末灯(まつとう)の四葉編 第二話
企画・構成・編集 mirai(mirama)
執筆 chatGPT
旅に出る、と決めた次の日の朝も、空はちゃんと赤かったです。
一年もこの色なので、そろそろ驚かなくてもよさそうなものですけど、やっぱり私は一度、立ち止まって見上げてしまいます。
変わらないって、少し安心しますね。
変わってほしくないものが、もうあまり残っていないので。
荷物は多くありません。着替えと、祈祷書と、水袋と、乾いたパン。それから、母の形見の数珠。これだけあれば、しばらくは大丈夫です。たぶん。
集落の外れまで来て、私は一度、後ろを振り返りました。
白くなりかけた家が並んでいて、その中に、私が育った家もあります。屋根はまだ残っていますけど、壁の下のほうは、もう白く固まり始めていました。
父と母は、あの家で亡くなりました。
魔王の呪いが広がり始めたころ、二人は少しずつ石になっていきました。急に倒れたわけでも、戦いに出たわけでもありません。朝は話せていたのに、夕方には動かなくなって、次の日には、もう声も出なくなっていました。
最後まで、家にいました。
動けなくなった体を支えながら、二人で私に笑って、「大丈夫だよ」と言ってくれました。だから私は、その言葉を信じました。信じたまま、見送りました。
静かな最期でした。
白くなって、冷たくなって、それで終わりです。
ちゃんと覚えています。
ただ、悲しい記憶として抱え込まないようにしています。
だって、二人とも、怖がっていませんでしたから。
「じゃあ、行ってきます」
私はそう言って、家に向かって軽く手を振りました。
返事はありませんでしたけど、それでいいんです。お別れって、いつも声が返ってくるものじゃありません。
歩き始めると、自然と父と母のことを思い出しました。
父は、元聖騎士でした。立派な鎧を着ていた時代もあったそうですが、私が覚えている父は、畑仕事で泥だらけの人です。剣の代わりに鍬を持って、「守るっていうのは、こういうことだぞ」なんて言っていました。
母は、僧侶でした。私よりずっと上手に祈れて、言葉もきれいで、歌うように祝福をくれました。でも、家では普通の人で、よく失敗もしました。鍋を焦がしたり、洗濯物を飛ばしたり。……あ、これは私もよくやります。
道は、思ったより険しかったです。
石化した地面は滑りやすくて、何度か転びました。僧侶なのに、祈るより先に土に謝ることが増えています。膝は少し擦りむきましたけど、歩けるので問題ありません。
途中、小さな祠がありました。願いの女神さまのものです。屋根は崩れかけで、供え物もありません。でも、女神さまの名だけは、かろうじて読めました。
私はそこで立ち止まって、手を合わせました。
「これから、たくさん願いを預かります。重いかもしれませんけど、落とさないようにしますので」
返事は、もちろんありません。
でも、不思議と、心が少し軽くなりました。
勇者さまたちも、こんなふうに歩いたんでしょうか。
迷ったり、転んだりしながら。それでも前に進んで、神殿に辿り着いて。
……たぶん、帰ってこなかった、ですよね。
魔王討伐のあと、王国は調査隊を出したと聞きました。
魔王城の残骸を調べて、勇者さまたちの行方を探すための部隊です。危険な任務だったそうですが、それでも行かないわけにはいかなかったんでしょう。
そして、しばらくして、報告が届きました。
勇者さまたちは、確かに魔王を倒していました。
その代わり、呪いを受け、石化していたそうです。
英雄は、逃げなかった。
最後まで立って、白くなって、そこで終わった。
その話を聞いたとき、私は少しだけ、安心しました。
帰れなかったんじゃなくて、帰らなかったんだ、と。
私は、立派な人じゃありません。
世界を救う覚悟もありません。
でも、人の願いを聞くことなら、できると思います。
友達がほしい人の願いも、夢を追いかける人の願いも、ちょっと欲張りな願いも。全部、同じように。
だって、願いって、比べるものじゃないですから。
空を見上げると、赤い雲の切れ間から、少しだけ光が差していました。
赤い光です。相変わらず。
「やっぱり、きれいですね」
そう言って、私はまた歩き出しました。
旅は、まだ始まったばかりです。
最初の願いは、きっとすぐそこにあります。




