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結局、決闘は有耶無耶になり、私は家に帰って来た。
謎の銀色の精霊甲冑に関して学校の先生から少し聞かれたけど、私は大破したバロン・ルージュの中に居て外は見えなかったという事にして切り抜けた。
グラン・ヴァインと言うか『マリオン辺境区の銀色の悪魔』は曰く付きの存在である。
辺境で暴れまわっていたが、二十年前のある日を境に、討伐された訳でもないのに現れなくなったと言われている。
私が生まれる前の話なので、良く知らないけど。
ちなみに、マリオン辺境区はマルスハイトの隣である。
「本日の夕食はガベージ・パイで御座います」
その当人であるヴァインがテーブルの上に夕食を置く。
ガベージはガラクタとか役に立たない物と言う意味だ。
食べ物では正肉以外の内臓とかの部分を指す。
つまり、お肉ではなくモツを使ったパイだ。
利点は値段が安い事。
やっぱりうちの男爵家、お金無いんだろうか?
いや、養子に来る前の庶民だった頃はこれでもご馳走だったんだけど・・・
お母さんが作ったのはもっと美味しかった記憶がある。
モツの下処理に手間を掛けていたからだろうか?
ハッキリ言って、ヴァインは料理が下手だ。
まあ、料理が出来る精霊ってのも珍しい存在なのだが。
「済まないな、ミラを連れて来れれば良かったのだが」
テーブルの向かいに座ったお母様がそう言う。
マクディアス男爵家現当主セーラ・マクディアス、私の養母だ。
ミラさんと言うのは、男爵家のメイドさんの一人で、お母様のお気に入りである。
料理は上手なのだけど、私は少しだけあの人が苦手だった。
「ここの家の他にも領地とマルスハイト市にも屋敷があるものだから、どうしても人手が足りない」
ヴァインの作ったあまり美味しくないガベージパイを食べながら、お母様がそう言う。
ただの男爵でありながら辺境伯代行もしているので、色々と大変そうだ。
代行の権限で人やお金も動かせるはずだけど、それは最小限に留めている。
お陰で、交渉事などに自分で動く事も多い。
今日の入学式に来なかったのもそれが理由である。
「入学式に出れなくて悪かった。何やら、大変だったそうだが?」
そう聞いて来る。
お母様はついさっき帰って来たばかりだけど、何処かから既に今日の事は聞いているらしい。
「ええと、私のバロン・ルージュを壊してしまいました。ごめんなさい」
私が謝る。
「それは構わないさ、君が無事で良かったよ。替わりにミラのバロン・ルージュでも送って来させよう」
お母様がそう言う。
実はバロン・ルージュは一機だけではない。
マクディアス家で運用している精霊甲冑の全てがバロン・ルージュだ。
量産型として、昔とある工房にまとめて発注したそうだ。
私が乗っていた機体も元はお母様の物である。
「胸部装甲がやられただけで、精霊は無事ですし、修理出来れば・・・」
「そうか、騎士学校には精霊甲冑の整備工房もあるしな。確かまだポールの奴が居るはずだ。彼に頼むと良いだろう。部品はこちらで手配しておこう。あいつは受け取らないと言うかもしれないが、工賃も送り付けてやるか」
「あ、はい。実は既に機体はポールさんに預けてあります」
私はそう答える。
決闘の後、学校の用務員みたいな人が飛んで来て、運搬用ゴーレムで壊れた精霊甲冑を工房に運んで行った。
そのポール・レガードとか言う人、お母様の知り合いで、昔お母様にお世話になったとか言っていた。
「そうか。あれはもう君の物だ。治すついでに好きな様にカスタムしても良いぞ」
そう言ってくれる。
「私が居るので、他の精霊甲冑は不要かと思いますが?」
食事を運んだあと後ろで控えていたヴァインがそう言ってくる。
「あんたの正体を大っぴらにする訳にはいかないでしょう」
私がそう言う。
ヴァインの存在が普通ではない事は自分でも分かっているはずなのに、そんな事を言いだすのは冗談のつもりなのだろうか?
常にポーカーフェイスを張り付けているので、真意が分からない。
「精霊ジョークか?笑えんな」
お母様が彼をじろりと睨む。
ヴァインは亡くなった私のお母さんから受け継いだ精霊甲冑だ。
一介の農夫の妻がそんなものを持っているのは可笑しな話だけど、その可笑しさに私が気付いたのは最近の事である。
正体を知っている人間は私とお母様、後はマクディアス家の一部の口の堅い使用人だけだ。
「あまりこいつを信用するなよ。精霊なんて、何を考えているか分からん」
ヴァインを指して、お母様が言う。
「私は精霊と人の橋渡しをしたいだけなのですが?」
あくまで表情を変えず、彼はそう返した。
「それはそうと、決闘の相手はワイスマン家の倅か、あそこの先代はそれなりの武功を上げたそうだが、今の当主はあまりぱっとしないと言う話だったな」
食後のワインを飲みながら、お母様がそう言う。
頭部を破壊された・・・と言うか私が破壊したバーン・アースの中から助け出されたミシェルに駆け寄って行った親御さんらしき男女が居たけど、アレがそうだったのだろう。
「まあ、武闘派では無いが人脈は広い。知り合いになっておくのも良いだろう」
紅茶を飲む私をチラリと見てお母様がそう言う。
「しかし、彼は長男だそうです。婿に来てはくれないでしょう」
デザートを持って来たヴァインがそう言う。
「幸運にも第一皇子の三男イザーク殿下と知り合うことが出来ました。婿候補としてはこちらの方がよろしいかと」
更にそんな事を言う。
「な、何言い出すのよ!そんな皇子様なんて、相手にして貰える訳ないじゃん!」
私は慌てて、ヴァインのセリフを遮る。
騎士学校を始め、帝都の貴族学校に通う生徒は将来の伴侶を探している者も多いと言う話だ。
私は、立派な貴族に成る為に通うつもりなのだが。
「ふむ、流石に帝位継承権持ちは難しいかな?だが、君が本気なら何とかしてやらない事も無い」
お母様までそんな事を言いだす。
「今日初めて会ったばかりです!そんな、急に結婚とか考えてません!」
私は叫ぶ。
「そうか、まあ、急いで相手を見つける事も無いか」
「そうは言いますが、大奥様は早く後継者を見付けろと言っておりましたが?」
お母様の言葉にヴァインが返す。
大奥様と言うのはお母様のお母様、前マクディアス男爵夫人、私の義理のお婆様に当たる人だ。
「ああ、婆さんの言う事は気にするな。私がこんなだからな、焦っているんだ。だが、アイラは自分の好きにすると良い。ヴァイン、お前は言われた事を杓子定規にとらえ過ぎだ」
そう言ってくれる。
「と言うか、男爵家の跡取りが欲しいのなら、直接何処かの男子を養子にすれば早いんじゃないですか?」
今まで疑問に思っていた事を私が聞く。
私を養子から外さなくても、他に養子をとっても良いはずだ。
「たとえ養子であっても、男の子は愛せない!」
即座にお母様が答える。
なんだろう?そこまで男性を嫌っているのに、私に婿を取らせるのは良いのだろうか?
数年この人の娘をやっているけど、この人の性格が分からない。
私はデザートを頬張った。
りんごのシロップ漬けだ。
収穫したてのりんごを砂糖と一緒に煮てから瓶に入れて密封しておくと、長持ちする。
瓶から出したものをそのまま皿に盛っているが、ヴァインが料理していない分、まだ美味しく食べられる。




