帰り道は2人いるとうるさい?
入学式とその後の教室での諸連絡等を終わらせて高校入学初日が過ぎていった。
それぞれが友人と共に教室を出ていく。ここにはもう数人しか残ってない。
「帰るか」
教室をひと回り見て、俺も受け取った資料を整理して鞄に積み込む。教室を出て階段を降りている途中で、先輩らしき女子からの視線を感じる。その先輩はひかりに負けず劣らずの美貌であったが今はその正体を知るはずもない。
「あー!つかれた。入学式ってこんなに疲れるもんなの!?」
玄関の靴箱で靴を履き替えていると、よく響いているひかりの声がした。器用にスリッパを棚の中にしまい、スニーカーを取り出す。俺も見よう見まねでやってみるがなかなか上手くできない。
「お前だけだろうよ」
「失礼な、、、あっそっちの家駅前だっけ?」
俺の家は学校から出て駅側、ひかりの家は学校から出て駅の逆側だ。中学までは同じ方向だったのだが、高校になって方向が変わった。変わったところでどうこうということでもない。
「あのさ、さっきちょっと言い過ぎたかも」
普通は驚く。あんな態度を取るひかりからこんな言葉がこぼれたんだから。でも驚かない、特に珍しい光景でもない。俺たちは時々こうやってお互いの非をちゃんと認めることによって成り立ってる仲だ。
「俺も黙れは強かったな」
「それはまあ」
校門までの道のりが長く感じるほどの沈黙が続いた。といっても嫌な沈黙ではない。
「悠斗ってさ、ツッコミ早いよね」
こんな沈黙を作り出すのも切り裂いていくのも毎回ひかりだ。
「不本意だがな」
「まあ、たまにすべるけど」
「ツッコミがすべるとが本末転倒だろ」
長い沈黙を得ていつもの会話に戻る。自分の顔は見えないがおそらく無意識に笑みを浮かべているだろう。
「ねぇ、悠斗。明日からもツッコミよろしく!」
「勝手に役職決めるなよ」
ひかりのペースに入ったら抜け出すことはできない。校門の前で俺たちの会話が響く。
「じゃあ私、ボケ担当ねー」
「何も了承してない!」
「おいおいお前らまだ言い合ってんのか」
後ろから一の声がした。その隣には翔。翔の着ている服はひかりと同じ服ではない。
「かけっち今から部活?」
「そーだよー、昼ごはん食べてから部活」
翔はバレーボールを幼少期からしており、この学校のバレーボール部から推薦がくるほどだ。大平大高校は毎年春高に出場し過去数回優勝してるほどの強豪校である。翔はその推薦枠の学生の中で最も注目されている選手だとか。
「私ほどの実力者だと忙しくてー」
「みんな一緒だろ」
一の翔に対する指摘は毎回はやい。俺でも間に合わないはやさだ。この関係性こそが俺たちが中学から築き上げてきたものだ。
「私もう行かなきゃ、じゃあみんなまた明日ね」
そう言って、翔は校舎に戻っていく。現時刻12:45分、集合は13:00らしい
「あいつ昼飯食う時間あんのか?」
「多分ないだろ」
もういなくなった人のことを考えてもどうしようもない。
「じゃあ私帰るね、じゃあまた明日ー」
俺たちに手を振ってひかりも校門を後にした。一が俺たちも帰るかという視線を向けてきたので、それに気づいて俺たちも歩き始めた。俺と一の家族は幼少期から付き合いのあるご近所さんだから帰る方向はずっと同じなのだ。
「それにしても、悠斗の妹さん、、、澪ちゃんだったけ?今度中学の入学なんじゃなかいか?」
「ああそうそう。明日が入学式だって」
学校から少しだけ離れた場所にあるコンビニに寄ってアイスを選んでいる。俺の妹、田中澪、明日から晴れて中学一年生になる。
「じゃあ翔太も同じだな」
一の弟である矢崎翔太は澪と同級生である。
「あいつは中学で問題起こしそうだけどな」
一は少しからかい気味に言った。
コンビニを後にして、アイスを口に入れながら家へと向かう。まだ4月といえど最近の気候ではまだ暖かさは感じない。
「にしてもお前、翔と仲良いよな」
「何言ってんだか。あいつは頭に栄養がいってないいきものだぞ。運動しか脳がないんだよ。」
「そ、そんなに言わなくてもいいんじゃないか」
この2人は仲がいいのか悪いのかわからない。中学生のときからだ。2人は喧嘩してるのかと思えば喧嘩はしていないと言い張る。それで何回先生を困らせたことだか。
「事実を言って何が悪い」
「まあ、てか一なんか部活はいるつもりあるのか?」
なんとか話の話題を逸らすために部活のことを聞いた。翔はずっとバレーボール、俺と一とひかりは特に部活というものを経験してこなかった。
「今んとこ入る気はないけど、気になってる部ならいちお」
「まじか、何部?」
部活といっても大平大高校はほとんどのスポーツ系の部活が推薦のみなので、一般生が入れるのは文化部がほとんどだ。
「まあ、茶道部」
「急にどうした」
まさかそんな部活が選ばれるとは思ってもいなかった。軽音楽部とか弓道とかだと思っていての茶道部。どういう意図でその部に興味を持ったのかよくわからない。
「なんか、日本文化を感じるのっていいよな。千利休になれるかも」
そういって歩きながらアイスの棒で混ぜる動作をやりだした。理由がよくわからないが、自分の世界に入ってしまったら最後、彼を連れ戻すことは難しい。そんな一をみて通行人の視線が俺たちに集まる。
「俺たち浮いてないか」
そんな俺の声も一には聞こえていない。一止まらずエアー茶道をしている。
帰り道の2人はしずかであった(1人が自分の世界に入り込んでしまったため)




