末灯(まつとう)の四葉編 第五話
企画・構成・編集 mirai(mirama)
執筆 chatGPT
山を越えた先に、その町はありました。
町、と呼ぶには少し広くて、でも人の気配は少なめです。道の両脇には、壊れた家の残骸や、使われなくなった道具が積み上がっていて、ところどころ白く固まり始めていました。風が吹くたびに、細かい粉が舞います。くしゃみが出そうです。
「これは……大変ですね」
思わず、声に出してしまいました。
「でしょう?」
返事をしたのは、町の中央で腕まくりをしている女性でした。
短く整えた髪に、実用一点張りの服装。手袋は煤で黒く、でも目だけは、とてもはっきりしています。
名前は、セラ。
この町に残って、後片付けをしている人だそうです。
「後片付け、ですか?」
「ええ。もう使わないものばかりですから」
そう言って、彼女は足元のゴミ山を見ました。壊れた家具、割れた陶器、錆びた金属。どれも、かつては誰かの生活の一部だったものです。
「魔法を使えば、少量なら塵にできます」
セラはそう言って、手のひらをかざしました。
次の瞬間、小さな木片が、ふっと消えて、白い粉になりました。
「すごいですね」
「地味でしょう?」
彼女は肩をすくめました。
「でも、これがあれば、町をきれいにできます。誰も住まなくなっても、せめて、最後は」
最後、という言葉が、静かに響きました。
私は、しばらく黙って、ゴミの山を見ました。
これを全部、塵にするには、どれくらい時間がかかるんでしょう。
「願い、なんです」
セラは、ぽつりと言いました。
「世界が終わる前に、この町をきれいにしたい。それだけ」
英雄的でも、感動的でもありません。
でも、とても誠実な願いだと思いました。
「誰かに感謝されなくても?」
「ええ。誰も見ていなくても」
そう言い切る声は、揺れていませんでした。
私は、少し考えてから、言いました。
「それ、とても大事だと思います」
「そうですか?」
「ええ。だって、見られなくてもやることって、本気じゃないとできませんから」
セラは、少しだけ目を細めました。
笑った、というほどではありません。でも、硬さが和らいだ気がします。
その日、私はセラの手伝いをしました。
といっても、魔法は使えませんから、軽いものを運ぶだけです。正直、腰が痛くなりました。
「僧侶さん、向いてないですね」
「ええ。祈るほうが得意です」
そんなやりとりをしながら、少しずつ、山は低くなっていきました。
夕方、赤い空の下で、セラは手を止めました。
「……ありがとう」
短い言葉でしたけど、ちゃんと届きました。
「願いの女神に、行くんですよね」
「はい」
「じゃあ……この願いも」
「もちろんです」
私は頷きました。
「町が、きれいなまま終わりますように」
それは、誰かを救う願いではありません。
でも、世界に対する、ささやかな礼儀のように思えました。
その夜、私は町の端で眠りました。
風は相変わらず白い粉を運んでいましたけど、町は少しだけ、静かになった気がします。
全部は、片付きません。
それでも、やる意味は、きっとありました。
だって、終わるからこそ、整えることも、祈りになるんですから。




