金持ちの家はしずかになる
クラスマッチの2日目が終わり、それぞれが下校し始める。
「明日が本番だね」
「にしても、午後の試合も勝ててよかったねー」
ひかりと翔が今日の試合について話していた。午後の試合は相手のバレー部員が体調不良で出場できなかったことがラッキーで、危なげなく勝つことができた。
「てか翔、悠斗ったら奏ちゃんと秘密の会話してたよー」
「秘密!?」
「いや誤解誤解!」
俺にも聞こえるような声で翔にちくった。秘密というか自分でもなんの話だったのかがよくわからないのだが、あの空気をひかりに見られたら変に捉えられても仕方がない。
「なんでもないから!」
「ふーん」
「怪しいね」
面倒なのが1人増えてしまったことに絶望した。
「なあ一、お前からも言ってくれないか、」
隣にいた一に助けを求めるが、言わなければよかったと後悔をした。一は奏の熱烈なファンなので、ひかりの話を聞いた途端この世の終わりみたいな表情になり、俺たちの会話など聞こえている様子じゃなかった。
「あらら、悠斗が奏ちゃんといちゃいちゃするから」
「ごふっっ!」
ひかりの一言に一がダメージを受ける。かなりクリーンヒットした様子だ。
「しかもしかも、奏ちゃん試合前、悠斗に向かってピースしてたし」
「へぶぃぁぁあ!」
「さらに追い打ちかけんな!」
最後のひかりの言葉に一は完全にノックアウトした。その場に倒れ込んだ一を翔がツンツンと、突きながら起こそうとする。
「一がKOしたじゃねーか」
「最近ギャグ回が弱すぎておもしろさなかったからダイジョーブ!!」
「メタ的な話してんじゃねーよ!」
グッドマークをしているひかりに俺はツッコミ、一は絶望して完全に気絶、その一を突きながら起こそうとする翔。これが本来の姿だったことを思い出し、少し懐かしく感じた。
翔が一を起こし、ひかりのボケも俺が全てさばき、また歩き始めた。
「そういや、今日は翔部活ない?」
「ないよー」
「珍しいな」
翔は毎日のように練習があり、最後に4人で遊んだのは、1ヶ月前だった。
「体育館がクラスマッチの準備で使えないからね」
「じゃあどっか遊びいこうよ!」
なんやかんや雑談をしていたところ、時刻は17時、今から遊ぶといっても選択肢は限られてくる。
「うーん、どうしようかな」
全員の思考がフル回転で進んでたそのとき、後ろから声がした。
「おーい、みんな」
「あっ、奏じゃーん!やっほー」
駆け足で近づいてきたのは奏だった。
「なんでみんな困ったような顔してるの?」
「それが、、、」
俺たちがさっきまで考えていたことを全て話した。それを聞いた奏も「うーん」と一緒に考えてくれた。しばらくして、奏が閃いたような顔をして言った。
「わたしんちくる?」
その唐突な提案に俺たち全員の頭がハテナを浮かばずにはいられなかった。
「来ちゃったね」
「ああ」
大きく『渚』と書かれた名札、大きな門、そして大きな敷地の家。そう、渚はお金持ちのお嬢様だったのだ。俺たち4人はあんぐりと口を開けて、数秒はその口が閉じることはなかった。
「さあ、はいってはいってー」
「おかえりなさいませ、奏お嬢様」
玄関を開けた先にいたのはスーツを着た女性。その佇まいは誰もが目を取られてしまいそうになる。一の方を見てみると、奏の家にきたという驚きよりも家の大きさに驚いたようだった。他の2人も同じだ。
「私の部屋はこっちよ」
奏に案内されるままついていくことしかできない俺たちは、なかなか目にかかれない豪華さに、あたりをキョロキョロしていた。奏が止まり、目の前のドアを開ける。
「ここが私の部屋」
「ひっっろ!!」
思わずひかりの声が出てしまった。それくらい広かった。俺の家のリビングよりも広いと思われた。
「いやもう、これ一つの家でしょ」
「ああ、部屋だけで一軒家だ」
部屋をぐるっと見渡してみたらわかる。冷蔵庫、巨大テレビ、1人用とは思えない大きさのベッド、グランドピアノ。そして1番驚いたのが、
「キッチン!?」
「ええ、私ここでたまに自分で手料理作るの」
個人の部屋にキッチンが付いているというよくわからない状況にまた開いた口が閉じなくなった。とりあえず奏に椅子に座るよう言われ、4人とも座る。改めて思ったが、俺たちが座っているのも、俺の家のリビングに置いているものよりも大きい机だ。
「か、奏ちゃん、お金持ちだったんだね」
「一応、お父さんは警視庁の1番偉い人だし、お母さんは自分の会社立ち上げて社長してるし」
流石のひかりでも、お金持ち具合と、親の仕事の壮大さにいつもの騒がしさがなかった。
「じゃあ、なにする?」
「えっと、逆に何したら?」
翔の言う通りだ。逆にこんなお金持ちの家で何をしたらいいのかがわからなくなってしまった。
お金持ちの家ではうるさくなくなる




