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八重鏡  作者: 藤崎悠貴
人魚の島
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人魚の島 0


   人魚の島


   0


 眼下に広がる海は凪いでいた。

 まるでさめざめと流るる涙を溜めたように静謐で、紺碧、空の青色ともちがって、海の底が明るく輝いているようでもある。

 切り立った崖の上、苦労して上ってきたはよいが、やはり飛び降りるにはいささか恐怖がある。

 彼女は晴れ渡った空、澄みきった海、曖昧なその境界線を眺めた。

 白い頬を、ふわりと暖かな風が撫で、背中から赤いハイビスカスの花びらがぱっと散って、風の先へ巻かれていく。

 見下ろせば、鋭く尖った巌たち。

 波が打ち寄せ、白く散って消えてゆくのを、彼女は無限に眺めている。

 そうしていればいつか悲しみが消えてなくなるというように、彼女はじっと海を見下ろし、流れる涙もそのままに、あごの先を伝ってぽとりと水滴が落ちるのを見ている。

 しかしある瞬間、不意にどれだけ涙を流しても悲しみが消えることはないのだと理解し、胸を塞ぐ絶望がぐっと巨大化して、彼女は決心を固めた。

 彼女は這うように崖の縁へ近づき、そこまで進むとためらいはほんの一瞬で。

 ぱっと身体が宙を舞えば、崖を吹き上がる風に金髪が細かく散った。

 あとにはただ、いくらか花弁を失った赤いハイビスカスが風に揺れ、崖から身を投げようか、それとも戻ろうか惑うように、崖の縁にうずくまっていた。

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