2-1
「まったく、戦争は地獄だぜ」
俺はそう呟く。
昔の誰かが言ったセリフだ。
俺も言うし、未来の誰かも言っているだろう。
なにせ人が死ぬし、殺さなけりゃ、俺も死ぬ。
偉い連中は何やらこの戦いの意義やらなんやらを言っていたが、下っ端の俺には知った事では無い。
ただ生き延びる事だけが目的だ。
生き残れれば報酬が出る。
俺の名は・・・
言った処で意味は無いか。
何処にでも居る名も無き兵士だ。
後の歴史に名前など残らないだろう。
魔法の炎が頭上を飛んで行く中、俺達は槍を構えて敵部隊に突撃する。
「敵のゴーレム隊だ!下がれ!」
敵の隊列を一つ蹴散らした処で、先頭の奴が叫ぶ。
巨大な土くれの怪物、アレを前面に出されると、槍歩兵ではどうしようもない。
後ろで操っている魔導士を弓矢か攻撃魔法で倒すしかない。
さもなければ、こちらもゴーレム隊を出すか。
しかし、味方の軍のゴーレムはごく少数しか居ないと聞いている。
「魔法隊を呼べ!槍隊はその場でくい止めろ!」
指揮官の奴が叫んでいる。
無茶を言う。
ゴーレムの動きは鈍いが、こちらの武器はほとんど効かない。
足止めなんか出来るものじゃない。
ゴーレムの足元を走り回って攪乱するのが精一杯だ。
味方の一人が踏み潰される。
「言わんこっちゃねえ」
悪態を吐く。
「味方のゴーレムが来たぞ!」
誰かが叫ぶ。
魔法隊じゃなくゴーレムだと?
ゴーレムの数ではこっちは負けているんだ。
敵のゴーレムは十数体は居るってのに、やって来る味方のゴーレムはたったの三体だ。
ただの土の塊ではなく金属製の鎧を着けているが、それで数の差を覆すことが出来るかは疑問だ。
「しかも騎乗型だと!?」
騎乗型ゴーレムはその名の通り、術者がゴーレムに乗って操る。
遠隔操作型に比べて細かい操作が出来るが、高い所に乗っている術者は良い的だ。
矢避けの固定盾は付いているが、隙間から撃たれてしまう。
のろのろとしか動けないゴーレムでは容易に狙われるだろう。
案の定、敵魔法隊からの火魔法が殺到する。
やられたか!?
俺はそう思ったが、味方のゴーレムは手に持った大盾で敵の攻撃魔法を防ぐ。
「何!?」
敵味方から驚きの声が上がる。
今のゴーレムの動きがあまりに自然だったのだ。
のろのろとしていて不自然さを感じさせる従来のゴーレムのそれとは明らかに違った。
まるで人間の様な動きだった。
味方のゴーレムが走り出す。
・・・そう、走り出したのだ。
まるで人間の様な走り方だ。
「ゴーレム・・・じゃないのか!?」
俺はそう呟いた。
「聞いた事が有る。ゴーレムとは製造方法が違う新しい人型兵器を軍が開発しているって・・・確か精霊甲冑とか言っていたか?」
味方の誰かがそう言う。
ソレは敵の攻撃魔法を巧みにかわし、手にした棍棒で敵ゴーレムを殴りつける。
土くれの破片を撒き散らして、敵はあっという間に倒されていく。
数の不利など意に介さない圧倒的な蹂躙だ。
俺達は踏み潰されない様に巨人の戦場から慌てて逃げ出す。
だが、確信する。
この戦いは俺達の勝利だ。
今日のこの日は歴史に残る。
「これが歴史上初めて精霊甲冑が実戦に投入されたニムラ峠の戦いです」
戦史担当の老齢の男性教諭が黒板に板書しながら、話している。
「当時はまだ外見上はゴーレムとそれ程違いが無かったそうですが、圧倒的機動力によりゴーレムを圧倒し、その他の歩兵、騎兵、魔法兵などにも優位に立ちました。その後、様々な改良が加えられて行く訳ですが・・・それは次の授業にしましょうか」
授業の区切りのチャイムが鳴りだしたので、教諭はそう言って、教科書を閉じる。
つい数日前に決められたクラス委員が号令をかけて、授業が終わる。
俺は椅子から立ち上がり、伸びをする。
「昼飯どうするかな?」
そう呟く。
俺は騎士学校1年C組のジルベール・サザーランド。
ここだけの話、実は俺、異世界転生者なのである。
前世での名は、茂武園一と云う。
転生した原因とかなんとかは別に良いだろう。
適当に想像してくれ。
異世界転生で良くあるパターンだったとだけ言っておこう。
午前の授業が終わって昼休憩になる。
弁当は持って来ていない。
給食は無いが、学生食堂と売店が有る。
俺が前世で学生だった頃は、売店で人気のパンを買う為に、授業終了直後にダッシュする奴が居たが、流石に貴族の子女が通うこの学校でそんな事をする奴は居ない。
しかし、視界の端で、小柄な女生徒が教室から飛び出して行くのが見えた。
入学式当日にクラスの男子に決闘を申し込んで一方的に三本先取した女子、アイラ・マクディアスだ。
多分、修理中の自分の精霊甲冑を見に行くのだろう。
少し気になる。
午後一の授業は精霊甲冑の操縦訓練だ。
広いグラウンドでC組全員が精霊甲冑に乗って、機体の可動確認をする。
「ラジオ体操かよ」
自分の精霊甲冑の操縦席で呟く。
バイロンフォード先生の乗った教導用精霊甲冑の動きを俺達はトレースしていた。
しかしこれが中々難しい。
ほとんどの精霊甲冑が各貴族家自前の機体で、大きさ・形・色とかが違っていてそれが微妙に合ってるんだか合っていないんだかな感じでギクシャクと動く様は、ある種異様な感じがする。
それにしても、精霊甲冑とか呼ばれてるけど、これって結局ガン○ムとかの人が乗って動かすロボットみたいなもんだよな。
いや、ファンタジー世界である事からすると、聖戦士ダンバ○ンか?
例えが古い?ファンタジー系でロボットモノだとしても、他にも色々有るだろうって?
それはそうだが、実は俺、結構なおっさんだったんだ。
そこそこ年季の入ったオタクだったと自負している。
そうすると真っ先に出て来るのはダンバ○ンだろう。
それはそれとして、最近の異世界転生系の作品も見てきた。
そうすると、やはり自分にもなにがしかのチート能力が無いかと考えてしまう。
しかし、まあ、これが何もない。
魔法が有る世界で、俺にも幾つかの魔法の素養は有ったけど、それはごく普通の物だった。
チートで有りがちな、複製だとか攻撃無効だとか言う魔法は存在しないらしい。
一般の魔法で出来るのは火や水を出すくらいのもので、出したものはその時点でただの物理現象である。
例えば、生き物を治癒する魔法を、無機物である壊れた馬車を修理する様な魔法に転用するような事は普通出来ない。
治す事と直す事は似ているが、本質的には別の事である。
物理現象であるが為に、言葉尻を捕らえての変な拡大解釈は出来ないのだ。
幾ら転生者だからと言って、普通に存在しない物が都合よく俺だけに与えられる訳もない。
世界は、わりかし厳しい。
庶民ではなく末席と言えど貴族の家に生まれて、精霊甲冑なんて言うファンタジーロボットに乗れるだけでも幸運なのかも知れない。
前世でもごく平凡な人生を送って来た俺だから、この世界でも平凡に生きていくのだろう。
俺の隣の隣に、例のアイラ・マクディアスが居る。
バロン・ルージュとか言う彼女の精霊甲冑は修理中なので、学校の備品の教導用精霊甲冑を借りて操縦訓練をしていた。
他にも持っている精霊甲冑が特殊な機体で一般的な訓練に不都合がある生徒は、学校から借りた機体を使っている。
別のクラスだが、イザーク皇子も入学式の時に見せたケンタウロス型の精霊甲冑は特殊過ぎるので、授業の時は教導機らしい。
決闘の時に実家の精霊甲冑を壊したミシェル・ワイスマンは学校の備品では無いがワイスマン家の予備の量産型っぽい精霊甲冑だ。
ミシェルの精霊甲冑の動きは入学式の時に見たのと同じで、やはりギクシャクしている。
俺を含め、大半の生徒はそんな物だ。
そんな中で、アイラの動きだけはスムーズで、教官のバイロンフォード先生に引けを取らない。
借り物の慣れない機体でそこまで出来ているのは凄い事だ。
嫉妬を覚えない事も無いが、素直に賞賛出来る。
入学初日に決闘を吹っ掛けるだけの事はある。
俺の様なモブとは違うのだなと思ってしまう。




