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アップルパイ・ナイツ  作者: O.K.Applefield
2章
15/17

2-2


 精霊甲冑の各部の動作確認という名の体操を終えて、次は行進の練習になる。

 一列に並んでグラウンドをグルグルと歩く。

 走る訳でもなく、ただ歩くだけなのに、これが結構難しい。

 精霊によるある程度の補助が有るから、転ぶ事は無いけど、みんなフラフラと歩いている。

 とは言え、少しするとコツが分かってくる。

 コツとは速度と角速度の違いを意識する事だ。

 焦って人間と同じ感覚で動かしてはいけない。

 歩く時に腕を振るが、等身大の人間と同じ角速度で腕を振ると人間より長い腕の先端は遥かに早い速度で動く事になる。

 一般的な精霊甲冑の全高は10メートル弱、成人男性の5・6倍と言ったところだ。

 人間の動きと同じテンポで動かすと、5倍程度の速度が出る。

 更には、戦闘用である事もだが、構造体としての強度が必要なために、精霊甲冑の身体は鋼鉄製だ。

 軽量化の為に鋼材の肉抜きとかはしているが、密度的には人体よりは有る。

 その上、体積は長さの三乗に比例するから相当な質量になる。

 そんな重い物を高速で動かす反動は莫大なものになる。

 エネルギーは速度の二乗と質量の積に比例するから、大きさが5倍なら全部で5の五乗倍以上の力が必要になる。

 強力な精霊の力によってそのエネルギーは賄われるが、反動が凄まじく、制御が難しい。

 だから速度の部分をなるべく落とす。

 関節の角速度を五分の一にして、手足の先端速度を人間と同じくらいにする。

 スピードは生身の人間と同じだが、一つのモーションをするのに五倍の時間を要する。

 普段行っている動作なのに非常にまだるっこしい。

 そこから少しずつスピードを上げていく。

 角速度は人間より遅く、速度はある程度早いくらいが丁度良いと気付いた。

 遠目で見てスローモーションに見えるくらいが最適かもしれない。

 だんだんと、時間がゆっくりと流れている様な感覚になって来る。

 時おり、風に乗った桜の花びらが視界の端を流れて行くのが見える。

 それだけが普通の速度で動いていて、感覚のずれを思い知らせる。


 それにしてもこの世界にも桜がある事に驚いた。

 帝都の建物は西洋風で、気候もカラッとしていてヨーロッパみがあるのに一部の植生は日本ぽい所もある。

 あと、新学期が4月からなのもだ。

 欧米では確か9月スタートだったと思う。

 聞くところによると帝国以外の国では9月からな国も多いのだという。

 ファンタジー世界と言えば中世ヨーロッパ風の世界を思い浮かべるが、色々と混じっている。

 異世界なのだから完全に中世ヨーロッパと同じという事もないのも当たり前か。

 いや、内燃機関や電子機器こそ無いが、そう言った物の一部は魔法によって実現されていて、分野によっては現代の先進国以上に便利なモノが存在している。

 ただ、移動手段は馬車が主流らしく、そこは中世っぽい。

 現代日本人からすると進んでいる処、いない処が混じり合った感じだ。

 全体的に見ると中世と言うよりは近世から近代の初めくらいと言った処だろうか?


 前を歩く教導用精霊甲冑が操作をミスったのか、何もない所でつまずいてフラフラと転びそうになる。

「あ、危ない!」

 俺は思わず叫ぶが、自分自身の機体の操作もおぼつかないのでどうしようもない。

 蹴躓いて前のめりに進んで行く。

 一つ前を歩いていた教導機が転びそうな機体を受け止める。

「大丈夫か?」

 そう言って、何事も無い様にバランスを整えてやるのは例のアイラ・マクディアスだ。

「あ、有難うございます」

 礼を言ったのは、ウェンディ・マナドとか言う女子生徒だったか。

 確か、彼女は海辺の町の領主の娘で、持っている精霊甲冑が水陸両用だそうで、学校の授業では備品の教導用精霊甲冑を借りている。

 それにしても、今のアイラの動きは見事だった。

 周囲をよく見ていて、後からバタバタと近付いてきた教導機に直ぐに気付いて、ごく自然な動きで振り向き鋼鉄製の巨人を大した衝撃も無しに受け止めたのだ。

 その操縦技術は我々生徒の中では頭一つどころではないくらい抜きん出ている。

「リック先生!技術に大きな差が有る生徒が居ます。一緒に練習するのは非効率では無いですか?」

 生徒の一人が教官に意見する。

 あれは、ミシェル・ワイスマンだ。

 確かにウェンディの操縦技術は未熟だ。

 だが、それは慣れない機体に乗っているせいだ。

 同じ教導機に乗っているアイラと比べると下手に見えるが、それはアイラの技術が高すぎるだけである。

 第一、この前の決闘で彼女にコテンパンにやられたミシェルが言って良い事では無いだろう。

 精霊甲冑が暴走した事で、あの日はお開きになってしまったが、結局、決闘はアイラの勝利と言う事になっている。

 後日、ミシェルは彼女に謝罪する事になった。

 暴走の件に関しては、彼の親が精霊甲冑の管理不行き届きで注意を受けたが、彼自身にお咎めは無かった。

 とは言え、ウェンディよりほんの少し操縦が上手いだけで、ミシェルも下手な部類だ。

 それはアイラに比べれば、俺も他の生徒も同じ事なのだが。

「アイラ・マクディアス!君はこんな基本的な訓練など必要ないだろ!」

 ミシェルがアイラの機体を指差して、言う。

 おや?アイラに勝てないから自分よりも下手なウェンディに矛先を向けるつもりかと思ったけど、違うのか?

「君の様な優秀な人間は僕達の様な初心者につき合ってないで、もっと上の技術を学ぶべきだ!」

 憎らし気な口調だけど、彼女の実力を認めて、忖度しているみたいだ。

「あ~、それはだな・・・」

 バイロンフォード先生が何かを言いかける。

「基本は大事です。複雑な動きも、基礎的な動きの反復練習を疎かにしては出来ないです」

 アイラが淡々とした口調で答える。

「お気遣い有難う御座います。でも、基礎をやり直すのも技術の向上に役立ちますので」

「あ~、そう言う事だ」

 アイラの言葉をバイロンフォード先生が肯定する。

「そ、そうか。なら、君の好きにすれば良い・・・」

 気遣ったつもりなのにスルーされて、ミシェルは気まずそうに行進の練習に戻る。

 負けた相手だが、やっぱり気になるのかも知れない。

「青春・・・かな?」

 傍観者で元おっさんの俺は何となくそう呟いた。


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