バレー部のエースはうるさい
登場キャラクター
旭奈幸:バレー部のエースセッター、ミスディラの神田葵の推し
愛澤姫華:生徒会長の澤野孝太の彼女であり、女神として崇められている
授業が終わって帰宅の挨拶が済んだ。みんな次々と席から立ち上がり、ゲーセンだのショッピングだのに行こうと話し始めた。
「よーし!今日も1日つかれたー!」
ひかりは大きなあくびと共に背伸びをしてイスをゆらゆらと揺らした。
「ほぼ体育に持っていかれたけどな、、、」
一が珍しく疲労困憊な様子だ。同じく翔も体力測定でものすごい疲れている様子だった。しかし、すぐに席から立ち上がり、部活の準備を始めた。
「え、かけっちもう行くの?」
ひかりは少しだけ悲しそうにしていた。それもそうだろう、中学までは放課後ダラダラと雑談ができていたが、高校に入って毎日放課後部活で忙しくなりそんな時間が取れなくなったのだから。
「じゃあ、行くね。バイバーイ」
「おう」
「かけっちまた明日ね」
そう言って俺たちは、部活へ向かう翔の背中を見送った。これまで何度か見送ってきたが、まだ元気に見送ることができない。
翔を見送って俺たちはスマホを触りながら、今日の体力測定の話やら雑談をしていた。
「なんかさー、、、放課後短くなってね?」
「なんだよ急に」
突拍子もないことを言い出したことにツッコミせざるを得なかった。その話題ももう終わり、時刻は18時をまわろうとしていた。
「そろそろ帰るか」
一がそう言ったので俺たちも立ち上がり帰りの準備を始めた。今日は体力測定だったので教科書が少なく、鞄が軽かった。
「うっしょと。よし、いこ!」
ひかりが鞄を背中にからい、もう人が残っていない教室を後にした。
一方、第一体育館ーーーーーーーーーーーーーーー。
体育館にいるのは女子バレーボール部と男女バドミントン部である。バレーボール部が2面、それ以外をバドミントン部が使用している。
「翔ちゃーん、ボールそっちいった!」
「はい!」
レシーブされたボールを滑り込んで翔が取りにいく。それと同時にブザーが鳴り、休憩という言葉が体育館に響く。
「いやー、翔ちゃん良い動きしはるわー」
「さっちゃんも流石のエースセッターぶりだねー」
翔が休憩している隣に座り込んできたのは、旭奈幸である。俺たちとは違う学科の生徒であり、翔と同様、推薦枠である部活動だ。大阪の中学でエースセッターとして全国優勝に貢献している。完璧人間で欠点がない、、、わけでもない。
「あはー!葵サマー!休憩時間に見る葵サマもかっこいいー!」
そう、彼女はこの上ないオタクなのだ。miss&dealers、ミスディラと呼ばれている人気アーティストの神田葵というメンバーの大ファンなのである。(密かにその人と結婚したがってるのだとか)
「幸、また見てるのー?」
「先輩も推し作ればどーですか?葵サマは最高ですよー」
「私、彼氏いるし、、、」
幸の標的になってしまったのは、2年の先輩、愛澤姫華である。2年生の中で多くの男子に女神なんていうあだ名で崇められているのだ。そんな姫華だが、現生徒会長の澤野孝太と付き合っており、この2人は神格化している。(らしい)
「姫華先輩っていつから生徒会長と付き合ってるんですか?」
「えー!私も気になるー」
こういう恋愛系の話は幸だけではなく、翔も大いに興味があるらしい。2人の話に割り込んで聞き入っている。
「えっとまあ、一年の生徒間選挙の時、俺が会長になったら付き合ってくれって言われて、、」
「キャー、なにそれー!ロマンティックぅーー!」
どこのアニメの告白だよとツッコミたくなるほどだったが、これが幸にとってはロマンティックだったらしい。姫華に向かってわきゃわきゃ話しているが、翔にロマンティックという感性はわからなかったらしい。
「私、恋愛したことないし」
翔は少し悲しげな顔をした。翔は小中とバレーボール一筋だったことや握力の件があったりして、恋愛というものを経験してこなかった。
「あらあら、翔ちゃん、恋したことないのー?」
「ま、まあそうだけど、そういう幸は?」
「えーっとね、この間別れた人で、7人目かな?」
「んなっ、7人、、、」
翔は絶望した顔を浮かべた。推し活ばっかりで男の面影など微塵もないのが彼女の印象だったが、7人も元カレがいたという事実が信じられなかった。もちろん、彼女は推しへの異常な愛を除けば誰からでもモテるであろう人格である。
「まあでも、やっぱ信じられるのは、葵サマしかいない。きゃー!葵サマぁーー!」
スマホの画面に映る推しを眺めながら、どこから出したのかわからないグッズを手に持ち、応援し始めた。そんな幸を見て、翔と姫華は苦笑いをすることしかできなかった。
推しへの愛は誰よりもうるさかった
この後の雑談で、姫華は廊下ですれ違ったのは翔の友人である俺だということに気づいたのだ。そう、俺が入学式の後の帰りの階段で遭遇したのは、姫華先輩だったのだ。今はまだ俺たちが後から、どんな騒動に巻き込まれるかを知る由はない。




