第五回 :風の妖精族について
メレテリア世界には多くの種類の亜人が存在しますが、その中で広く存在が知られている亜人種の区分として「妖精族」があります。妖精族とは、世界黎明期に「精霊界」に移住した人族や竜族の末裔が、神代の末期に物質界に再移住した種族群です。
その中で風の精霊と縁近い存在が、風の妖精族と称される「フェアリー族」や「グレムリン族」となります。彼等に共通する特徴は、風と縁近いと言うだけあり、軽量で小柄な体躯と有翼であること等があります。
「フェアリー族」は、華奢で整った容貌と昆虫の翅に似た翼を持つ小柄な種族です。「フェアリー族」は、蝶の翅の様な翼を持ち魔法の才に優れる「貴族種」と、蜂や蜻蛉の翅の様な翼を持ち各地を放浪する「平民種」に区分されます。人間に知られているのは主に平民種です。
「貴族種」のフェアリー族は南方・東方・西方の三大陸にそれらの国が存在していることが知られており、南方のフェルン大陸にある「妖精王国」の女王を頂点とした女性優位の階級社会が構成されています。(言い方を変えると女尊男卑社会であり、男性のフェアリーは軍事的な役職以外での高位の役職を持つことはまずありえません。貴族種のフェアリーの男性の殆どは最下位の爵位である騎士位でしかありえず、女爵(男爵)以上の爵位を得ている男性フェアリーは稀です。)
対して「平民種」は「貴族種」と異なり、定住することなく各地を旅して、吟遊詩人や旅芸人……それと盗賊や密偵をしている者が多くいます。そんな「平民種」と「貴族種」が関わるのは、年に数度催される「妖精王国」(もしくは、「妖精公国」)が主催する宴です。「平民種」は少なくとも年に一度はこの宴に出席する慣習となっています。
「フェアリー族」は、基本的に人間と友好的な関係を保っており、一般に「風の妖精」と言えば彼等「フェアリー族」のことを指します。
「グレムリン族」は、獣にも似た醜悪な容貌と硬質の皮膚に、蝙蝠のそれに似た皮翼を持つ小柄な種族です。「グレムリン族」は魔王を信仰し、人間や他の亜人族に対し襲撃・略奪を行う為に、「妖魔族」あるいは「魔族」に分類されますが、主に高空を小部族単位で放浪する生活形態を取っており、休憩地や食料等の確保に人間などの集落を襲撃する事は稀であり、普通の人間にはあまり馴染みのない種族です。
しかし、「グレムリン族」はアティス大陸では、ある理由から有名です。それは、自力の飛行能力を持たない存在が空を飛ぶことを忌み嫌う、彼等の独自の価値観から、飛行型魔法機械に騎乗する「空戦騎士」を好んで襲撃することによります。その為、アティス諸王国、特に空戦騎士達は「グレムリン族」を「空の悪魔」と呼んで恐れています。
「フェアリー族」と「グレムリン族」は、同じ「風の妖精族」に分類される存在ですが、お互い敵対しています。「フェアリー族」は、「グレムリン族」を魔王に魂を売った存在と忌み嫌い。「グレムリン族」は、空を生活の場としなくなった「フェアリー族」、特に定住の習慣を持つに至った「貴族種」のフェアリーを「風の妖精」としての誇りを失った存在と蔑んでいます。