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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

コンテニュー?

作者: 大場鳩太郎

 都心からはラッシュアワーが消えていた。会社に向かうスーツの群集も、クラクションと排気ガスを垂れ流す渋滞の原因ももう見当たらない。

 およそ二週間前から突如蔓延し始めた新型のウィルスは、いよいよ文明そのものを駆逐し始めている。


 少年は息を切らしながら、走り続けている。呼吸するのが苦しい。心臓が痛い。

TVゲームだけが趣味の平凡な中学生であった彼にとって、生涯でもっとも過酷なマラソンが続いていた。

 許されるならばすぐに足を止め、道路の上で大の字になりたい。

だがそれは自殺と同じ行為を意味している。


「ねえこんな時、ロケットランチャーが欲しくない?」


 並走するアンナが話しかけてくる。帰国子女で、米国でガールスカウトに所属していたという彼女は、まだ余裕があるらしく息も切らしていない。

「もしくはグレネードランチャーでもいいけどさ」

「横須賀の……米軍基地まで行かないと……」

「じゃあサブマシンガンかショットガン」

「ていうか……日本は……銃社会じゃないし……」

「それならチェーンソーか金属バットは?」


 息が続かないから、いい加減、少し黙ってくれとも思うが、彼女なりにこの緊迫した空気を和らげたいのだろう。


「それなら……」

「それなら?」

「さっき通り過ぎたホーム……センターにあるかも……」

「引き返してみる!」

「無理……というかそんなので……勝てるわけない……」

「……だよね」


 アンナが相槌をしながら振り返る。

 数百メートル後方に『奴ら』が見える。新鮮で希少な人間の肉を求めて、群をなし追ってくる化け物。常に腹ペコな奴らのことだ、歩を緩め、捕まればその時点で彼らの朝餉が始まる事は想像に容易い。

新型ウィルスの恐ろしさはインフルエンザ並みの感染力にも、ペスト並みの致死性にもなく、何より感染者が死後、ゾンビとしてよみがえることにあった。


「結局、私たちにできるのはひとつだけか」

「ひとつ?」

「そう。逃げることだけ」

「それ当たり前じゃん……」

「でもゲーム的にはなしでしょ?」

「ゲームって……?」

「ただ走って逃げるだけのゾンビゲームなんて退屈と思わない?」


 アンナは意外にもゲーム通で日本製にも詳しくこうしてよくゲームの話題を振ってくる。知り合って日の浅い彼女とすぐに打ち解けることのできた貴重な共通点だった。


「確かに……つまらないかもね……」

「そうよ。JUNKクソゲーよ」


 けれども少年は心の中ではそういうゲームもありじゃないかな、と思っていた。

 何故なら、家族の安否も分からず、この先の生活も保障されない、ましてや今でも危険に晒されているこの状況が、何故かすこしだけ楽しかったからだ。

 アンナはどう思っているんだろう。

 だがそれを確かめる永遠に機会は与えられなかった。

 何故なら。


「!」


 進路上を塞ぐような形であった乗り捨てられた軽自動車、その陰にいた数匹のゾンビたちが一斉に襲い掛かってくる。

 横からの不意打ち――突き飛ばされ、アスファルトを転げる。顔を上げ、何が起きたのか確認したようとした頃にはもう手遅れだった。

 息切れで動けない少年を突き飛ばして庇ったアンナがゾンビたちに囲まれ、長い髪をつかまれ、のしかかられている。

 そして悲鳴を上げる間もなく、白い首が噛み千切られ、血しぶきが上がる。

 痙攣し、完全に事切れ、奴らにとって待ちに待った食事が始まるまでの間、少年はただただ膝をつき傍観するだけで何もすることができなかった。


 更に絶望的なことに、少年が足を止めたことで後方からゾンビの群がすぐそこまで迫っている。残された体力ゲージを考えると、再び逃げるだけの余力はもうない。


 この窮地から、すべてを挽回する為に、できることひとつ(・・・)しか残されてなかった。

 

 僕が・・諦めてリセットボタンを押すと、ゾンビの群に襲われかけた少年は目の前から消え、画面が暗転した後に表示された文字を選択した。


→【GAME CONTINUE】

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