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番外編:田中和也のしずかな平日

ベッドが朝日に照らされる。私の名前は田中和也。息子1人、娘1人、妻、ペット1匹をもつ一家の大黒柱だ。しかし、つい先日私は会社をクビになってしまった。普通の家なら一家の崩壊が始まるだろうが、私の選んだ妻は完璧なので、妻の収入だけで暮らしていける。つまり今私はニートになったのだ。


「おはよー」


リビングのドアを開け声をかけるが誰もいない。現在の時刻は午前10時、妻は会社、子供2人は学校。いなくて当たり前だ。そんなことはわかってるのに毎回あいさつして、寂しい気持ちになる。


「ごはんは、、、これか」


リビングの机の上に置いてあるトースト、これが今日の朝ごはんだ。テレビのリモコンをつけてコーヒーを飲みながら、ゆっくりトーストを減らしていく。今日は特に用事がないことに気づき、何をしようか考える。


「平日にこの考え方って、、、クソニートじゃねーか。まあ、いいか!」


少し今の状況に思うところがあったが、その考えもすぐなくなり、今まで仕事してた分、ニートを楽しむかという考えに移行していた。


「こんにちはー。今日は6月5日、、、」


といった感じでお昼の番組が始まった。普段仕事や学校に行っていたら、絶対見れない希少な番組だ。先ほど食べたばかりだが、もうお腹が空いてきたので、昼ごはんがなにかないか冷蔵庫を覗いてみる。しかし、これというものもなかったので、外食することにした。


「外食か、、、どこにいこうか」


どこで食べるかの目処は立てずに、ぼちぼちその時の気分に任せることにした。クローゼットからジーパンと半袖を取り出して着る。小さなショルダーバッグの中に財布とスマホを入れ、家を出た。玄関から出て左にあるガレージには車が一台止まっている。キーのボタンを押すとピピっと鳴り、鍵があいた。


「うーーん、どこにしようか。ハンバーガー食べたいなー、、、よし!キックバーガーいこう」


アクセルを踏み、ハンドルを回して、キックバーガーへ向かって走り出した。家からはそこそこ遠いが、何度も家族と行ったことがあるので、道筋は頭に入っている。


車の中では、テレビを見るわけではなく、私の好きな「match fever」というバンドの音楽を聴いている。


「あなたとの明日〜、なにもない夏〜、すぎて行く世界を〜、君と眺めたくなった〜」


大声で歌うのは、家族と車に乗るときは恥ずかしいのでできないが、ひとりだからこそできることだ。こういう楽しさがあるからニートはやめられない。


キックバーガーに着くと、駐車場に車を止め、店内に入った。飲食店特有の良い匂いがして、さらにお腹が空いてきた。


「ダブルチーズバーガーのセットで、ドリンクはコーラで」


「かしこまりました。合計、1200円です」


高いと思うが、この店のハンバーガーの大きさを見れば納得できるだろう。普通のチェーン店とは比べ物にならないほど多いのだ。財布から1000円札と500円玉を取り出して、店員に手渡しする。


「205番のお客様」


渡された整理券を持って待っていたら番号が呼ばれた。トレーに頼んだ商品が乗せられ、渡された。そのまま空いている席を見つけ座る。


「あれ?田中さん?」


包装を開けてかぶりつこうとしているところだった。隣の男性から声をかけられた。その顔をよく見ると、聞き覚えのある名前が浮かんできた。


「お前、谷口か!」


「そうです!お久しぶりです」


前の会社の後輩だった。私の言うことをよく聞くし、覚えもよく、とても頼りにしていた後輩だった。


「今は何されているんですか?」


「あー、今はニートだな」


「え、そ、そうなんですね」


流石に驚いたようだ。クビになってから1ヶ月。まだ仕事を見つけられていないのは、ニート生活が楽しいからだ。


「谷口は、昇進したのか?」


「先輩の今までの指導のおかげでなんとか、副部長になれました。今は外回りの帰りで、ちょうど昼ご飯の時間だったので」


「そうかー。よかったな」


先輩として、成長した後輩を見るのは嬉しく思った。


「それじゃあ、もう行かないとなので、お先に!」


「おう」


仕事に戻る後輩の背中を見て、毎日大変だった思い出が蘇った。大変だったけど、たくさんの仕事仲間に恵まれた日々が楽しかった。


「よし!、、、まだニートでいよう」


そんな気持ちでも、ニートという楽しさには勝てなかったのである。


ニートの平日はゆっくり過ぎる

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