末灯(まつとう)の四葉編 第三話
企画・構成・編集 mirai(mirama)
執筆 chatGPT
最初の願いは、思っていたより静かな場所にありました。
村、と呼ぶには少し小さな集落です。
白くなり始めた家が点々と残っていて、数人の大人が、崩れた壁を直したり、物を運んだりしていました。人はいます。でも、声は少なくて、どこか遠慮がちでした。
その中で、一人だけ、しゃがみこんでいる女の子がいました。
地面に指で丸を描いて、消して、また描いて。
石ころを一つ転がしては、追いかけて、止まるとまた最初から。
どう見ても、一人遊びです。
「こんにちは」
声をかけると、女の子はびくっと肩を揺らして、こちらを見ました。
逃げませんでした。少し警戒しているけど、怖がってはいない、そんな顔です。
「何してるんですか?」
「……あそんでる」
正直な答えでした。
私は女の子のそばに立って、周りを見回しました。
大人の人はいます。でも、同じくらいの年の子は見当たりません。
「ほかに、一緒に遊ぶ子はいないんですか?」
そう聞くと、女の子は一度、地面に視線を落としてから、小さく首を振りました。
「いなくなったの」
それだけでした。
どうして、と聞くのはやめました。
この世界では、理由はいくつもあって、たいていは同じ結末だからです。
名前を聞くと、リナだと教えてくれました。十一歳。
いまは、この村に残った数人の大人と一緒に暮らしているそうです。
「大人はね、みんな忙しいの」
リナはそう言って、少しだけ笑いました。
「だから、あそぶ子がいないの」
それから、少し間を置いて、ぽつりと言いました。
「……友達が、ほしいの」
私は、その場にしゃがみこんで、リナと同じ高さになりました。
「それは、さみしいですね」
まず、そう言いました。
大丈夫だとか、すぐに何とかなるとか、言いませんでした。
リナは、少し驚いた顔をしてから、ゆっくり頷きました。
「友達がいないのって、つらいです。遊ぶのも、話すのも、一人だと、ちょっと重たいです」
そう言うと、リナの肩が、ほんの少しだけ下がりました。
「その願い、ちゃんと聞きましたよ」
私は、胸の前で手を組みました。
「私、これから願いの女神さまのところに行くんです。リナの願いも、一緒に持っていきます」
「……ほんと?」
「ええ。叶うかどうかは分かりませんけど、消えたりはしません」
リナは、しばらく私の顔を見てから、安心したように息を吐きました。
「じゃあ……」
「はい」
私は笑いました。
「ちゃんと預かりました」
そのあと、私たちは少しだけ遊びました。
遊び、と言っても、大したことはしていません。
石ころを並べて、どこまで遠くに投げられるか競争したり、地面に描いた丸の中に小石を入れるだけの、簡単なものです。
それでも、リナは楽しそうでした。
「リエル、へただね」
「そうなんです。運動は、祈るより苦手で」
そんなやりとりをしているうちに、時間は思ったより早く過ぎました。
気づくと、少し離れたところで、大人の人たちがこちらを見ていました。
作業の手を止めて、静かに、でもどこかほっとした顔で。
夕方になって、村の人から声をかけられました。
「旅の僧侶さん、今日は泊まっていってくれませんか」
「え、いいんですか?」
「ええ。あの子が、久しぶりに笑っていたので」
それだけで、十分でした。
その夜、簡素な食事をごちそうになりました。
特別なものはありませんでしたけど、温かくて、ちゃんとした味がしました。
「ありがとうございました」
そう言うと、年配の女性が首を振りました。
「こちらこそ。粋なことをしてくれて」
粋、だなんて。
私はただ、少し一緒に遊んだだけです。
でも、それでいいのかもしれません。
夜、寝床に入る前、リナが小さな声で言いました。
「リエル、また会えるかな」
「どうでしょう」
私は正直に答えました。
「でも、今日のことは、友達の一日、ですよ」
リナは、にこっと笑いました。
赤い空の下で、私は静かに目を閉じました。
最初の願いは、胸の中で、ちゃんと重さを持っていました。
悪くない旅の始まりです。




