神童、だけども魔王
解説回です。
※説明的文章ばっかりです
魔王は実際には存在していました。
人間の定義したそれをもし当てはめるなら、彼女こそが魔王でした。
それが王と呼ぶにはあまりに幼い少女であったとしても……。
魔王は魔を統べる悪しき王――。
魔王は世界を終焉に導く災厄――。
魔王は人間を襲う人類の敵――。
……どれもこれも人間が自分達の都合の良いよう勝手に脚色された虚実。嘘八百もいいところです。
浸透しきったこの嘘は、実際のところは事実とまったく異なるものでした。
(これは魔王sideで語られる物語。人間sideでの物語とは多少ズレが生じる場合があります。ご注意下さい――)
実際には彼女は魔の者などではありませんでした。
その生い立ちはむしろ逆、彼女は神聖である神の子供だったのです。
彼女の親は神でした。育て親と言った方が正しいです。
類い希なる才に恵まれた彼女は、神直々に引き取られます。
そして、彼女は幼くして世界を平和に導く為、使命を帯びることになるのです。
「――フィーン、お前を済世庁最高長官に命じる。頑張ってくれ」
「はい、お父様! このフィーン、お父様の為、全力でこの任を全うさせて頂きますっ」
「うむ。天界にてよい知らせが来ることを期待しているぞ」
彼女――本名、フィーン・ディナト・クラティモスが神から賜った使命は“天界の守護”。
では、それが一体どんな使命だったのか。それを話すためには、天界と人類の関係について少し知ってもらわなければなりません。
天界は別に人間の味方でも何でもありません。それは今も昔も変わらないことです。
しかし人間は勝手に神を信仰の対象とし、崇拝していきました。
そこまではまだ良かったのですが、問題はここからです。
やがて行き過ぎた崇拝は、冒涜と化し。
調子に乗り出した人類は、次第に自分達が最強かのように、横暴に振る舞い出し。
度重なる自然破壊や生物の殺傷は、生態系のバランスを崩壊させ、世界をどんどん歪ませていきました。
神にとっては、もはや人類こそが世界を終焉に導く災厄に成り果てていたのです。
つまり人類は神を敵に回したのです。
そして頼るべき信仰の対象がいなくなった穴を自分達に見いだそうと。つまり、自分達が神になろうとしたのです。
これに怒った天界。人類を世界には不必要な存在と規定し、彼らの排除に打って出ることになります。
……と、ここまでが両者が対立するまでの歴史です。
先程、人類は信仰対象を自分達に見いだそうとした――と述べました。
しかし、実際そうしようとしていたのは国の実権を担う上層部のみで、庶民に厚く浸透していたそれを改変させることなど出来ませんでした。
信仰対象と対立するなど、反乱の元となり、自分達の首を絞めるだけ……そう悩んでいた上層部。そしてひらめきました。
天界はそのまま信仰対象として残し、天界から送り込まれてくる殲滅軍を悪しき存在“魔”の者として仕立て上げればいいのだ――と。
これが彼女が魔王と呼ばれた理由。。。
世界の中心に高く高くそびえ立つ螺旋階段。その果ては天界まで続きます。
人間は愚かにもそれを登ろうと度々進出してきます。
フィーンの役目は、それを阻止することにあります。
螺旋階段を囲むように造られた済世――世の中を救うこと――をする庁、済世庁。
人間からは魔王城とも俗称される其処は、人類と対峙するにあたって攻防の拠点になるのです。
そして彼女は其処の王。実質上、最高権力を持ち、地上界においての全権限をも委託されています。
しかし、彼女はあまりに幼すぎました。
では、何故彼女がこれに抜擢されたのか。それは今後話すとしましょう。
物語を進めていくうえでの、ちょっと曖昧だった“魔王”についてのご説明回でした。
かなり色々詰め込ませて頂きました、すいません。
次回はいよいよ、冒険者退治が始まります!(相手は初心者パーティーですが)