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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

紫陽 圭

コン太と私

作者: 紫陽 圭

 昔の(疑似)日本の田舎での話。 1匹の子狐に会った少女のひと時。

「コン太、どこぉ?」

「クーン」

 呼び声に答える鳴き声。

 そちらを見ると、1匹の子狐こぎつね。 

 会えたことに安心して近寄ると、向こうからもトテトテと歩いてくる。

可愛い。

 いつもなら、笑顔全開で抱き上げてギュッてするけど、今日は出来なかった。

かすかに微笑んで、そっと抱き上げて軽く頬ずりをすると、目を合わせる。

なんか、泣きそう……。


「コン太、ごめんね。 おやしろ、無くなっちゃう……。」

「……。」

「古くなったし、誰も来ないし、らないから壊すんだって……。 あそこはコン太のおうちなのに……。」

「……。」

「やめてってお願いしたけど、ダメだって。 古くて危ないし、最近うろついてる悪い人が隠れたり住みついたりすると困るから、って……。」

「……。」

「おやしろ無くなったら、コン太は何処どこに住むの? 居なくなっちゃう? もう会えない?」

「……。」

「……ウチに来る? ごめんね、無理だよね。 あんなにひどい怪我けがしてて、その手当ての間だけって言ってもウチに来なかったんだから……。」

「……。」

「私が大人だったら、新しく、大人がはいれない小さなおやしろを作るのに……。」

「……。」

「そうか。 作ればいいんだ。 今みたいなおやしろじゃなくてもいい? 木と石で、雨や風が入って来ないくらいのなら作れるかも……。 そしたら、そこに住んでね?」




 私の家は小さないおり

『お稲荷いなりさんの森』に入って少ししたところに有る。

祖父じいちゃんが森の木を切って小動物を狩って、私が木の実を拾ったりたきぎを集めたりして生活してる。

祖母ばあちゃんとお父さんとお母さんは病気で天国に行っちゃったんだって。


 森をさらに奥に入ると綺麗な池が有って、そのほとりにお稲荷いなりさんのおやしろが有る。

ここがコン太との出会いの場所で、今、私が居る場所。




 ある日、奥は危険なけものが出るかもしれないからダメだと言われていたのに、薪拾たきぎひろいに夢中になってたらおやしろの前まで来ていた。 

 その横で、おなか怪我けがしてうずくまってたのがコン太。

見つけた時にはビックリした。

だって、お稲荷いなりさんのおやしろの横にきつねだよ?

神様の化身けしん御遣みつかいだと思うじゃない。 

 驚いて、でも可愛くて思わず近寄ったら怪我けがに気付いて、またビックリ。

神様の化身けしん御遣みつかいが怪我けがしてるなんて……!

だから、普通の子狐こぎつねとして扱うことにした。

 近づいても逃げなかったから、抱き上げてウチで手当てしようとしたら、思いっきり暴れられた。

傷口が開いたのか、止まってた血が流れるのにも構わず暴れるから、絶対イヤだって気持ちが伝わって、連れて帰るのはあきらめた。

池で血を落とし傷を洗い、持ったいた傷薬を塗って、手拭てぬぐいを巻く。

すると、おやしろの階段を上がるから、ドアを開けると奥で丸くなる。

 『ココに住んでるんだなぁ』って分かって、『ココに来ればまた会える』って嬉しかった。

だって、友達が居なくてさびしかったから……。

近くには同じ歳や年下の子供は居ないし、少し上の子は村で仕事が忙しかったり街に奉公に出てたから。

『コン太と仲良くなれたらなぁ』って思った。 

『コン太』って名前は私が考えた。

怪我けがの手当てで話し掛けるときとか、名前が無いと呼びにくかったから。


 毎日、怪我けがの手当に来た。

稲荷いなりさんみたいに油揚げを食べるか分からなかったし、油揚げは私達では手に入らない。

だから、オカラとお肉を少し持って来た。 

 回復したころには、お祖父じいちゃんが心配するから毎日は無理でも、時々会いに来た。

迷うこともけものに会うことも無かったけどね。

コン太は池の浅瀬で小魚やカニを捕って食べてた。

やっぱり普通のきつねなのかなって思った。

呼ぶと出てくるし、私の隣にちょこんと座って話を聞いてくれる。

それだけで嬉しかったし楽しかった。




 さて、おやしろの取り壊しが決まって、私はコン太のおうち作りを始めた。


 お稲荷いなりさんにお祈りして、周りの石垣の石を使わせてもらった。 おやしろが小さかったから、石垣の石も子供の私でも運べる大きさだった。

運ぶ場所は、近くのほらの有る木の横。

ここなら、おうちが壊れてもほらに避難できる。


 石を並べて、そこに池の泥を乗せて上に石を積む。

祖父じいちゃんがかまどを作っていた時の様子を思い出して作る。

床にも石を敷いて小枝を敷いたうえに木の葉を敷き詰める。

木の葉は、いい香りのと虫除けと湿気取りのと、少しだけ傷を直すものも混ぜる。

 屋根は石では無理だった。

私の力が足りないし、どうやるのがいいのか分からなくて……。

だって、お祖父じいちゃんのかまどには屋根なんて無いんだもの。

だから、左右の壁の上に太い枝をびっしり渡し、その上に交叉させるように細い枝を乗せて、大きな葉っぱを敷き詰めた上に一番下と同じように太い枝を渡して、壁の上に重石おもしの石を乗せた。


 近くとは言っても子供の足にはそれなりに遠く、子供の力では一度に運べる石も少なく、枝や葉を見つける時間も必要だった。

大変だったし時間もかかったけど、楽しかった。

自分でも出来ることが有る、それが友達の為になる、完成すれば友達が居なくならない……。

 それに、コン太は何も出来ないけど、いつでもそばに居てくれた。

私の横をテトテト付いて歩き、ちょこんと座って作業を見てた。

それだけで嬉しかった。




 そして、とうとう完成。

 やったぁ! ってことで、今日はお稲荷いなりさんに報告とお礼に来た。

油揚げは無理だから、おからを持って……。

取り壊しは3日後だから、最後のおまいりになる。

 石を運び出すのが終わって、久しぶりのおやしろ

そこには、知らない人たちが居た。

大きな、怖そうな大人の男の人たち。

なんとなく、近づいちゃ危ない気がして、近くの木に隠れる。


 おやしろの中から1人がおそなえ用の台を持ち出して、お酒を飲み始める。

大声で騒ぎ、お稲荷いなりさんの石像を蹴飛ばして壊して盛り上がってる。

信じられない! 

 思わずコン太を見ると、私の横に座ってじっと見てる。

そっと抱き上げて、『ごめんね』とつぶやく。

だって、あんなことになってる。

それだけでも苦しいのに、私には何も出来ない。

怖くて震えて身体が動かない。 

『どうして、そんなことするの?』『どうして私は子供なの?』『どうして私は何も出来ないの?』 悲しくて悔しくて、頭の中がぐちゃぐちゃで何も考えられなくて……。


 そんな時、風が吹いた。

突然の強い風にあおられて、子供の体は簡単によろめく。

 そして、『あ……』、男の1人と目が合った。

慌てて逃げようとするも大人の足にはかなうはずもなくて……。

 あっさり捕まったと思ったら、『邪魔だ』と放り投げられて、落ちた先は池。

その瞬間にコン太の鳴き声が聞こえた気がする。


 とぷんと池に落ちた後は、ゆっくり沈んでいく。

 初めは何も考えられなくて、このままじゃ溺れると気付いてもがこうとしたら、足に水草がからんで動けなくて、水草をはずそうとしたら息が苦しくなって……。

 一瞬、今は池に沈んでいるというお稲荷いなりさんの昔のおやしろが見えた気がした。




 ……ココはどこだろう?

青い空に一面の花畑。 そよ風に揺れる花の音しか聞こえない。

なんとなくボーっとして立ち尽くす。


 『クーン』 鳴き声? まさか、コン太? 見回すけど居ない。

足元に触れる何かを見下ろすと、コン太が居た。

抱き上げると温かくて、ホッとする。


「コン太、ここはどこだろうね。 きれいだね。 でも、お花畑しか無いよ。」

「……。」

「だれか居ないかな。 私はどうすればいいのかな。 おうちに帰れるのかな。」

「……。」


 その時、少し強めに風が吹いて、コン太が私の腕からすべり降りる。 そして、いきなり走り出すから思わず追いかけた。


「待って! どこに行くの? 置いていかないで!」

「……。」

 泣きそうになりながら追いかけるけど、コン太は止まってくれなくて……。 やっと追いついたと思ったら体が浮いて、あたしより少し上に居るコン太に手を伸ばすけど捕まることができない。


 そのまま、何かに吸い寄せられるように上に上がっていく。

手を伸ばし続けてるのに、コン太とも距離は埋まってくれなくて……。 


 『コン太!』 私の叫び声に、『コーン!』とコン太にしては珍しく大きな鳴き声が返ってきた気がした。




 ********** 完 **********

 「『なろう』に江戸時代の話って無いよね」という友人の言葉から、なぜか予想外の話が生まれまして……。

さらに、どう考えても、完全なハッピーエンドの話が思い浮かばなくて……。

そして、こんな話が出来上がったのでした(笑)。


 コン太の正体もエンディングの真実も、作者は敢えて考えてません。

沈むのではなく浮かんでいった、その先に有るものは……?

自由に想像してくださいね。

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