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「出でよ!バーン・アース!」
少し離れた所で私に向かい合っていたミシェルがメダルを天に向かって掲げて叫ぶ。
別に大声を出さなくても精霊甲冑を顕現させることは出来るのだが、まあ、景気付けで叫ぶ人は多い。
彼の声に応えて、巨大な人型の影が現れる。
格納魔法の付加機能で召喚者は自動的に胸部の操縦席に吸い込まれていく。
精霊甲冑の名の通り、それは巨大な甲冑を着た騎士の様な姿をしている。
「随分派手な精霊甲冑ね」
私はそれを見て感想を漏らす。
全身が重厚な装甲板に覆われていて、更に防御魔法の魔法陣が各所に描かれている。
防御特化型の精霊甲冑だろうか?
いや、ミシェル本人が言ってたけど、五十年前の戦争で活躍したらしいから、攻撃力もそれなりに有るのだろう。
強そうな相手だけど、それでも負ける気はない。
私も自分の精霊甲冑を呼び出す為に、胸に掛けていたメダルを手に取る。
「お嬢様、『どちら』をお使いになりますか?」
隣に立つ執事のヴァインがそう聞いて来る。
「どっちって、これを使う以外の選択肢が有る?」
私は、自分おメダルを手に、そう言う。
「ふむ、それで宜しいですかな?」
彼は相手の精霊甲冑を見ながら意味有り気に聞いて来る。
「なに?コレじゃ勝てないって言うの?」
ちょっとカチンとくる。
お母様から預かった精霊甲冑バロン・ルージュは確かにあまり強くは無いけど、操縦者の腕でカバー出来ない程じゃないと思う。
「勝てないとは言っておりません。お嬢様でしたら性能差を覆すなど造作も無いでしょう・・・では、御武運を」
ヴァインはそう言って、私のそばを離れる。
彼はいつも、ああ言う思わせぶりな態度をとる。
私はちょっと考える。
ヴァインはどんな時でも嘘は吐かない。
嘘は吐かないが、本当の事を言わずにはぐらかす事は良くある。
もう一度自分のメダルを見る。
実は私はこれ以外にもう一つの精霊甲冑を持っている。
彼が『どちら』を使うかと聞いたのはそう言う事だ。
でも実際問題として、もう一つの方は使えない。
それはバロン・ルージュよりもはるかに強力だが、ちょっと人に見せてはいけない機体だからだ。
まあ、考えても仕方ない。
私はメダルを静かに額にかざしてバロン・ルージュを顕現させる。
「バロン・ルージュと言いますけど、赤くは無いのですね」
運動場に出現した二体の精霊甲冑を見て、僕の異母妹イリアがそう言う。
僕はイザーク。
帝位継承権第五位の所謂王子って奴だ。
継承権第一位は僕の父上、第二位が父上の弟、僕から見ると叔父上で、その後に僕ら三兄弟が続く。
一応男子継承だから、イリアをはじめ姉妹や従姉妹、伯母上たちは除外されている。
「全身が赤いからじゃ無いよ。胸の所に小さくだけど赤い薔薇の絵が描いてあるだろう?あれが男爵の赤の由来だよ・・・そうだよね?」
僕はアイラ嬢のところからこちらの観客席に避難して来た彼女の執事に声を掛ける。
「はい、その通りで御座います」
慇懃に礼をして、彼が答える。
「それにしても、対照的な精霊甲冑ね」
イリアが両者を見てそう言う。
全くその通りで、ミシェルのバーン・アースはどっしりとしていて、白い機体に華美な装飾が施されている。
機体の強度を高める為の防御魔法陣でもあるが、貴族の甲冑としての見栄えの意味もある。
対して、アイラ嬢の機体は遥かにスリムだ。
装飾は殆んど無く、胸の薔薇の模様以外は地味な色をしている。
バイロンフォード先生の乗る教導用精霊甲冑に似た印象を受ける。
製造元は違うが、どちらも量産型だからだろう。
「ワイスマン家もだけど、ほとんどの貴族はの一点物の高価な機体を好むが、マクディアス家は廉価な機体を複数用いての集団戦闘を得意としていたと聞いたな」
「左様で御座います」
僕の説明に、アイラ嬢の執事が肯定する。
「でも、それでしたら、一対一の試合では彼女の方が不利では無くて?」
イリアがそう言う。
「機体の性能差が戦力の差ではないだろう?」
僕はそう言う。
「それはそうかもしれませんけど・・・ねえ、ヴァインさんと言いましたか、貴方が主人に代わって決闘をするのでも良いのではなくて?」
イリアが執事服の青年にそう言う。
同じ女子生徒だからなのか、彼女はアイラ嬢の方に肩入れしている様だ。
「女子だとしても、騎士学校に通おうと言う者が決闘を誰かに肩代わりさせて良いのかね?君ならどうする?」
僕は異母妹に対してそう言う。
「そ、それは・・・」
彼女は口籠った。
帝都騎士学校以外にも、貴族令嬢が通う女子学校とか、幾らでも彼女が通える学校は有る。
そちらに通わずに、ここに入学したという事は彼女も武官を目指しているはずだ。
それに、精霊甲冑を使っての戦闘に於いては男女の体力差は関係なくなる。
「申し訳ございません。私、精霊甲冑に乗るのは体質的に無理で御座いまして」
執事服の青年がそう言う。
確かに精霊甲冑の操縦には向かない人間は居るが、体質で乗れないと言う者が居るとは初めて聞いた。
「そうなのか?乗ったら強そうに見えるのにな」
僕はそう言う。
精霊甲冑の操縦に於いては体格や筋肉などの外から見える身体的要因は重要ではない。
しかし何故か僕には彼が強そうに見えた。
「兄さま、始まりますわ」
イリアがそう言って来る。
バイロンフォード先生の教導機から一本ずつ模擬刀を受け取ったバーン・アースとバロン・ルージュがそれを構えて向き合った。
執事殿は一礼してすっと僕等の視界から外れる。
僕やお父様達に仕えているどの執事よりも洗練された執事っぷりだ。
何処から雇ったのだろうかと気になってしまう。
そんな事を考えていると、ミシェルとアイラ嬢の決闘は一瞬で決着がついた。
バロン・ルージュの持つ剣がバーン・アースの兜を叩く音が大きく響き渡る。
「え?は、速い!」
イリアが驚きの声をあげる。
「いや、速いと言うよりは動きに無駄がないのだな」
僕はそう訂正する。
機体の性能差よりも操縦者の技量が違い過ぎる。
「凄いな・・・」
思わずそう呟いてしまう。
自分と同い年のはずなのに畏怖の念が湧いて来る。
「まだ三本先取の一本目で御座います」
彼女の執事がそう言った。




