キミの力が必要だ。協力してくれるよね?」

 泣いていたときのことを思い出した。

 兄さん、私、結婚なんかできないわ。

「別に無理に結婚なんてしなくていいよ」

 あれは嘘だった。

 どうしてあんな、心にもないこと言ってしまったの。

 ううん、それはきっと、意味のあること。

 ここに、たどりつくために。





「見つけたよ……」

 やっとたどりついた。

 あなたと離れてしまわなくてよかった。

「人の縁というのは不思議だね。まるで星座みたいだ。離れているように見えても、散らばっているどれかとどれかが、目に見えない線と線でつながっているんだよ。それはきっと、キミの運命だ」

 今、助けてあげるからね。

 私のこと、待っていてくれてありがとう。もっと早く気づいてあげられればよかった。

 あなたはたった一人で、私のために頑張ってくれていたんだね。

 銀色の花が見てみたい。

 私ができるのは、夜空に灯る明かりをあなたに差し出すこと。

 この光を使って、天空造園師、あなたは夜空に花を咲かせてほしい。

 銀茨の蔓が、するするとほどけていく。

 棘さえ無事に処理できれば、あとは簡単に手折ることができる。

 あなたを助けるための力を持ったのが、私の属性でよかった。

 出会えてよかった。

 茨の枝を切り終わって、ガリザがほっと深い息を吐いた。

 砕かれた枯れ枝と棘の残骸が、ガリザの手からぱらぱらと滑り落ちる。

「オリバは無事なの……?」

「大丈夫、完全に回復するまで、体に麻痺が残るかもしれないけど、すぐに良くなるよ」

 星明かりのランプをかざして、オリバに近づく。

 青白い顔色の彼の表情に、少しだけ温かな橙色が映る。

 ガリザが肩を軽く揺さぶると、瞬きを数度繰り返して、オリバは目を覚ました。

「……あ、ガリザだ」

 寝ぼけた様子ののんびりとした口調で、呑気に呟いていた。それを聞いてガリザがぺしんと軽く額を小突く。

「わぁ、俺のこと助けにきてくれたの。ごめんごめん」

「ほんと馬鹿だよねキミね。なんで目が覚めて第一声でそんな能天気なこと言えるの。あと言っとくけど、キミを助けたのははっきり言ってボクじゃないからね。

 寝ぼけてるかもしんないけどよく見てね。ほら、キミが一番会いたい人で、今一番会いたくない人がいるでしょう」

 オリバはきょとんと首をひねらせて……やっと、後ろに立っている私の姿に気づいたようだ。

 石化しているときよりもよっぽど強張った表情をして、全身を硬直させていた。私のほうが気の毒になるくらいに、仰天していた。

「うおわわあああああガリザ何やったのほんと」

「しょーがないじゃん。キミが馬鹿だから助けにきたんだよ」

「だからなんでミグラがいるの、うわあああああやめてちょっと本当それだけはやめてっていったじゃん、死ぬほど恥ずかしいんだけど」

「言っとくけどキミ一回死んでるようなもんだからね。誰も助けに来なかったら一生ここで銀茨の棘の中で固まっててそのまんまだからね」

「うわああああわああああ、情けない本当情けないまじやめて本当何も見なかったことにして」

「だいたいボクの気持ちもちょっとは考えてよね、キミばっかかっこいい役やりたがっててさぁ」


 あなたを、助けにこれてよかった。





「ミグラ、無事に再度婚約が決まったんだって? おめでとーー」 

「そんなことはないわよ、まだまだ今やりたいこともあるし。星明かりの占い師になりたいし」

 あれからガリザは、よく私のお店に遊びに来る。正確に言うと、私の家、兄さんが経営する花屋にちょくちょく顔を店に来る。

 私の胸には、ちゃんとオリバから贈ってもらった銀のアクセサリーがかかっている。これは本物の銀。少し時間はかかったけど、触れた肌が真っ赤になるアレルギー反応はようやく改善された。

「ええ、そんなことないでしょう、あいつよくのろけてるよ」

「でも仕事が忙しいんだって。私もあんまり会えてないし、もう少し結婚は先延ばしにしたほうがよさそうね」

「えーなんかつまんない。せっかくボク頑張ったのにー、オリバとミグラが喜ぶと思って」

 もちろん喜んでるわよ。と。星屑の欠片を磨きながら心の中でそっと告げる。

「夜空に花をまく風花壇師って、そういうことできるのかしら」

「え。ミグラは占い師じゃなくて、風花壇師になりたいの」

 ガリザがきょとんと目を丸くする。

「私、星属性で、昼間の光が苦手だからね、あまりオリバの天空造園師の仕事、手伝えないと思うの。だったら、できるだけ、オリバの仕事に近いことできるとしたら何かなぁって思って」

 できることなら、好きな人のそばにいたいから。

 キラキラと、目蓋の裏に見える小さな光の粒がある。

 きっと、銀茨の塔から散らしている星明かり。

 ああ、あの光を手に入れるためのめぐり合わせ立ったんだ。

 早く手に入れよう。

 未来を照らすための星明りのランプ。



               【了】





コバルト短編新人賞・もう一歩の作品でした。

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