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千年の恋人

作者: 倉名依都
掲載日:2026/05/02

この作品は、過去の連載投稿作・最終回のあとがきに、ここまで読んでくださった方々への感謝の特典、とか言ってその場の思い付きだけで10分で書いた即席爆裂短編を、独立してお読みいただけるように書き直したものです

 

 煌々たるシャンデリアが光と影を創り出し、踊る男女の体臭に香水が混じったにおいが漂い、揺れる貴婦人の扇が言葉無き嫌がらせを語る夜会の場から、美月みつきはそっと抜け出した。

 芝生を踏んで迷路に入る。この庭には支柱に這い登る蔓バラを壁に仕立てた簡単な迷路が造られていて、視界に入りにくいところにいくつかベンチが置いてある。

 ここは王太子妃教育や聖女教育から逃げて来る場所だ。


 婚約者の王太子エントフェーレンの隣に立って招待された上位貴族の挨拶をにこやかに受けた後は、もう役割がなかった。

 美月は聖女として召喚され王太子の婚約者にされた。王太子は確かに見目はいい、見目だけは。今も、元婚約者のベドリュッケント侯爵令嬢、ララシェーンと三曲目のダンスを踊っている。

 正直、どうだっていい。自覚はないらしいが他所の世界から若い女性を誘拐して、妻にするのみならず強制的に仕事、この世界の浄化?だったっけ? に従事させようとしている立派な犯罪者だ。


 所々に設置されたかがり火でほの明るい小道を辿り、ベンチにおさまってグダグダになっている。

 はー、やってられるか。もうばっくれちゃいたいな、だれか協力してくんないかな。そうだ、駆け落ちだ! ちっ、あの顔だけ王太子のつらをぶん殴ってくれる奴ならもう誰でもいいや。物理的な暴力が嫌なら心理的なぶち殴りでもいいや、誰かいないかなー。



 ダラダラしているところへ、蔓バラの壁を飛び越えて美しい男が現れた。

 う、王太子よりずっと、ずーっと美しい!


 男は、とろけるような甘酸っぱい表情で美月を見つめた。 目が完全にイっている。

 え? だれ? なに? 2・5mはあるよ、この迷路壁、蔓バラ棘ついてるけど飛び越えたよね?


「ああ、我が番よ、数々の星雲と数多あまたの惑星を探し回り、遂に出会えた。麗しきわが恋人、死が汝を奪おうとも、ふたたび、そしてみたび、求め、愛し、巡り合う、永遠の妻よ、今生の名を教えてくれないか」


「はあ~?」


「我が名はミッドガルド・アインツハイム・ロッセン・ベルクカッツェ・マルデンシア・ドラゴニエ。ドラゴニア星統合皇国の皇太子。前世のそなたの夫である。

 そなたの今生の名を我に授けたまえ」


「まあいいけど、高梨美月」


「まあいいけど姫、なんとかぐわしき名。(マジか?) 再び相まみえた我が番に陶酔し、甘き恋の記憶の上に、今新たな未だ名を知らぬ恋を重ねたそなたの番を、哀れと思いたまえ。どうかその手を」

「だめだよ。婚約者がいるもーん」

「え?」


「Oh, my first-and-last, eternal love. Amor, no me nunca olvidaste! que esta noche no acaba. Je te veux. (訳すと15禁になる気がする~)」

 とか言いつつ、藍の両頬に手を当て、額に自分の額を当てる。

「さあ、前世の記憶を取り戻してくれ、愛の日々を今一度」


 なにすんねん、この変態、とか思っているうちに、美月の瞳がハート形になる。

「ミッディ、ミッディなの?」

「おお、我が永遠の恋人、ドラゴニアの虹のバラ、わが心を満たす甘きそよ風、麗しの皇太子妃よ、千年の放浪も今報われ、そなたを取り戻した。天の川銀河におわすすべての神々に感謝を捧げ申す、帰ったら大宴会だ!」



 突っ込んでいいですか? 千年放浪してて、帰るお国はまだあるんですか?

 え? ノープロ? 父皇帝まだ生きてる? スゲーな!

 なんか、黄金竜族なんだって……、わからん!



「ミッディ?」

「何だい、マイラーブ、四条の鯉よ、あ、ちがった、至上の恋よ」(まだ日本語が上手に変換できないので、許してあげて欲しい)


「婚約者、どうしよう」

「そんなものどうでもよい。 会う度に新鮮で、まあたかも初めて会った日のような、それでいて歓びの思い出に満ち溢れた、千年の旅の果ての恋人よ。そなたに会えたこの日にすべての苦悩、すべての苦しみも甘く溶けるチョコレートのコンフィチュールと化した、うーん、サイコー。(えー日本語がまだ……)

 さあ、帰ろうではないか思い出と愛の地に。盛大な結婚式を挙げよう。皇国の隅々までこの愛を届け、すべての民を降伏、いや、幸福で満たすのだ。そなたと我との一度のキスで、皇国には愛と歓び、訂正、喜びが満ち溢れるであろう」


「まあ、それはそれでいいとして、ケジメはつけたいの」

「愛しのスイートハート、キスミーワンスモア、ベサメムーチョ、キュスミッヒ……ああ、愛で殺されそうだ。皇国の皇太子を愛で殺す我が妃がなおさら愛しい。 すべてはそなたの望みのままに」



 なんどもキスを与えあい、気もそぞろ目もとろとろで、そろそろベッドを探した方がいいんじゃないかな、ってなっていた時、無粋にも声を掛ける者がいた。


「殿下、本当にようございました、妃殿下、千年ぶりにございます。

 おめでとうございます、おふたかた。ようやくにして殿下の長き旅も終わりましてございます」


「おお、セバスティアン、苦労を掛けた、礼を言うぞ」


 美月を左手に抱きしめたまま、ドラゴニア星系統合皇国皇太子、ミッドガルド・中略・ドラゴニエは皇太子直属艦「みっどがるど」の人事管理筆頭、執事セバスティアンを振り向いた。

 執事は涙ぐんでいる。何しろ千年だ。みっどがるどは巨大な生活空間だし、人事管理は本当に大変だった。皇太子妃が見つかったのだから、量子力学的ワープで、えーっと、ここからなら32分で帰国だ! やったぜ、やり遂げたぜ、ルンルン!


「千年前であろうとも、妃殿下より賜ったご恩の数々、このセバスティアン決して忘れておりません」

「よく勤めてくれました、前世で授けた恩義があるというなら、今日のこの日すべてはこの身に返されました。帰国したなら夫人のもとにお帰りなさい」


「いや、妃よ、夫人は直属艦みっどがるどに同居しているよ」

「え? そうだったの?」

「千年だからね、百年くらいのところで、乗員には好きなだけ家族や奉公人を乗り込ませていいと触れを出して、迎えに帰ったとも」

「その通りにございます、今やみっどがるどは、両殿下のためだけの小国にございます」

「さすがミッディ、できる皇太子ですわ。それに比べてこの国の王太子ときたら……」


 竜族の皇太子とキスを交わした美月は、すでに何となく皇太子妃っぽくなりつつあり、前世の威厳ッポイ何かを取り戻しつつある。


「妃殿下、お心のままに。何なりとお申し付けください」

 セバスティアンは、まじめな顔つきのままニマリと唇を歪めた。執事は内心この星ごとぶっ潰せという命令を期待している。大切な、恩義ある妃殿下を、夜の戸外にひとり放置するような国だ。星ごと消失でOKだとも!



 その歪んだ口元に啓発されたか何やら悪だくみを思いついた美月は、手の扇を親指と人差し指でぱちぱちと拡げたり閉じたりしながら計画を練ったらしい。あどけなくすら見えていた地球のなりたて公務員の顔つきが、次第に惑星ひとつを丸ごと統合して君臨する皇帝家の皇太子妃として務めてきた前世の顔貌へと塗り替えられていく。


 やがてセバスティアンを従え、ゆったりとした足取りで今しも盛り上がっている夜会の場に踏み込む。美月の前の人が退いて道を空け、歩む後ろから会話が止む。黄金竜妃の覇気に威圧されているのだ。


 自分に向かってまっすぐ歩いて来る美月を見て、王太子は怒りを覚えた。なんだって美月ごときを人が分かれて通すのだ。(いや、王国認定の聖女だからね。フツーなんだよ?)


「みつき、どうした? その男はだれだ、浮気相手か」

「無礼者、黙りおろう! 婚約などこの場で破棄である。汚らわしい」

 すっかり黄金竜妃らしくなった美月は、扇でぱっと払う動作をした。


「そもそも浮気はそなたであろう、エント。

 のう、そこなベドリュッケント侯爵家の娘よ、王太子のベッドは柔らかかったか。その腹の子を次の王太子にできるぞ、喜べ」

「は? 何を言っている。それにその口調は何だ、偉そうな」

「聖女の地位は王太子より上、知らなんだか、さもあろう、無知はそなたの代名詞である」


 いつの間にか音楽さえ中断され静まり返ったホールに、竜妃の声が隅々まで通る。

 静まり返る中、笑い声を押さえるのに失敗した、くくぅ、といううめき声がいくつか漏れ、王太子の顔色が怒りに赤く染まる。


「子のことか? 気付きもしておらぬか、この顔だけ王太子が、子をなすだけの能力はあったのかの。

 いや、そこなるは貴族令嬢でありながら聖女の婚約者に手を出す娼婦まがいであったの。そうよの、代償に身につけておる大層なドレスやら安っぽく見える割に高価な宝飾品を受け取ったのであったか、確かに娼婦のありように違いあるまい。

 身の程をわきまえぬ女ゆえ、生まれた後に血液検査は必須よの、ほっほほ、楽しみよの、のぉ、エントよ」


 え? という顔で隣に立つララシェーンを見るエントフェーレン。令嬢は屈辱のせいか、思い当たることでもあるのか、顔色が悪い。



「さて。セバスティアン、準備はよいか」

「は、妃殿下。いつなりとも」


「ハルト」

 声に威圧を載せて、美月は低い声で呪文を唱えた。広間中のすべての人が指一つ動かせなくなる。


 セバスティアンはどこから取り出したのか銀色のタンクを担ぎ、タンクからから繋がるホースの安全バルブを開放した。茶色い水が噴射され始める。 (ねえ、ねえ、それ田んぼに消毒薬撒くやつ?その液体、なに?)


「妃殿下、まずはエントでよろしいですか」

「よい」


 茶色い水がエントフェーレンの頭上からシャワーとなって降り注ぎ、髪からも美々しい宴会服からも雫が滴る。もがこうとする王太子だが、まるで彫刻にでも変えられたかのように身動き一つとれない。


「侯爵令嬢には、茶会で頭から紅茶を掛けられたのぉ。ララシェーン、髪から滴って唇を濡らした紅茶は、侯爵家のもてなしであろうの。わが忠誠の執事より、礼を返そう」

 セバスティアンはにこやかに「皇太子妃殿下へのもてなし、感謝とともにお返しいたします」とか言いながら、髪から首、そして胸元からたっぷりと茶色い水を注ぎこんだ。白いドレスが茶色に染まっていく。



 特別嫌な思いをさせられた数人にきっちり“お礼”した後、美月は自分が良く晒された貴婦人の嘲笑を真似てみせた。扇を5cmほど開き口元に寄せる。

「ほーっほほほ、誘拐犯と事後従犯の宴に、口直しの紅茶である。堪能するがよいぞ」(あ、紅茶、紅茶なのね、よかったー、茶色い除草剤じゃなくて~)


「妃殿下?」

「よい」

「は」


 セバスティアンは、バルブを全開にして紅茶のシャワーを振りまきながら、広間をひと回りした。

「全員に提供いたしました」

「ご苦労であった」



 あー、突っ込んでいいですか?

 どんだけ容量デカいタンクなの? あー、もしかして異空間に接続してる収納量無限の?

 時間経過無視できて、淹れたて紅茶熱々、とかじゃないよね? ね?



 石像のように林立する王国貴族。その髪からは紅茶が滴り、高価な衣装は茶色に染まっている。そこに、竜妃の高笑いが。

「ほーっほほっほ、そなたらにふさわしきもてなしである。堪能せよ」



 えーっと? 「そなたら」の誰も状況を把握してないんですけど? このまま進めてよろしいですか?

 ……ま、いっか? 次の展開、行っちゃうよ!



 突然、庭園に面した大広間の壁がきれいに切り落され、茶色く染まった人々は、その場からは動けないもののからだの自由を取り戻した。だが、もう何が何だかわからない。王太子が「衛兵、その偽聖女を捕らえよ!」とか絶叫している。(衛兵も移動できないけどな!)


 空が炯々と光り、大広間の目線が庭園に注がれる。

 王宮庭園のすべてのバラとすべての生垣、忘れちゃいけない四阿と噴水、を押しつぶして巨大な宇宙艦が下降してきた。これでも比較的小さな着陸艦なのだ。みっどがるどが降りたら、王宮も王都もぺちゃんこになる。


 この世界ではまだありえない、真昼の陽光よりもルクスが高い光が艦の出入り口から溢れる。そこから、黄金のドラゴンが悠々と這い出して来る。 グオーン。


 竜は、次第に小さくなり、やがて人間形態をとって藍を抱き寄せる。

「高梨美月は我が番、IME5963星雲、第8”-カ星系、ドラゴニア星、ドラゴニア皇国皇太子、ミッドガルド・アインツハイム・ロッセン・ベルクカッツェ・マルデンシア・ドラゴニエの千年の恋人、栄光をともにする竜妃、黄金竜の番である。

 妃が世話になったそうだの。愛する妻がこれでよいと、かわゆーくねだるゆえ、これ以上は手を出さぬ。生きていられることに日々感謝の祈りを捧げよ。

 あー、壁と庭の修復金に、金塊2トンほど置いて行くからよろしくね、バーイ」


 着陸艦はゆっくりと上昇した。

 後には、跡形もなく潰された庭園、広間の壁面があったはずの場所のぞっとするほど滑らかな切断面、紅茶で茶色く染まってあっけにとられて顔を見合わせるばかりの貴族の群れ、そして輝く金塊の山が残されているばかり。


え? なんで修復金とか言って540億円分もの金塊 (本日2026年4月29日、午前4時での換算。AIに教えてもらいました!)置いてくの、ミッディ~、多すぎない?

ちなみに、金塊は黄金竜が時々落とす古い鱗を鋳たもので~す、えへへ


See you, Granite




蛇足だよ~

外部通信と徹底的に相性が悪い倉名は、AIに小説を書かせるというソフト?プロブラム? があることを知りませんでした

いやー、たとえばチェスなら、指し手の過去の棋譜を入力しておいて実際にその指し手と勝負させれば、計算能力に大差があるのだから、制限時間内の先読み数でAI勝ちになるのは当然かと思うけど~

小説だよね? 書類じゃないよね?


とか思っていたら、「AI小説を仕上げる3つのステップ」という、AI小説家・青野圭司氏がお書きになった文書を渡されました


うーん、できない、倉名には……

小説家は、将来的に、文系ピープルには参入できない、理系ピープルの職業になるのか?



てなことがありまして、じゃあ、少なくとも今のところAIあるいはAI翻訳では書けそうではないお話ってどんなのだろう、と考えて、爆裂短編を改稿しました。これを引っ張り出したのは、自分が書いたものの中で「AIには今はまだ書けそうではない物語」に最も近いと思えたからです



AIには(今はまだ)向かない、とは、未来に期待するという意味を含んだ中立の表現です



Fantagistic Golden Week for Narou People! with love, Granite


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