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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
1章
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1-5


 私の投げ付けた手袋を顔面に受けて、ミシェルは一瞬ポカンとした。

 ものすごい間抜け面だ。

「お嬢様、手袋は顔ではなく胸の辺りか、さもなければ足元に投げるのが作法ですよ」

 横からヴァインが言ってくる。

 主人が男子相手に決闘を申し込んだってのに、咎める処がそこ?

「な、な、な、何だと?おまえ、本気か!?」

 決闘を申し込まれるなんて思ってもいなかったのか、ミシェルがどもりながら聞いて来る。

「もちろん、本気だよ」

 私は即答する。

 勢いで言った処も有るけど、今更撤回するつもりなど無い。

「ほう、決闘ですか?」

 睨み合う私達に横から声が掛けられる。

 クラスメイト達はいつの間にか私達の周りから少し距離をとって遠巻きにしていたので、態々間に入って来る人が居たのは予想外だった。

 見ると、『王子様』が立っていた。

 いや、この国は帝国なので、『皇子』とか、帝位継承権保持者と言うべきかもしれないけど、それよりも見た目が王子様だった。

 眉目秀麗を絵に描いて額に入れたような美男子がそこに居た。

 確か入学式で新入生代表として挨拶をしていた人だ。

「帝国第五位帝位継承者のイザーク殿下で御座います」

 ちょっと呆けた様な顔をした私に、ヴァインが教えてくれる。

 いや、入学式で紹介されていたから、私もそれは知っている。

 あと、王子様と何処となく似た女子生徒が彼の隣に居た。

「イザーク様は第一皇子ピエール殿下の三男で御座いますので、お嬢様の婿候補としては申し分ないかと」

 私だけに聞こえるような小声でそんな事まで言って来た。

 このタイミングでそんな事言う?

 現皇帝は高齢だけどまだ壮健だ。

 後継者となる男子は二人居て、目の前のイザーク様はその第一子の三男だそうだ。

 帝位継承権は低めだが、流石に皇帝陛下の孫とか恐れ多すぎる。

 いや、何でそんな人が首を突っ込んで来るのかと言う疑問がよぎるのだけど。

「良ければ、決闘に至る原因を教えてはくれないかね?」

 王子様が重ねて聞いて来る。

 ああ、偉い人だからこそ事態の収拾の為に来たのか。

 だからと言って、私は振り上げた拳を下すつもりは無い。

「この人から侮辱的な言葉を受けました。私も行き過ぎた事を言ったかもしれませんが、彼の言葉を許す気にはなれません。決闘によって白黒をつけたいと思います」

 一介の男爵の娘、それも養子で元庶民の私としては、王子様の前で緊張してしまうが、それでもはっきりとそう言えた。




 騒動を起こしている両者の所まで来て、イザーク兄さまは話を聞き始めた。

 皇族とは言え、こんな事の仲裁までしなければいけないとは大変な話である。

 私、皇女イリアは当事者の二人を見る。

 片方は、見知った顔だった。

 少しぽっちゃりした男子、確か帝都の近くに領地を持つワイスマン家の子息だったか。

 身分はそれ程高くは無いが、同年代の男子なので帝都で行事などが有る時には、兄さまは良く話をしていたと思う。

 もう一人は女子だったけど、こちらの顔は記憶にない。

 小柄で、可愛らしい顔立ちをしている。

 この娘がワイスマン家の子息に決闘を申し込んだらしいが、一見そんな事をする人物には見えない。

 本人の弁によると、男子の方が何か彼女の気に障る事を言ったらしい。

「ええと、君の名前を聞いても良いかな?」

 イザーク兄さまが少女に問いかける。

 彼も知らないという事は地方の貴族の子女なのだろう。

「マルスハイト辺境伯配下、マクディアス男爵家長女アイラ・マクディアスです、殿下」

 少女が答える。

「ほう」

 彼女の名を聞いて兄さまが唸る。

 私も少し驚いた。

 女男爵セーラ・マクディアスの噂話は私も聞いた事がある。

 まあ、何と言うか、色々と有名らしい。

 彼女の養女むすめが同時期に入学すると言う話も聞いていた。

 マクディアス男爵の性癖についても聞いていたので、彼女に対しても少し奇異の目を向けてしまう。

 養女とは言え、あの男爵の娘と思えば、決闘の件も少し納得できてしまう。

「決闘か・・・まあ、良いんじゃないかな?」

 少し考えてからイザーク兄さまはそう言った。

「兄さま!?」

 私は思わず声をあげてしまう。

 皇帝の血筋の者が喧嘩を止めるどころか、そんなけし掛ける様な事を言って良いのだろうか?

「精霊甲冑での模擬試合ならそれ程危険も無いだろう?」

 両者の胸で光るメダルを見て、兄さまはそう言う。



「今年の新入生、イキが良過ぎないか?」

 学校の備品の教導用精霊甲冑の操縦席で、俺は呟く。

 ここは帝都騎士学校の運動場。

 巨大人型兵器である精霊甲冑の操縦訓練をする事も有るので、かなりの広さが有る。

 俺の名前はリック・バイロンフォード。

 この学校の教師であり、主に精霊甲冑の指導教官をしている。

 ここは帝国騎士を目指す貴族の子弟が通う学校だ。

 そして、貴族ってのは皆、我が強い。

 生徒同士のいざこざから決闘に発展する事も良く有る。

 いや、それほど頻繁な訳でもなく、年に数度くらいだが・・・

「しかし、入学式当日ってのは俺の知る限り、初めてだな」

 新入生代表のイザーク皇子から審判役を頼まれた俺は溜息を吐く。

 運動場で向かい合う二人の生徒を高い視点から見下ろす。

 作業用のゴーレムとは違いほとんどの精霊甲冑は人型の胸部に密閉された形で操縦席が有る。

 そのままだと外部を見ることは出来ないが、甲冑頭部から見える画像が胸部の内側に映し出されるので操縦者は巨人の視点で周りを見ることが出来る。

 睨み合う男子の方が、胸のメダルを掴み高く掲げた。

 格納魔法が解かれ、風を巻いて巨体が出現する。

「ワイスマン家の精霊甲冑バーン・アースか。五十年前の戦争で活躍した機体だな。古い機体だが、あの重装甲は今でも通用しそうだ。重量は嵩むだろうがその分パワーも有ると見た」

 続いて女子の方もメダルを手に取る。

 彼女はそれを高く掲げるのではなく、額の辺りに持って来て念を籠める。

「さて、こちらはマクディアス家のバロン・ルージュか、バーン・アースよりは新しいがそれでも二十年前の機体だな。その上、バーン・アースの様な特注機じゃなくて量産機だ。こりゃ、ちょっと不利かな?」

 両者の機体を見て俺は呟く。


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