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「奥義、氷葬・万物停止」
クロムの声が響いた瞬間、世界から音が消えた。
ヤバいな。
死にそうな予感がするな。
噴水の水しぶきは空中で静止し、舞い散る火の粉さえも宝石のように空中に固定される。
極低温の魔力が王都の広場を埋め尽くし、仲間たちの動きが目に見えて鈍くなっていく。
ライラの風は凍りつき、エルザの光は散って、リズの槌さえも表面にびっしりと霜が降りていた。
「終わりだ。止まった世界で、お前たちは氷の彫刻となるがいい」
クロムが巨大な鎌を振り上げ、ゆっくりと、だが確実に俺の首筋へと刃を向けてくる。
マジでヤバいぞ!
ここで、終わるわけにはいかないな。
まだ終わっていない。
「させるか!」
俺は奥歯を噛み締め、胸の奥に眠る絆の力を呼び覚ました。
『スキル:黄金の羽』、発動!
背中に光の翼が展開され、俺の身体を縛っていた氷の呪縛が弾け飛んだ。
意識の加速が始まり、止まっていたはずのクロムの動きが、スローモーションのように感じられる。
俺は黄金の軌跡を描きながら、クロムの懐へと一気に踏み込んだ。
「黄金の羽ならやれる!」
「なっ!? この停滞した時間の中で動けるだと!?」
クロムが驚いて目を見開くが、奴の周囲を覆う「停止の結界」は未だに健在だった。
俺の剣が結界に触れた瞬間、激しい衝撃と共に跳ね返される。
「これでもダメかよ」
どんなに速く動けても、あの冷気の壁を突破できなければ攻撃は届かない。
「クク。動けたところで何になる。この絶対零度の壁は、いかなる熱量も通さぬ!」
クロムが再び鎌を横一文字に薙ぎ払った。
避ける場所がない。
黄金の羽で加速しても、この狭い氷の檻の中では逃げ場を失うのは時間の問題だった。
その時だ。
「プニッ! プニプニッ!」
俺の肩掛け鞄の中から、一際元気な声が響いた。
スライムのプニが、ぷるぷると身体を震わせながら俺の前に飛び出したんだ。
「プニ!? 危ない、下がってろ!」
だが、プニは俺の言葉を聞かず、あえてクロムが放つ極低温の魔力の中へと突き進んでいった。
プニ!
戻れ!
「無知な魔物が。凍りついて砕け散れ!」
クロムの鎌がプニを捉えようとした瞬間、プニの身体が淡い青光を放った。
『スキル:液体化』、そして『毒耐性』。
いや、それだけじゃない。プニはこれまでの旅で、あらゆる環境に適応してきた。
プニは自らの身体を急激に収縮させ、クロムの冷気を逆手に取り、自らを「不凍液」に近い状態へと変質させたんだ。
冷たければ冷たいほど、その流動性を増していくという、生物の常識を越えた進化。
「プニィィッ!」
プニは液体のような柔軟さで鎌の刃を受け流すと、そのままクロムの腕にまとわりついた。
「な、なんだこれは!? 引き剥がせん、私の冷気が効かぬというのか!?」
クロムが焦りを見せる。
プニがクロムの身体を這い回り、その「停滞した時間」の供給源である魔力回路を物理的に無効にしていく。
プニの粘着質で不定形な身体が、クロムの完璧な防御に「ノイズ」を走らせた。
絶対零度の壁に、微かな亀裂が走る。
「今だ、コウイチ! プニが道を作ってくれたぞ!」
リズの声が響く。
彼女は凍りついた地面を槌で叩き、俺に最後の魔力を送り込んできた。
「行くぞ、プニ! 俺たちの絆を見せてやる!」
俺は『黄金の羽』の加速を最大出力まで引き上げ、光の矢となった。
プニがクロムの動きを封じている、その唯一の「核」へと向かって突き進む。
『素材共鳴』と『剛力・一点突破』。
そして新しく手に入れた『水鏡の盾』の力を、防御ではなく「増幅」として剣に加える。
剣先がクロムの胸元に接触した。
「ぐ、あああぁぁっ! 止まれ! 私の時間は止まっているはずだ!」
「止まらない! 俺たちの絆は、常に未来へと流れてるんだ!!」
ドォォォォォォン!!
広場を揺るがす大爆発が起きた。
黄金の光とプニの青い輝きが混ざり合い、クロムが維持していた「凍てつく世界」を内側から壊した。
壊れたぞ!
氷の壁が硝子のように砕け散り、王都に本来の温かな風が吹き込んでくる。
クロムの身体は光の流れに飲み込まれ、その大鎌と共に消えていく。
「見事だ、絆の勇者。だが忘れるな。北の山脈で待つ女王は、私のようなレベルとは違うと言っておく」
不気味な警告を残し、四天王の刺客は完全に消滅した。
静寂が戻った広場に、パチャリと小さな音が響いた。
「プニッ?」
「プニ、頑張ったな!」
そこには、少しだけ小さくなったプニが、誇らしげに俺の足元で跳ねていた。
「やったな、プニ。お前のおかげで助かったよ」
俺がプニを抱き上げると、冷たかったプニの身体は、いつもの心地よい温度に戻っていた。
シロも駆け寄ってきて、プニを労るように優しく舐めている。
「わふん、わふん!」
「はぁ。本当、心臓が止まるかと思ったわよ。プニのおかげだわ」
ライラが膝をつき、大きく溜息をついた。
「コウイチさん、プニさん、お疲れ様です。皆さんのおかげで、街に被害は出ませんでした」
エルザが周囲を見渡し、避難していた市民たちが恐る恐る戻ってくるのを確認して微笑んだ。
「ふん。あのスライム、いい仕事するじゃないか。私の防具に負けないくらいタフだったよ」
リズも槌をしまい、不器用にプニを撫でた。
刺客クロムとの激闘。
それは、北の四天王との戦いがどれほど過酷なものになるかを、俺たちに改めて知らしめた。
だが同時に、俺たちは確信した。
俺の剣だけじゃない、仲間の魔法だけじゃない。
プニのような小さな相棒から、伝説の職人リズまで。
全員の力が重なり合った時、俺たちは「止まった時間」さえも動かすことができるんだ。
「さあ、みんな。まずはプニに特製のご飯をあげよう。それから」
俺は広場を見上げた。空には再び、王都の平和な光が差し込んでいる。
「北へ行くための、本当の仕上げを始めよう」
俺たちは、より一層強まった絆を感じながら、一歩一歩、確かな足取りで宿屋へと戻った。
勝利の余韻に浸りながらも、俺の心はすでに、あの白い山脈の向こう側にあった。
そこにはどんな強敵がいようとも、俺と、この最高の仲間たちなら、必ず越えていけるはずだな。




