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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
2章
16/17

2-3


 帝都騎士学校1年C組の担任はリサ・レーヴェンと言う新任の若い教師だった。

 担当教科は領地経営、主に農学だ。

「領地経営の基本は庶民から税を集める事ですが、その大部分は農作物の収穫からもたらされます。工業製品を造ったり、商人から通行税を取ったりと、他にも税は有りますが、人が生きていくうえで食料は必要不可欠ですからね。帝国では主に麦を主食にしています。麦と言っても大麦、小麦、ライ麦など種類があって・・・」

 今は麦の種類について講義をしている。

 しかし、半数の生徒は興味なく聞き流している感じだ。

 将来領主となる貴族の子弟たちだが、徴税とかは専属の徴税官に任せるつもりなのだろう。

 任せるにしても、当主が知っておくのは無駄ではないと思うのだが、貴族とは精霊甲冑に乗って戦うのが仕事だと思っている者も多い。

 私はそんな風にはならないと思いたいのだけど、それでも授業に集中出来ない。

 私の名前はウェンディ・マナド。

 私の領地は帝都から離れた南の海岸沿いで、主な産業は水産業なので、麦の収穫はあまり重要ではない。

 ちらりと隣の席の生徒を見る。

 他の生徒と違って真剣に授業を受けている。

 アイラ・マクディアス。

 精霊甲冑の操縦も一流だが、座学に於いても模範的な生徒だ。

 昨日の実技で助けて貰った事を思い出す。

 あの時、とっさにお礼は言ったけど、その後にお話とかはしていない。

 入学式のその日に、男子生徒相手に決闘を申し込んだりしたので、少し怖い印象がある。

 あとは、彼女の母親が例の有名なセーラ・マクディアス男爵と言う事も有る。

 同性同士の恋愛とか物語の中では時々あって、そう言うのを読むのは好きだが、現実ではやはり忌避感がある。

 そんな訳で、アイラマクディアスはクラスの中で浮いた存在になっている。

 騎士学校という特性上、女子は少なく、全員で32名のC組では4分の一の8名しか居ない。

 だから、なるべく女子同士で仲良くしたいのだけど・・・


 午前の授業が終わると、アイラさんは今日も修理中の精霊甲冑を見に行く為に騎士学校付属の工房に行こうとする。

 昼食はお弁当を持って来ていて、工房で食べるらしい。

「あの、アイラさん。偶には学生食堂で食べませんか?」

 教室から出て行こうとする彼女に私は思い切って声を掛けた。

「ええと、ここの学食、お安いですし、その割に味も悪くないんですよ・・・」

「分かった。行ってみよう」

 私の提案に、アイラさんが頷く。

「・・・それに、外国の珍しい料理もあるそうで・・・え?」

 一回で賛成してくれるとは思わなくて、学生食堂の良い所をもっと言おうとしていた私は面食らってしまう。

「外国の料理か、どんなだろ?でも私、お魚とか苦手なんだよね」

 そう言って笑う彼女と一緒に食堂へ向かう。



 正直、お弁当には飽きて来ていた。

 相変わらず、ヴァインの作る料理は微妙に美味しくなくて、ここ数日は自分で作って持って来ていた。

 けど、私もそんなに料理は得意じゃない。

 時間も無いので、ハムを挟んだだけのサンドイッチと、干しイチジクとかのドライフルーツだった。

 これは後でおやつとして食べよう。

「誘っておいて何ですけど、工房の方は良いのですか?」

 ウェンディ・マナドが聞いて来る。

「ええ、修理はもうすぐ終わりますし、作業自体はポールさんとか工房のスタッフがやっていて、私は見ているだけですから」

 私はそう答える。

 食券を買い、カウンターに並んで料理を受け取る。

 メニューはウェンディからお勧めされた『天ぷら蕎麦』だ。

 東の海の向こうの島国から伝わった料理らしい。

 蕎麦自体は帝国でも栽培されているが、大抵は粥にして食べるので、ヌードルにするのは珍しい。

「あ、美味しい」

 箸は偶にしか使わないので食べ難いけど、なんとか麵を口に運んでみると、思わず感嘆の声が出る。

 蕎麦の風味と濃い色のスープが合う。

「上に載っている天ぷらも美味しいですよ」

 ウェンディに言われて、ソレを食べてみる。

 数種類の野菜と海老に小麦粉の衣を纏わせて油で揚げた物の様だ。

 油の風味は有るけどしつこくなくて、少し塩辛いスープを吸ったソレを蕎麦と交互に食べるととても良い。

「うん。誘ってくれて有難う。学食は一人じゃ入り辛かったんだ」

 私は礼を言う。

 本心からの感謝だ。

 入学式当日にあんなことが有ったから、自分が周りから避けられている事は何となく分かっていた。

 そんな私に声を掛けるなんて、勇気が要ったと思う。



 アイラさんにお礼を言われて、私は少しどきりとした。

 決闘の件も有るし、普段の優等生ぶりから、もっと怖い人かと思っていたけど、笑った顔はとても人懐っこそうに見える。

 例のお母さんの噂から想像していた怪しさも感じない。

「い、いえ、どういたしまして」

 私はそう返す。

 そんな私に、彼女はクスリと笑った。

「ウェンディさん。もっと砕けた感じで話してもらっても良いですよ」

 そう言ってくる。

 思い返してみると、確かに敬語と言う程ではないけど、硬い話し方をしていたかもしれない。

「は、はい。・・・アイラさんもね」

 私もそう言い返す。

 それから、お互い笑い合う。


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