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八重鏡  作者: 藤崎悠貴
たましいを守って
97/122

たましいを守って 4-1

  4


 エゼラブル王国は魔女の国として有名である。

 事実、エゼラブル王国の変わった社会構造として、魔法に素質のない男、ならびに女は、エゼラブル王国で生まれても、そのまま国内へ留まることが許されない。

 エゼラブルの地において、魔法の才能がないというのはエゼラブルのためにならぬということ、それゆえに排除され、エゼラブルは何代にも渡って純粋な魔女の国であり続けたのである。

 代々女系の、魔女の国。

 他と交わらぬからこそ大陸中である種特殊な地位を築いていたかの国も、皇国の呼びかけに応えて出兵を決めた国のひとつであった。

「うう、まだ着かないのかなあ。遠いなあ、皇国って」

 エゼラブル王国の女王は、代々王国最強の魔女である。

 当然、その娘、エゼラブル王国の王女も優秀な魔法使いではあるのだが、まだいささか幼く、力も足りない様子。

 黒いマントを羽織ったのが、青い空を二百人から、ばさばさとなびく裾が蝙蝠かなにかのようにも見える。

 実際速度も鳥と同じ程度、ことさら早いということはなく、地上からでも充分見えるから、ときおり農民が見上げた空に黒点がいくつも散っていて、指をさしては魔女たちの移動を精いっぱい追いかけている。

 その先頭を行くのが王女ロゼッタだが、ふらふらと落ち着かず、横へ寄っていっては別の魔女にどんとぶつかり、反対へ行ってはまたぶつかり。


「王女さま、ロゼッタさま、しっかりしてください」


 ため息混じりに年長の魔女が肩を抱えてやると、ロゼッタは不承不承空を飛んでいるという顔で、


「だって、もう何時間飛んでるかわかんないくらい飛んでるでしょ。疲れたあ、休みたいー」

「だめです。さっきもそんなこと言って休んだばかりじゃありませんか」

「さっきって、お昼前のことでしょ? もう夕方だよ」

「今夜は夜通し飛ぶことになりますから」

「えー」

「えーじゃありません。ロゼッタさまが何度も休むから、本当ならもう皇国へ着いているころなのに、すっかり遅れてしまってるんですよ。一応、先にひとり行かせて、遅れる旨を報告していますけど」

「だってうちから皇国まで遠いんだもの」


 まだまだ子どもらしい風情を残すロゼッタは、つんと唇を尖らせて拗ねた顔をする。

 それに年長の魔女がため息をつき、それらはすべて上空を移動しながらのことだが、真正面からひとりの魔女が飛んでくるのに気がついた。

 報告のため先に行かせていた、ロゼッタよりもいくらか年長という若い魔女である。

 持てるかぎりの速度で戻ってきたのだろう、息を切らし、魔法の力も尽きかけているから、両側からふたりで支えてやる。


「ロゼッタさま、ご報告いたします」


 と落ちかかった前髪をぐいと上げ、汗の浮かんだ額に風を当てながら、若い魔女は言った。


「皇国ではすでにわれわれを除くすべての国が合流し、今朝、皇国を発ちました」

「た、発った? そんな、ここまできたのに間に合わなかったってこと?」

「皇女クラリスさまは、道中のどこかで合流するようにと。軍は皇国からまっすぐ西へ進むそうです」

「西に――うう、また移動距離が伸びるのかあ。とにかく、ご苦労さま」

「ロゼッタさまが休んだせいですよ」

「だってえ」


 ロゼッタは甘えた声で言うが、やがてひとりでため息をついて、相変わらず皇国の影も見えない地平線を眺める。

 薄っすらと丸みを帯びているのが、西側一面は夕焼け模様。

 茜色の空に山並み、いくつもの稜線がきらきらと輝き、上空からでは徐々に地面を夕陽が照らしていくのが見てとれる。

 目の前を三羽連れの鳥がすぎ、そのままどこかへ行くかと思いきや、長い尾を振ってくるりと戻ると、空飛ぶ魔女たちを仲間だと思っているらしい、羽根を左右へ傾け、羽ばたきながら器用に横へ並んだ。

 並行に進むロゼッタが指を差し出すと、ちいさな鳥はちょんと乗って、空中に現れたとまり木に、不思議そうに首をかしげた。

 ロゼッタは鳥たちを空へ放ち、それからすこし表情を引き締めて、


「よーし、じゃあ目標を皇国から軍に変えて、最高速度で追いかけよ!」

「では、追いつけるまで休憩はなしですね、ロゼッタさま」

「きゅ、休憩はほどよくするよっ。ご飯も食べなきゃいけないし、つ、疲れるし! そういうのも含んで、できるかぎりってこと」

「ちゃっかりしてますねえ」


 今回、エゼラブル王国が出兵と遠征を決めたのは、同盟国であるグレアム王国の決定に従ったという理由もあるが、それ以上にいつまでも子ども気分が抜けないロゼッタを教育するためである。

 争いというのは、そして国を維持していくというのは、遊びではない。

 次期の女王であるロゼッタは、本人の意志とは無関係に、それを理解しなければならないのだ。

 ロゼッタ自身は、その理由を聞かされていない。

 単に、二百人ほど魔女が出るが、女王が長期間国を空けるわけにはいかず、代わりにあんたが行きなさい、と命じられただけなのである。

 行く、とロゼッタがうなずいた理由はたったふたつ、城にいても退屈なのと、今回の大遠征にはグレアム王国の雲井正行も参加していること。

 本人は遊びの延長にしか感じていない遠征で、果たしてなにを見るのか、ともかくいまロゼッタが見ているものは、夕焼けに沈んでゆく世界と、期待に満ちた再会の想像であった。



「えっ、ニナトールには、人間はひとりもいないのか?」


 皇国を出て、まっすぐ西へ進む一同である。

 十万を超す大群の移動ともなれば、補給線の維持もあり、最低の進行速度に合わせなければならぬ事情もあって、なかなか思うようには進まぬもの。

 それでも十万の多国籍軍はすこしずつ大陸を西へ移動し、まだまだ到着にはかかるが、ニナトールの領内である山々に太陽が沈むため、日の入りがすこし短くなったと言い出す兵士がいたり、それは季節によるものだろうと冷静に考える兵士がいたり。

 十万人も集まれば、小競り合いのひとつやふたつは当然起こりうる。

 とくに普段は接しない国同士、まったく友好な国ばかりではないから、過去の遺恨を引っ張りだしてけんかの種にすることも多々あったが、おおむね兵士たちの様子は良好であり、いまのところ大きな問題は起こっていない。

 毎日、ただ西へ進むだけの行軍である。

 退屈といえば退屈で、とくにその足で歩く必要のない騎馬隊や酋長以上の人間たちは、ぱかぱかと揺れる馬の背で姿勢よく座っているだけの毎日であった。

 正行も馬を一頭与えられ、その背中で手綱をぼんやり握っている日々だったが、途中からその馬にミドリが同乗することとなったあたりから、退屈しのぎも生まれてくる。

 ミドリはもともとクラリスの馬に相乗りしていたものの、なぜか正行の馬にやってきて、それ以降ミドリのちいさな身体を正行が抱え、正行の身体にすっぽりと収まる形でミドリが座る、という構図。

 そこで、あの台詞である。


「ニナトールは、国なんだろ。人間がひとりもいないってどういうことだ?」


 ミドリの、明るい緑色の髪が正行のあごの下で揺れている。


「厳密に言うならば、ニナトールは国ではない。人間たちが便宜的にそう呼ぶ」

「じゃあ、ニナトールってのはなんなんだ」

「ニナトールとは私のことである」

「いや、わかんねえって」

「人間が理解できるか否かは問題ではない」

「ミドリは、人間だろ? なのにニナトールには人間がひとりもいないって言うし、そのくせ自分はニナトールだって言うし。なんかいろいろややこしい」

「そもそもの前提が間違えている。私は人間ではない」

「人間だろ」

「人間ではない」


 揺れる馬上、ミドリは手綱も持たず、鐙に足をかけることもないが、背筋を伸ばして座っている。

 その後ろに正行が座っているが、手綱の一方を離して、ミドリの頬をつついたり、髪をかき回したり。

 ミドリは変わらずの無表情で、されるがまま、むにと頬を伸ばされながら、


「私は人間ではない」

「いや、どう見ても人間だろ。っていうかほっぺたやわらかいな。めちゃくちゃ伸びる」

「人間ではない」

「じゃあ、なんなんだよ」

「私はニナトールである」

「だから――」


 くすくすと笑う声が寄ってきて、振り向けばクラリスが馬を下げてそっと寄り添う。


「やはりミドリのことは正行でも手を焼いておるようだな」

「クラリスさま」


 頭を下げる正行に、クラリスはちいさくうなずいた。


「いまはまだ、そうした礼儀は必要であろう」

「いまはまだというか――」

「ミドリになにを聞いておったのだ。うまく聞き出せておらぬのは遠目でも理解できたが――しかしよく伸びる頬だな」


 興味が湧いたのか、正行がむにと掴むほうとは反対に手を伸ばし、クラリスも軽くつまんで引っ張る。

 ミドリはあくまでされるがまま、無表情で前方を見つめる。


「ニナトールにはどんな町があるんだ、って聞いたら、ミドリがニナトールには人間はいないなんて言い出すから」


 と正行が説明すれば、クラリスはさもありなんとうなずいて、


「そなたは異邦人ゆえ、知らぬのも無理はない。たしかに、ニナトールにはひとりの人間もおらぬ」

「でも、それじゃあ、ミドリは?」

「私は人間ではない」


 とミドリ、正行はクラリスをちらと見て、


「どう見ても人間でしょ、これ」

「見た目はそうだが」


 クラリスは笑いながら、


「中身は、われわれとはちがうものよ。人間のなかには、ニナトールを指して化け物と称する者もおるくらいだ。無論、どのような呼び方をしようと彼らは、いや、ミドリはかまいはせぬだろうが」

「ニナトールとはなんなのです。ミドリは、厳密には国ではないと」

「ニナトールとはミドリのことを言うのだ」


 とクラリスも同じように言うので、正行が困った顔で首をかしげる。

 それでクラリスが笑ったことで、からかっていたのだと知れる。


「わかりやすく言えば、ニナトールというのはひとつの生命体のことを指す。人類、という言葉と同じだ。われわれはニナトールが支配する土地という意味で、大陸の西端をニナトールと呼ぶ。ミドリがニナトールというのも、冗談ばかりではない。ミドリは身体を持たぬニナトールの、人間の姿として発現したものだ」

「人間の姿として発現したもの?」

「なんと説明すればよいか――ニナトールという生命体は、いくつもの生物でありながら、共通したひとつの個体でもある。たとえば、向こうにブナの木があるだろう。そしてわれわれは馬に乗っている。ニナトールでは、ブナの木もニナトールなら、馬もニナトールとなる。魂、意識といってもよい。木に宿り、馬に宿り、大地に宿り、空に宿る生命体、それがニナトールというものだ。存在していないようで、どこにでもいるもの、化け物と呼ぶのにはそんな理由がある」


 正行は腕のなかにすっぽりと収まったミドリを見下ろす。

 いまさらながら、その不自然なまでに明るい緑髪が気になった。

 ミドリは別段なにも感じていないふう、正行の胸のあたりにこつんと頭を預けたり、離したり。


「でも、ミドリの外見は人間でしょう。ニナトールは、人間にも宿るのですか」

「人間には宿らぬ。ミドリは例外だ。普段、ニナトールは人間と没交渉で存在しているために私も知らなかったが、ミドリが宮殿にやってきてから調べたのだ。それによると、ミドリはニナトールで唯一、人間との交渉役のために存在する人間の姿をした者らしい――いや、者、ではないな。ニナトールは様々なものに宿りながら、個々があるわけではない。ミドリはニナトールの一部でありながら、すべてでもある。人間の姿は窓のようなもの、なかは恐ろしく広い部屋が一室あるだけなのだ」

「はあ――ミドリが、そんな生き物だったとは知らなかったな」

「大陸に暮らす人間ならだれでも知っていることだがな。しかし、さらに驚くことがあるぞ。宮殿に収められていたニナトールに関する古い書物、そこに引用されていたさらに古い挿絵があるのだが、その挿絵に描かれている人間の姿をしたニナトールというのが、いまのミドリそのままなのだ。いったい何百年、何千年その姿でいるというのか――ニナトールはわれわれの想像にも及ばぬ生命体なのであろう」

「われわれ、私に時間の概念はない」


 ミドリは平然と言う。


「人間のように代替わりするということがないからだ。親がなく、子がない。移ろいがない。死がなく生がない。言葉がなく身体がない」

「死ぬこともないのか、ニナトールというのは」

「そもそも人間の生と私の存在は一致しない」

「じゃあ、どうしてハルシャに責められて、皇国に助けを求めたんだ。生も死もないというなら」

「私に生はなく、死はない。しかし――他の生物に対する思いやりがないわけでは、ない。私には心がある。枯れてゆく木を思い、敗れた獣に心を寄せる。諸君らが救うのは私ではない。諸君らに救ってもらいたいのは森であり、動物たちである。草木であり、木漏れ日であり、泉であり、枯れ枝である。私が彼らを救おうとも、私には両手がない、両足がない。ただ心があるのみである。

 なるほど、草木が枯れ、動物が死に生まれ、世代が変わり地形が変わってゆく、それは自然の流れであろう。失われぬ命はない。暮れぬ日はない。しかし失われる命を救おうとすること、暮れゆく日に思うこと、それは無駄ではない」


 ふむ、と正行はうなずいて、その横顔をクラリスが満足げに見ている。

 ぐんと後方の兵士たちが、空を見上げて声を上げたのはそんなときだった。

 はじめはひとりふたり、ぽつぽつと上がった声が水面の波紋と広がって、正行とクラリスが空を見上げたころには、空にはいくつも黒点が現れている。


「なんだあ、あれ」


 まばゆい陽光に目を細め、手をかざしながら見上げた先から、徐々に高度が下がって、ようやくひとの輪郭が見えてくる。

 降り立てば、黒いマントを羽織った百五十か二百の魔女たち、兵士たちは慌てて立ち止まり、クラリスも馬を止める。

 舞い降りた魔女たちの集団から、ひときわ若い魔女が一歩前に出る。

 鮮やかな赤毛がさっとなびき、魔女の代表はクラリスの前に跪いた。

 クラリスも馬を降り、大仰にうなずく。


「エゼラブル王国王女、ロゼッタにござります。遅れましたが、エゼラブル王国の魔法使い二百人、馳せ参じました」

「うむ――よくきてくれた。これで本当にすべての軍勢が揃ったわけだ。ここまで飛んできたのか?」

「はい、エゼラブル城から」

「ふむ。皇国に魔法使いはあまりおらぬが、よいように使おう。ともかく、長旅ご苦労であった。馬が必要なら言うがよい、まだまだ先が長いゆえ、ここで立ち止まることはできぬが」

「お心遣い感謝いたします。できれば、それぞれに一頭、あるいはふたりに一頭ずつ馬をいただければ。その背で休めれば僥倖でございます」

「そうしよう」


 クラリスがさっと手を上げれば兵士が駆け寄り、指示を伝達する。

 ほんの数分で必要なだけの馬が列の先頭まで引き上げられ、エゼラブルの魔女たちはその背で身を休めながら、一行は再び西へ向けて進みはじめた。

 正行は列の中断、クラリスはそれよりもすこし前に戻り、正行の腕のなかではミドリの髪が馬の振動に合わせてゆったりと揺れる。

 そこに一頭の馬が列を降りてくれば、予想どおりに赤毛の少女、ロゼッタである。


「久しぶりー、正行く――」

「なんだ、どうした。そんなびっくりして」

「だ、だって、その子」


 とロゼッタは馬上で震える指をミドリに向ける。


「ま、正行くんの、子ども?」

「んなわけあるかっ。なんでおれに、こんなでっかい子どもがいるんだよ。年からしておかしいだろ」

「そ、そっか、びっくりした……」

「どんな早とちりだ、まったく。さっきは立派に王女をやってたのにな」

「あ、あれはちゃんと言えって言われたの!」


 ロゼッタは恥ずかしそうにそっぽを向いて、正行の馬と自分の馬を並べる。

 それからちらと正行の横顔を見て、馬蹄に消されるような囁き声で言った。


「去年の冬ぶりだけど、正行くん、ちょっと変わったね」

「そうかな?」

「うん、大人っぽくなった気がする」

「まあ、日には焼けたかな。ロゼッタは――」


 と正行の視線が走って、


「ぜんぜん変わってないな」

「か、変わったよ、あたしだって! 大人っぽく、なったでしょ?」

「あー、なったなった」

「適当!」

「変わらなくてもいいだろ。ほんと、ロゼッタは相変わらずでほっとしたよ」


 正行が笑えば、ロゼッタもまんざらではない様子。

 しばらく無言で、数えきれぬ馬蹄の音だけが響く。


「ねえ、その子は?」

「ん、ミドリ」


 正行はミドリの細い腕を掴み、人形遊びの要領で手を振らせる。

 ロゼッタは無表情のミドリの顔を覗き込み、


「きれいな髪の色だね。どこの出身なの?」

「私はニナトールである」

「ニナトール? でも――」

「ま、そういうことなんだ」


 と正行は苦笑いで、


「とりあえず、詳しいことはあとで説明するよ。見てとおり、悪いやつじゃないんだ。な、ミドリ?」

「悪いやつ、という意味を把握できないが」

「ミドリちゃんっていうの? 不思議な名前だね」

「おれが昔住んでたところの言葉なんだよ。意味はまあ、とくに深くもないんだけど」

「へえ、そうなの。じゃあ、これからミドリちゃんの仲間を助けに行くんだね。大丈夫、安心して。きっとお姉ちゃんたちが、助けてあげるから」


 ロゼッタはミドリの頭をゆっくりと撫でる。

 撫でられるミドリはやはりされるがままで、正行はちらとロゼッタを見て、


「お姉ちゃん、ねえ」

「な、なによう」

「いや、別になんでも」

「言いたいことがあるなら言ってよー。どうせ、あれでしょ、子どもっぽいくせにとか思ってたんでしょ」

「わかってるなら言う必要ないだろ」

「正行くんのばかっ」

「うそだって。そりゃ、ミドリと比べたらお姉ちゃんさ。なあ?」


 と話を振られたミドリは、ぐいと首を捻って正行を見上げるが、とくに言葉を返すこともなく。

 ロゼッタはぐぬぬと歯噛みして、


「いいもん、どうせあたしは子どもっぽいもん」


 ぷいとそっぽを向く横顔に、正行が笑う。

 その様子を、すこし前方、列のほとんど先頭から振り返っているクラリスは、口元に薄い笑みを浮かべて前に向き直った。

 わずかに唇が動いて呟くのは、


「あれでいてなかなかやりおるな」


 一行はニナトールへ向けてまっすぐ西へ進む。

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