奏の家は別の意味でうるさい
「なにするー?」
結局何をするか決まらず、全員で長い時間考えていた。
「じゃーあ、体でも動かす?」
「いいねいいね!」
「いちばん無難でいいな」
ひかりも大きく頷き、翔と一も賛成したようだったのでそうすることにした。
「じゃあ、ついてきて」
そう言った奏の後ろをついていく。外の庭でバレーやらサッカーやらするのかと思い家の中を歩いていくが、廊下が思いのほか長くて3分ほど歩いていた。
「さあ、入って!」
目の前にある扉を開けると、その先にあったのは体育館と思われる場所だった。バレーコートが2面立てられる大きさの大きな体育館。
「ここでするのね、、、って!?」
「たっ、体育館!?」
翔もひかりも衝撃が隠せていなかった。なんと家の中に体育館まで完備しているのだ。これはもう金持ちとかいう次元の話ではなくなった気がする。
「そうだよ、みんなあるでしょ?」
「いや、ねーよ!」
ついツッコんでしまったが、奏の当然のように装っているのを見て改めてお金持ちということを実感した。
「うぅわ、すっごいね」
「ほんとはもっと大きくしたかったけどー。お父さんが建設時間かかるのがめんどくさいっていうからー」
俺たちの心の中には建設費用じゃないんだという共通のツッコミが浮かんでいた。
「それじゃあ何する?卓球?バレー?バスケ?サッカー?バドミントン?その他いっぱいあるよ!」
奏がどこからかたくさんの道具を出して質問してくる。
「なんでそんなにあるんだよ」
「お父さんに体育館競技の道具全部欲しいって言ったら買ってくれたから」
そんな軽いノリで買えるようなものではない量がある。俺たちは何をするのかよりもこの渚という一家の凄さにただただ圧倒されていた。
「じゃ、じゃあバレーしよっか」
「そっ、そうだね明日の練習もしたいし」
気を取り直して翔がバレーを提案し、それにひかりも賛成する。俺たちもとりあえず体でも動かして気を紛らわせたい気分だったので便乗した。
「おっけい!じゃあ準備だね」
とりあえず体育館のことは置いておいて、ちゃんとみんなで準備して、練習するということができることに落ち着きを感じていた。しかし、次の光景を見た途端、俺たちの口はずっと空いたままになった。
「ぽちっとな」
奏が入り口の壁にあるスイッチを押す。すると、ウィーンという機械的な音と共に、地面が動き、2本の柱が浮かび上がってくる。
「・・・」
俺たち4人は見つめることしかできず、騒ぎも驚きもせず、突っ立っていた。地面から出てきた支柱からネットが出てきて、全自動でコートが整備される。最後にアンテナが飛び出した。
「よし!やろ!」
「いやいやいや!何分もかかる準備が数秒で終わったんだけど!!??」
普段ツッコミに回らない翔が言い出したので、俺たちはビクッとした。バレー部の翔からしたらこんなに簡単に準備できてしまうことが衝撃でたまらなかったのだろう。さらにこれを普通だと思い、練習を始めようとする奏にも驚いた。
「まあまあ、翔、気を取り直してやるよ」
興奮している翔の背中をトンと叩きながらひかりが落ち着かせる。いつもとは違い止めに入るひかりを見て、お金持ちの凄さをさらに感じた。
その後、日が暮れるまで練習をし、先ほどまでの感情など忘れてしまっていた。
「ふぅ、つかれたー!」
「ひかり、アタック安定するようになったね」
俺と一は、他の3人のスパイクや、サーブを受け止めるだけの役割になり、腕が真っ赤に腫れてしまった。
「お前ら、そろそろ帰るぞ」
「あっほんとだ、もう7時過ぎてんじゃん!」
ひかりが準備を始めると翔もそれに続いて帰る準備を始めた。
「じゃあコート片付けるね」
その一言を聞き、俺たちは全員硬直した。遊び疲れて、この体育館が一軒家の中にあることと、コートが全自動で動かということを完全に忘れていた。
「・・・」
最初とは別の順番でコートが畳まれていく。最初の構図と変わらず、俺たちはポカンと口を開けて見つめることしかできなかった。
「奏ちゃん!今日はありがとね!」
「ありがとな」
すっかり暗くなった夜に光り輝く月明かりを背に奏に別れを告げた。
「私もみんなと遊べて楽しかった!」
ニコッと満面の笑みを浮かべた奏を見て、俺たちも笑顔になった。
「バイバーイ」
家から出て、俺たちは家に帰り始める。玄関で奏が手を振っているので、俺たちもそれぞれ手を振っていた。
「奏ちゃーーん!バイバーイ!」
ひかりの大きな声が住宅街に響く。それに応えるように奏も大きな声で返事をする。
「また遊びに来てねー!今度はアイスホッケーしよーね!」
「家にスケートリンクあんのかよ!」
お金持ちの感覚はツッコミどころしかなかった。
金持ちの家はやたらとうるさかった




