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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
1章
7/17

1-7


 先生の教導機からから受け取った模擬刀は剣の形をしたただの鉄の塊だった。

 刃は付いていない。

 精霊甲冑はその名の通り全身を鋼鉄の鎧で覆われている。

 それでも、鉄の塊で殴られれば破壊されるだろう。

 しかし、機体に仕込まれた防御魔法陣が、ある程度の物理攻撃を無効化する。

 ミシェルのバーン・アースは魔法陣も装飾の一部として目立つ様にしているが、私のバロン・ルージュにも装甲の裏側に目立たない様に防御魔法陣が描かれている。

 これによって、模擬刀が当たっても無傷でいられる。

 では、実際の戦闘ではどの様に攻撃するのかと言うと、専用の魔法が籠められた武器がある。

 物理的な刃の代わりに魔力の刃を纏わせた剣などで攻撃するのだ。

 効果的な攻撃目標は、操縦者の乗り込んでいる胸部か、機体を動かす為の精霊が宿っている頭部だ。

 どちらかが破壊されると精霊甲冑は稼働を停止する。

 なので、模擬戦に於いては魔法が付与されていない模擬刀で頭か胸に打撃を与えれば一本だ。

 試合によって一本勝負の時もあるが、今回は三本先取したら勝ちと言う事になっている。


 私の振るった剣がバーン・アースの頭部を覆う兜に一撃を与える。

 運動場の脇で見物していた野次馬達が歓声を上げる。

 入学式が終わったら、各クラスでのホームルームの後は解散のはずなんだが、みんな暇な様だ。

「楽勝だな。さっきのヴァインの思わせぶりなセリフは何だったんだ?」

 私はバロン・ルージュの操縦席で呟く。

 思った通り精霊甲冑の操縦に於いて相手の技量はそれ程高くない。

 ゴーレムと同じで、精霊甲冑の操縦は動きをイメージしながら操縦桿に魔力を流す事によって行う。

 基本的に自分の体を動かすのと同じ様に動かせるが、話はそんなに簡単ではない。

 当たり前だが、人間とは大きさが違う。

 機体によっても違うが、私のバロン・ルージュで大体、成人男性の身長の五倍以上はある。

 だから速く動く為にはゆっくりと動かさないといけない。

 矛盾している様だが、これが操縦のコツなのだ。

 木こりが木を切り倒すところを見た事があるだろうか?

 背の高い木程、ゆっくりと倒れて行く様に見える。

 人よりも長くて重い精霊甲冑の手足を人と同じ様に素早く動かすのは不可能なのである。

 大きさが五倍だからと言って、それを動かすのに必要な力は五倍では済まない。

 何十倍、何百倍の力が必要だ。

 もちろん、精霊甲冑はそれに見合う力を持っているが、無理に動かそうとすると、手足の重さに振り回されてしまってバランスを崩してしまう。

 また、鋼鉄の機体は人間の身体よりも強靭だが、数百倍の力で動かそうとするとたわむし、動きがぶれる。

 だから、精霊甲冑は焦らずにゆっくりと動かす。

 焦って無理に動かそうとすると、私の目の前のミシェルが操縦するバーン・アースの様にギクシャクとした動きになってしまう。

 一本目で兜を打たれたので、頭部を守る様に剣を掲げるが、その動きはぎこちなくて隙だらけだ。

 今回は胴を狙うか。

 ゆっくりと動かすが、その分、丁寧に全身の動きを連動させる。

 両足が地面をしっかりと踏みしめ、各関節が正確に動く様に神経を集中し、鋼鉄の骨格のしなりまで利用する。

 背の高い木を切り倒す時、ゆっくりと倒れる様に見えて、その先端はかなりの速度になる。

 同じ様に、バロン・ルージュの剣先は人が振るうよりも遥かに速く、バーン・アースの胴体を打った。

「良し!二本目!」

 私は小さく声をあげる。



「くそ!何で思った通りに動いてくれないんだ!?」

 僕はバーン・アースの操縦席で悪態を吐く。

 こっちが一本も取れないのに、もう二本先取されてしまっている。

 イライラが募る。

 グラウンド脇の観客が盛り上がっている。

 僕の醜態を笑っているのだと思うと、ますます頭に血が昇る。

 観客の中に僕の両親も見えた。

 何か叫んでいる様だが遠くて聞こえない。

 精霊甲冑には外部の音を拾う機能も有るはずなのだが、操作方法が分からない。

 実はこの精霊甲冑バーン・アースは亡くなったお爺様の物で、今まで乗った事が無い。

 ワイスマン家には他にも精霊甲冑は有るが、お父様は家来が乗る様な安物の量産型を僕に寄越してきた。

 騎士学校に入学したばかりの僕にはそれで十分だと言うが、納得できないのでこっそりとお爺様の精霊甲冑を持ち出してきたのだ。

 多分その事で怒っているのだろう。

 今は聞こえないから無視しよう。

 とにかく今は決闘に勝つ事が第一だ。

「何でこんな事になってるんだ?」

 そう自問する。

 アイラ・マクディアスだったっけ?先日街で会った女子が入学した騎士学校の同級生だった。

 かっこいいところを見せ様としたのに、川に落ちたゴーレムの引き上げで、逆に彼女の方のかっこいいところを見せられてしまった。

 汚名返上の為に入学式後に話し掛けたが、何故か言い合いになってしまい、逆ギレされて決闘を申し込まれた。

 僕が何か気に障る事を言ったのなら、謝ってやらない事も無いと思ったのだが、そこにイザーク皇子がやって来た。

 こうなると僕としても引っ込みがつかない。

 女子に決闘を申し込まれて逃げたと思われるのは嫌だ。

 皇子の隣には皇女のイリア姫様も居たから尚更だ。

 まあ、決闘と言っても精霊甲冑での模擬戦なら命のやり取りは無いから良いが。

 命を賭ける代わりに、勝った方が何か一つ負けた方に命令できる。

 彼女は僕の発言の取り消しと謝罪を要求して来た。

 それに対して、僕が勝ったら謝罪は無しという事にして貰った。

 僕の方が一方的に損だが、女子相手に変な要求をしたら陰で何を言われるか分からない。

 僕は紳士なのだ。

 とは言え、このままでは勝てない。

 勝てないだけでなく一本も取れないのは僕のプライド的に許せない。

 第一、この模擬刀が重すぎる。

 いや、それを持って振り回しているのはバーン・アースであって僕ではないので、重さは感じないのだが、振り回す度に機体がふらふらと意図しない方に動いてしまう。

 バーン・アースの本来の武器は長大なバトルアックスなのだけれど、いったいどうやったらそれを扱えるのか見当もつかない。

 模擬戦で魔法付与された武器を使うのは反則なので、それは出さないけど。

 そこまで考えて、僕は一つのアイデアを思い付いた。

 模擬戦のルールは魔法付与された武器以外で、相手精霊甲冑の頭部または胸部に打撃を与える事だ。

 模擬刀を渡されているけど、別にそれを使わなければいけないと言う訳でもないのでは?

 僕は両手の操縦桿に魔力を籠める。



 一本目を先取した時もそうだが、大きく歓声をあげるのを私は我慢した。

 女子としても小柄で力も弱い私だが、精霊甲冑の操縦をする時だけは、その制限から解放される。

 巨人となって自由自在に動き回れるのは単純に気持ち良い。

 疲れを知らないこの身体でどこまでも行けそうな気になる。

 万能感に囚われてしまう。

 でも、大きな力にはその分の責任が伴うとお母様から教わっている。

「ふう」

 小さく深呼吸して、昂った気持ちを落ち着ける。

 二本目の剣戟を受けたバーン・アースがバランスを崩して地面に片膝をついている。

 私はバロン・ルージュを元の位置に移動させようとする。

 その時、相手の精霊甲冑がいきなり動き出した。


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