イカと俺たちはしずかだった
カフェで集合した後も特に何もなく、無事に8月22日を迎えた。
「ふぅ、」
俺は朝風呂を終え、出かける支度をする。今日は午前中には東京へ盆踊りを見に行き、午後から夜にかけて奏のビーチで花火等をする予定だ。
「えーっと、これか」
収納してあった段ボールをガサガサと漁り取り出したのは古いデジカメだった。
「うわー、これエモー」
と、古いカメラで撮った写真を見せてきたひかりを思い出し、持っていこうと考えたのだ。
「これがエモい、、、なのか?」
部屋へカメラを向けて、ひとりで問いかけている。
「にい、そろそろ時間じゃないですか?」
コンコンとノックしてきたのは澪だった。
「うん、行くよ。ありがとな呼んでくれて」
「いえいえ、お礼をしてもらうことはしてませんので。」
澪は俺が手に持っていたデジカメに気づいた。
「にい、そんな古いカメラ持って何するんですか?」
俺はカメラを顔の近くに置き、ドヤ顔で言った。
「エモいから」
その時の澪の複雑な表情はなかなか忘れることができない。
家の前で一と合流し、2人で電車で東京へ向かった。駅の改札口を出て目の前に浴衣を着た女子が2人いた。
「あっ、悠斗と一だ」
「2人とも久しぶり!」
翔と奏だった。
「似合ってるね」
「かっ、奏さん似合ってます」
一は浴衣姿の奏にさらに緊張してしまっていた。翔はオレンジ色、奏は水色の綺麗に手入れされた浴衣を羽織っていた。
「てか、ひかりは?」
ひかりの姿がないことに気づき、聞いてみる。
「いつも通りだよ、」
俺たちからしたら、このような約束事でひかりが間に合う方が珍しいくらい遅刻魔である。
「えっ、普通なんですか?」
「これがひかりの平常運転だから」
奏が戸惑うような仕草をする。すると、
「みんなー、遅くなった!」
ホームから駆け出してきたのは下駄の音を響かせ、綺麗な紅の浴衣を羽織ったひかりだった。その姿にすれ違う人の目が止まる。
「おっそい!ひかり!」
「ごめんごめん、帯が見つからなくてー」
ひかりが翔と奏の姿をまじまじとみる。
「2人ともかっわいいー!」
そう言って2人にギュッとハグをする。
「ひかりちゃんも、それかわいいよ」
「そう?ありがとー!」
さらにハグが強くなる。なんとかひかりを引き剥がして、早速盆踊りの会場へ向かうことにした。
東京の練馬区の盆踊りに参加することにした。日付的、時間的にちょうどよかったからだ。
「うわ!すごい人と屋台!!」
人の多さと屋台の量にテンションが上がるひかり。
「待ってよひかり」
匂いに誘われズカズカと進んでいくひかりを追いかける翔。その後ろを離れまいとてくてく歩く奏。
「まったく、いつも通りだな」
「ほんとにだ」
俺たちはとりあえず盆踊りの時間になるまで、屋台を適当にぶらぶらすることにした。
「そこのお兄さんたち」
「はい?」
歩いていたら屋台のお婆さんに声をかけられた。旗にはデカデカとイカ焼きと書かれている。
「あんたら、いま男2人だけかい?」
「はい、今はまあ、」
そう答えるとおばあさんはニッコニコして
「そうかいそうかい、じゃあこれタダであげるよ」
と言って、刺してあったイカ焼きを渡してきた。
「いいんですか?」
「食べな食べな。若者に美味しく食べてほしいんだよ」
言葉に甘えて俺と一は、イカ焼きを頬張った。口に入れた瞬間甘辛いタレの風味が口に広がり、イカの食感が良いアクセントになっており最高だった。
「お婆さん、これ美味しい!」
一が言うと、
「よかったよー、」
「それじゃ、ありが、」
「ちょっと待ってくれ」
お礼を言い、歩き始めようとしていたところ、止められた。
「あんたら、イカ焼き、無料で食べたよね」
「は、はい」
おばあさんは笑顔を崩していないが、その裏に何か嫌なものを感じた。
「じゃあ、私からのお願いだ。」
そう言って屋台の奥の方へ行き、帰ってきた時隣にいたのは、俺たちと同年代と思われる女子だった。
「この子はワシの孫でな、来たはいいもののひとりで回るの恥ずかしいらしくて、あんたら回ってくれないか」
何か裏があると思っていたが、これだとは。断るのも何か申し訳なく感じてしまい、承認するしかなかった。
知らない女子と歩いているのをあの3人が見たらなんと言うだろうか。あまり想像したくなかった。
イカ焼きの後はしずかだった




