夏のカフェはうるさい
夏休みも前半戦が過ぎ、特にそれと言った大きな事件もなく、後半戦に通っていった。
「もう、8月も中旬か、、、」
俺は夏のムシムシとした空気の部屋でベッドに寝転んだ。
「ああ、そろそろ夏祭りか、」
今週の金曜日に市の夏祭りが控えていた。俺は時計をふと目にし、ベッドから飛び起き、出かける準備をする。
すると、ちょうど出会した澪に声をかけられた。
「にい、どこかお出かけですか?」
「ちょっとな」
「気をつけてくださいね」
そう声をかけて俺を見送ってくれた。我ながら自慢の妹だと鼻が高くなった。
たくさんの人々が行き交っている大都市。東京に来ていた。向かう先はビルとビルの間の裏路地にひっそりと佇むカフェだ。看板には『cafe earth』と書かれている。
「いらっしゃいませ」
ドアを開けると鈴のカランという音と共に、若い女性の店員の声がした。
「凛さん、お久しぶりです」
「誰かと思ったら、悠斗か!大きくなったなー。さあ、みんなはこっちだよ」
挨拶をすると、先ほどの落ち着いた雰囲気とは違い、表情を明るくして返してくれた。この店は、俺たちが小学生のときに仲良くなった教育実習生である十塚 凛 (とおつか りん) さんの経営するカフェである。俺たちが中学の時、さらには受験勉強などで、みんなで集まるときにはこのカフェを使わせてもらっている。
「悠斗、遅いじゃん!」
いつも通りのひかりの声がする。目の前の3畳ほどと思われる座敷にテーブルを囲む様に座っていたのは、ひかり、翔、一、そして、奏だった。最後にこうやって集まったのは1週間前だったからか、安心感があった。
「みんなで集まるのは久しぶりだけど、ここにくるのも久しぶりだよねー」
「だな」
翔の言う通りだ。それにすかさず一は相槌を打つ。そんな俺たちの隣で緊張しているのか、キョロキョロしている奏。
「奏ちゃん、そんなに緊張しなくてもいいよー」
ひかりは笑って奏に声をかけた。
「だって、みんなは慣れてる店で、私は初めてだから、、、」
そうやってモジモジしている奏を見て、凛がこちらに近づいてきた。
「初めてだろうがなんだろうが関係ない!ここはみんなが楽しく気楽に来れるカフェなの。さあ、緊張忘れて!」
「は、はい」
凛の勢いに押し負けた奏は、さっきまで緊張で上がっていた肩がすとんと下がって気が楽になった様だ。
「それじゃ、楽しんでー」
そう言って凛はカウンターに戻って行った。
「よし!早速話し合おう!」
机を勢いよく叩き、ひかりが仕切り始める。
「えーっと、花火の話だったよな」
覚えていたことを口に出す。先週にメッセージのやりとりで、この店で詳しいことを話し合うと言う結論に至ったのだ。
「奏ちゃんちは花火しちゃって大丈夫なの?」
翔が問いかける。
「私のビーチだし、大丈夫だよ!」
奏はニコニコで答えたが、俺たちはどうしても”私の”と言う単語が頭の中に残った。全員の脳内が同じ思考をする。
「ま、まあとりあえず、奏ちゃんのビーチが大丈夫ってことだから」
そう言って、ひかりはカバンの中から一枚の紙を取り出。その紙は翔の練習休みの日と、事前に俺たちから聞いた暇な日をまとめた表だった。全員いくつか予定があるが、唯一誰の予定もなくぽっかり空いている日付がある。8月22日。
「22がみんな空いてるけど、どう?」
ひかりがみんなの方を向いて聞く。
「大丈夫」
「わたしも」
「俺も」
「俺も問題ない」
全員の意見が一致する。
「じゃあ!22日で決定ね!」
「うん!」
意外とあっさり決まってしまった。しかし話は終わらない。
「次は、花火の準備をどうするかだな」
「そうねー」
花火にかかるお金はなかなかなもので、みんなで割り勘といっても花火の相場もわからない。
「それじゃあ私に任せてよ!」
手を挙げたのは他でもない奏だった。
「奏ちゃん、場所も準備してくれてるのに、いいの?」
「うん!」
その返事の後、優しい笑顔を作って奏は続ける。
「私はみんなと過ごせる楽しい時間をもらっているから、こんなんじゃ返せないくらい!」
「私たちだって、奏のおかげで楽しいんだから!」
奏が驚いた顔で俺たちを見るが、みんな頷いて、ひかりの言う通りという態度を取る。それを見て、奏は満面の笑顔を見せ、口を開いた。
「ありがとう!」
俺たちも微笑んだ。
「それじゃあ、100発の打ち上げ花火用意するね!」
「スケールが個人のやつじゃねぇー!」
久しぶりの金持ちの発するボケにツッコんだ。怖いのがこれを本気で言っているということだ。
「じゃあ、1000いく?」
「そういう問題じゃない!」
部屋の中が大きな笑いに包まれる。カウンターにいる凛もこちらを見て軽く微笑んだ。俺たちの夏はまだまだ終わりそうにない。
夏のカフェはうるさかった




