クラスマッチ最終日:前編
クラスマッチ3日目
「よーし!優勝するぞ!」
早々元気な声を響かせながらやる気になっているひかり。勝ち上がった翔たちのチームは、今日の午前に準決勝。勝てば午後に決勝戦がある。
「奏んちで練習したからね」
そう言って翔が奏の方を見る。奏は恥ずかしそうにしていたので、何か言おうとしたが、あの衝撃がフラッシュバックし言葉が出なかった。
得点は3-5
試合は開始し、上学年に対してなんとかしがみついているような状態だ。
「がんばれー!」
「ファイトー!」
体育館に各クラスの声援が響く。俺たちも負けじと大きな声で応援する。対戦相手は3年1組。3年生なだけあって、経験値がひかりたちとは全く違うのでみんな上手だ。
「翔!」
バレー部の女子があげたトスに合わせて翔がスパイクを打ち込む。得点板が動き、4-5になる。
「ないすぅー!翔さぁーん!」
男子軍から翔を応援する声が聞こえる。やはり、ひかり、奏、を応援する熱烈なファンが多い様子だった。その応援に嫌がることなく手を振りかえしたりする3人は、さすがとしか言いようがない。
「ごめん!」
しかし、その応援虚しくチャンスボールを相手に決められてしまう。得点は4-6。
「くっ」
なかなか縮まらない点差にコートにあるほとんどの選手が焦り始めた。やはり、準決勝という舞台になるとプレッシャーを感じてくるのだろう。
「大丈夫!落ち着いて行こ!」
そんなみんなを立ち上がらせたのは翔だった。チームメイトの気持ちを前向きにし、率先して声をかけ、ボールを取りにいく。まさにみんなを導く天使のようだった。今回のクラスマッチで翔のファンが急増するだろうなと予想できるほどに。
得点12-15。点差はそこまで離されずにくらいついていたが、逆に点差がなかなか縮まらない。
「このままいけばまずいな」
「悠斗にしてはちゃんと見てるじゃねーか」
「俺をなんだと思ってるんだ」
一は俺のことを何も興味がない無関心男だとでも思っているのだろうか。あながち間違いではないが、普通の人間と同じ感性を持っている。
「いつもの悠斗ならこんなに応援しないだろうなって思って」
俺から視線をコートに向け、嬉しそうに微笑みながら話していた。
「まあ、今回はあいつら今まで以上に頑張ってたしな。それを見てたわけだから、ちゃんと応援せずにはいられないというか」
その俺の会話を一は目を見開きながら聞いていた。
「悠斗、、、そんなに人だったのか」
「人だわ!!」
悠斗が今の俺の状態に対して驚いたことはわかったが、この理由に対してこの反応をしたことがよくわからなかった。
「悠斗って冷静というか、そんなに誰かの頑張り見て応援するタイプじゃないかと、、、12年での初事実だ」
「いや俺昔からそんなんじゃねーし!」
自分にはできて当然のことが多かったので、そこまですごいとか羨ましいなどという感情を感じる場面がなかった。と言ってもちゃんと小学生は暴れたし、中学生もやんちゃしたので、決して無感情陰キャだったわけではない!断固として
「ひかり!」
コートに目をやるとすでに得点は15-17。点差は先ほどと変わっていない。翔の掛け声と共にひかりが相手のスパイクをレシーブする。少し低いように思ったが、バレー部の1人が上手にトスを上げた。そのトスに反応し、ジャンプしたのは奏だった。強烈なスパイクが相手コートに叩き込まれる。
「やったー!」
奏が満面の笑みでみんなとハイタッチをする。2階の応援席も今日いちばんの盛り上がりになっていた。
「よし!ここからここから!」
翔の声掛けがさらにチームの士気を高める。
その後も勢いが増した翔たちのチームは得点を積み重ねていき、23-23という今回のクラスマッチいちばんの熱戦を繰り広げた。
「つぎ!取ろ!」
ボルテージが上がったせいか、ひかりも声掛けを始めた。相手から受けたスパイクを流れるように翔の元へ運ぶ。初めの頃と比べたら凄まじい成長だ。
「ひかり、上手くなったよな」
「ひかりは昔からそうじゃん。初めてのことはできないのは当たり前だけど、飲み込みが早いんだ。3日経てば、ある程度の経験者と同じ技量まで上り詰める。」
一が言う通り、ひかりの飲み込みの早さは、誰にも真似できない。中学の時の将棋も、最初は、近所で無敗と名高いおじいちゃんに勝てなかったけど、ルールを覚え、戦術を覚え、3日後に再戦した時はその無敗を破ったほどに。
「翔!」
レシーブに反応した翔が飛び上がる。トスかと思いきや、手を相手コートに向けてボールをトンと綺麗に落とす。会場全体がざわめいた。相手の意表を突く完璧なフェイントだった。
「すごー!」
「さすが翔さーーん!」
奥の試合も相手のクラスも対戦相手も、もちろん俺たち応援も度肝を抜かれた。翔も今日いちばんの笑顔でみんなとハッタッチをする。得点は24-23になった
「ラスト!気を抜かないで!」
サーブは翔。翔は深呼吸をしてゆっくり目を開け、コートを見渡す。今までうるさかった体育館も勝利をかけた大事な場面だからか静まり返っている。
勢いよく打たれたボールは、正確に相手コートの右隅を狙った。そのサーブをギリギリでレシーブし、セッターに繋げる。会場は以前静まり返っており、緊張感が増していく。ラリーが続くたび大きくなるシューズが擦れる甲高い音、ボールが手にぶつかる音、選手の呼吸。それを体育館にある全員が感じていた。
「バンッ」
と言う音と共に、ひかりが相手のスパイクをレシーブした。翔がボールの下に流れるように入り、正確にセット前にトスを上げる。それに反応したのは奏。力強く地面を蹴りジャンプをする。それに合わせてブロッカーも飛び、これで勝負が決まると思われたその時
「間に合わない」
俺のその声に、一が疑問の表情を浮かべた。翔が上げたトスは明らかに飛んでいる奏の手には届かない。ならばどうするのか、答えは簡単だった。
後ろだ、、、奏が飛んでいる後ろ。みんなが注目して目に入っていない死角。そこに構えてたのは他でもない、ひかりだった。
奏は飛んだまま、ボールをは触れず、そのまま打つふりをした。その後ろから大きくジャンプしてきたひかり。相手ブロッカーは、完全に裏を突かれ、完全フリーでひかりがボールに触れる。他の相手も急に出てきたひかりに驚き、反応が遅れる。ひかりが腕を大きく振り、強烈な音と共に相手コートに叩きつけられた。
「うっ、、、、うぉーー!」
静寂が切り裂かれ、歓声が湧き上がる。ひかりに全員が集まり、笑顔が見えた。俺の姿を見つけたひかりは、ニコッと笑い、ピースしてきた。その笑顔が俺にもうつったのか、俺もピースを返した。
最終ラリーはしずかだが、笑顔はうるさかった




