猿、疑問、窓辺にて
彼が自己紹介すると、先輩たちも続いて口を開く。
「セナですわ! わたくしは鹿馬セナ! セナ・シカマ! 前世はア◯ルトン・セナ! 名乗られたら名乗り返す……倍返しですわ! おーほほ!」
自己紹介で倍返し以上に倍返しするな。
そしてセナさんに続いて、茶々先輩も負けんばかりと堂々と自己紹介を始める。
「私立破嵐高校──殺道部部長兼、校長兼、役員及び会長兼、薬の売人兼、寿司屋の番人、二酸化炭素の守り手、夢の国の左翼、脱税の使者、熱帯魚の記憶、鳥肌と姉御肌、そして人はあたしをこう呼ぶ──カブトムシのメスと‼」
「嘘つくなあ!」
僕は反射的に思わずツッコむ。
先輩の自己紹介クセありすぎだろ、呪文の詠唱かと思ったわ。
「ふふ……なかなか愉快な自己紹介ありがとう。さあ、戦おうか──ア◯ルトン・セナとカブトムシのメスよ!」
ほらちゃんと自己紹介しないからそのまま戦闘になるじゃん。
「おーほほ! なんだかよく分からねえですけどやってやりますわよ! 茶々、あなたは後ろで見てなさいな」
セナさんが勇み足で前に出る、どうやら一人で片付けるつもりらしい。
敵である窓辺は特に構えを見せずにニヤリと笑うが、正直この男がセナさんに勝つ未来が見えない。
真正面から挑んでくるのだから実力者であるのは間違い無さそうだが、セナさんの豪腕パンチをもらったら一発で死にそうなガタイなので僕は少しドキドキしながら見守る。
「さあお喰らいなさい! 『バズーカ・パンチ』ですわッ‼」
挨拶もそこそこに繰り出されたそのパンチは、先程のヤーさん共に見舞ったパンチと比べたら桁が違うものだった。
空を切る弾丸のような拳は窓辺のボディめがけて飛ぶ!
ドゴオッッ‼
当たったら体が吹き飛ぶようなそのパンチ、だがとっさに身を翻した窓辺には当たらず、勢いのついたパンチは地面へと突き刺さり、轟音と共に小さなクレーターを作った。
「おーおー、相変わらずの馬鹿力よのお」
「いや茶々先輩、あのパンチ力で人殴ったら死にますよ」
他人事のように言う先輩に対して、僕は冷静にあのパンチを評価する。
「ちっ、外しましたわ。運がいいですわね」
「うお……! これほどとは……」
セナさんのパンチをわりとギリギリで避けた窓辺は、明らかに動揺しながら冷や汗をかいていた。
「ああ? なんじゃあいつ、正面から来っからバチバチの打撃屋かと思ったが違うみてえだな。おい馬鹿セナ、こいつおそらく特殊なタイプだぞ」
やはりこの窓辺という男、近接で戦うファイターでは無さそうだ。
その証拠に今のセナさんのパンチにビビって距離を取ったし、体捌きも素人と遜色ない。
「これは恐ろしいですねえ……なるほど、あなたの『持ち味』は怪力、身体能力の強化と言ったところですか。ならば遠慮はいるまい、こちらも本気で『持ち味』を開放します」
窓辺はそう言うと、手を大きく左右に広げる構えを見せる。
「おいリキュー、よく見とけよ。奴が『持ち味』を使うぞ」
「持ち味……? はあ」
そういえば先輩やテリーヤンも言ってたけど、持ち味って結局なんやねん。
そんなバトル漫画の超能力じゃないんだから、と僕は心の中で嘲笑する。
しかし、僕のこの考えは次の瞬間くつがえる事となる。
「くらうがいい! 我が持ち味『 青 春 回 廊 』‼」
突然、まばゆい光が辺りを包んだ。
その場にいた全員の目が一瞬眩む、まるで対向車線の車のハイビームを浴びた気分だ。
「な、なんだ目眩ましか⁉」
閃光弾のような強烈な光だったが、特に外傷は無い。
ただ相手をひるませるだけかと思ったが、僕は目を開けると驚愕した。
「……なんだこりゃ」
今まで僕たち以外誰もいなかった商店街に、なぜか学生らしき男女が数十人ほど溢れかえっているのだ。
「誰この人たち⁉」
まるでマジックを見せられたように驚く僕だが、それ以上に驚いた顔をしているのがセナさんだった。
「な……アカリさんにヨシ子! 田村くん、松木さんもなぜここに⁉」
どうやらこの人たちはセナさんの知り合いらしい。
しかしいったいどういう事なのか、僕たちが混乱をしていると人混みの中で笑う窓辺が口を開いた。
「ははは! 驚いたかい? これぞ私の持ち味『青春回廊』、その能力は至極簡単! それは相手に対して強制的に〝同窓会〟を開く能力! 私はいつ、どこで、誰であろうと何回でも同窓会が開けるのだよ‼」
窓辺はドヤ顔で説明し、そして僕は言う。
「く、くだらねえええええええええええ‼」
いや、すげえよ⁉
こんな超能力できる奴がこの世界にいるとは思わなかったよ⁉
でもあまりにもくだらねえ……もっと火炎を操ったり、水の刃で攻撃したりしてくる能力なら素直に称賛したんだが、予想斜め上すぎて上手くツッコミできねえよ。
「だははは! おいおいマジでイカす持ち味持ってんなあ!」
茶々先輩はなぜか満足気に手を叩いてる、いや実際面白いんだけどさ。
「ちょっと! こんな事してどうするつもりですの⁉」
至極真っ当な事をセナさんが言う。
そりゃそうだ、こんなとこで同窓会開いてどうすんだ。
とんでもなくカオスな状況だが、困惑しているのは僕たちだけでない、強制的にこの場に呼び出されたセナさんの元同級生もみんな困惑してざわついている。
すると、彼らに向かって窓辺は手を叩いてこう言った。
「はいはい! みなさんご注目! 急に呼び出してすみませんね、みなさんにはこれからこちらにいる『彼女』についての〝思い出〟や〝黒歴史〟なんかを語ってもらいます! 一言程度で大丈夫ですので、語り終えた人から元の場所に帰れます!」
窓辺はセナさんを指差しながら集まった彼らにそう言うと、一同はセナさんを見つめる。
「えっ鹿馬との思い出……?」
「うーん、そうねえ……」
妙に物わかりの良いセナさんの友人達が、物憂げに思い出を模索しようとする。
「ちょ、ちょっとちょっと! お待ちなさいまし! みんなこの男の言う事なんかに耳を貸さ無くてよくってよ!」
セナさんが必死に全員に言うが、どこか彼らの耳には届いてない。
「はははは! 無駄ですよ、あくまでもこの同窓会の【幹事】は私ですからね。〝ある程度のお願い〟ならみんな聞いてくれるんですよ。よしそれじゃあ、あなたから言ってみましょうか」
窓辺が一人の女子を指名すると、彼女は一歩前に出てセナさんを見つめた。
「ア、アカリさん……」
どうやら親しそうな友人らしく、セナさんは動けずに彼女を見る。
「えーと……セナちゃんは中学二年の時に一緒のクラスで、たまに遊んでました。その中で忘れられない思い出は、セナちゃんは紅茶が好きで自分でよくオリジナルのティーパックを作ってたんですね。でもその中身が校庭に生えてる雑草とか、本人いわく味がいい虫の体液とかを使っててドン引きした事があります……」
「ぐぼあっっっ‼」
すごいエピソードでてきた。
アカリさんは今でも引き気味に語るし、セナさんは自分の黒歴史に精神的大ダメージを負って血を吐いた。
「はははは! どうです、中々効くでしょう? 私の『青春回廊』は過去に暗い部分があればあるほど精神的に効く! ただの同窓会とあなどるなかれです!」
やってる事はしょうもないが効果は絶大であった。
セナさんは片膝をついてかなり苦しそうで、仮に僕もそんな黒歴史をこんな大勢の前で言われたら崖から身を投げ出すだろうよ。
「素敵な思い出をありがとう! では次、語ってみましょう!」
語り終わったアカリさんは光に包まれて消えてしまった。
約束通り元の場所に帰ったのだろう、そして窓辺が今度は適当な男子を指名する。
「うーん、鹿馬さんはお嬢様って感じだけど、実際は家が超貧乏で生活が苦しかったみたいなんだよね。おれ中学の時にホームレスのために炊き出しのボランティアやった事あるんだけど、そこに鹿馬さんが並んでたのはショックだったなあ……」
「がはあっっっ‼」
すんごい効いてる、っていうか悲しすぎるだろそのエピソード。
「まだまだ行きますよ! さあ次の方どうぞ!」
窓辺は容赦なく追撃する形でセナさんの古傷をえぐろうとしてくる。
「くっ……こ、このていど……」
セナさんは強がりを見せるが、その精神的ダメージは計り知れない。
その証拠に彼女の足はガクついていた。
そして、次の語りべが前に出てきた。
「ヨシ子……」
「セナとの思い出? あー、あれだね。こいつまじで成績悪くてさ、あたしと一緒にいつも補修くらってたんよ。そんで先生にマンツーマンで勉強教えてもらっててさ、あたしは素因数分解でつまづいてたんだけど、セナは掛け算の二の段ができなくて教えてもらってたのマジうけたわ(笑)」
アホすぎぃ‼
ヨシ子のエピソードも中々やばかったせいか、セナさんは立ちながら失神しかけている。
そりゃ自分の過去がそんな赤裸々にいろんな奴に聞かれたらこうなるわな。
「いいですねえ! 次どうぞお!」
「鹿馬さんは自分の持ち物すべてにグ◯チとかシャ◯ルとかの高級ブランド名を油性ペンで書いてましたね……しかもカタカナで」
あ~痛たたたたたた!
これは痛い……油性ペンでガッツリ書いてあるのがやばいし、カタカナなのは反則だろ。
それを聞いた瞬間、セナさんはぶっ倒れた。
かわいそうに、死んだセミみたいに転がっている。
「ありがとう、とても面白い思い出だったよ! まずは一人脱落ですねえ」
もはや魂が抜けたようにピクリとも動かないセナさん、すると集まった参加者みなさんは全員光に包まれて消えてしまった。
なるほど、どうやら対象が戦闘不能になるとこの同窓会はおひらきらしい。
クソみたいな能力だと思ったけど、これ強ぇ―わ。
「ひゃひゃひゃ!」
よほど面白かったのか茶々先輩は後ろで爆笑している、ほんとに味方か?
「ご理解頂けたかな? 私の持ち味の恐ろしさを! さて、次はあなたです」
窓辺は倒れたセナさんを一瞥した後、僕を見て狙いを定めてきた。
「えっ僕ぅ⁉ まてまて待って、僕なんかの過去なんか聞いても──」
「くらいたまえ『青春回廊』!」
問答無用に窓辺は持ち味を出してきた。
一瞬のうちに辺りが光に包まれると、その中から僕の知ってる中学の顔見知りが何人か出てきた。
「うっ……まじか」
「おや、人数がわりと少ないですねえ。さてはあなた……友達がいないでしょう?」
胸にぐさりと刺さる一言を窓辺は言ってきた。
その通り、僕は友人と呼べる者がほぼ皆無であり、生粋のぼっちなのである。
「同窓会に呼び出される人数は、対象の人望や思い出の数に比例するんです。あなたはさぞかし暗い学生生活を送っているようだ」
「ごっふ」
おもわず吐くほど痛烈な言葉だった。
まだ誰も何も語ってないのに僕の精神的ダメージはかなり深く、もうぶっ倒れそうなんだが?
「ふふふ、どうやら君はさっきの彼女よりメンタルが弱そうだ。では集まった皆様にお願いです! 彼との思い出や印象を語ってください!」
幹事である窓辺の頼みで僕の知り合い達は一斉にこちらを見てきた。
だが、どうにも僕の顔を見てもみんなパッとしてはいないようだ。
「えっと……千野くん……だよね?」
半信半疑で僕の名前をかろうじて覚えててくれたのは、メガネが似合う女子の伊沢さんだ。
伊沢さんはクラス委員長なので、僕のことをギリギリ覚えていてくれたのだろう、ありがたい。
「い、伊沢さん」
頼む伊沢さん余計なことだけは言わないでくれ、僕も覚えてないような痛い思い出とか話されたら死んでしまう。
「うーん……あっ、そういえば千野くんっていつも休み時間になると教室から姿を消してたよね? あれはどこに行ってたの?」
「体育倉庫だよ‼‼」
僕は吐血した。
いいかい、ぼっちにはね、聞いちゃならねえ事がいくつかあるんだ。
間違っても休み時間の過ごし方とか、居眠りしたフリして時間を潰してることとか、放課後や休日に誰と遊んでるとか詮索しちゃいけねえんだ。
ぼっちのタブーに触れた伊沢さんは光の中に消え、他の知り合いは僕を見て誰だっけ見たいな顔してる。
はい、それだけで大ダメージです。
僕はその一撃でぶっ倒れると、彼らはすぐに消えた。
正直帰ってくれた方がありがたい、これ以上は命が危険になる。
「ずいぶんと早い決着でしたねえ。友達は大事にしないと駄目ですよ?」
うるせえバーカ、と倒れながら僕は念じた。
「これで残りは一人ですね。さあ、あなたはどんな同窓会を見せてくれるんです?」
窓辺はもう勝ちを確信したかのように、残った茶々先輩に言う。
「はっはあ! お前、おもしれー持ち味だがそれじゃああたしは倒せねえよ」
先輩は負ける気など微塵もないように自信満々に返す。
「せ……先輩……」
「おうリキュー、安心せいあたしが仇をとってやらーな。とくと見とけ、殺道部部長の実力を見せてやるよ」
メンタルずたぼろの僕の横を通りながら、先輩は窓辺と対峙した。
「ふふふ、ではいきますよ──『青春回廊』!」
窓辺が持ち味を発動すると、さっきよりも強烈な光が辺りを包む!
それは僕やセナさんの比では無いほどの爆発的な光量、商店街全体を覆うようなすごい光である。
「こ、これはすごい……! ここまでの同窓会は初めてだ! さあ私に見せてくれ、素晴らしい同窓会を!」
まばゆい光に照らされながら窓辺が興奮して言うと、やがて光が縮小し、辺りが徐々に鮮明になってきた。
そして、僕たちは見る──先輩の同窓会のメンツを。
「なっ……これは──⁉」
そこには、先輩の元同級生たちが沢山いた……のだが、僕達は驚愕する。
だってそれらは全員、
「グモー! グモー!」
「コケーーッ‼」
「バウバウ、バウ!」
「ウキーー! キキッ!」
おびただしい数の動物しかいないからである‼
「なんだこれは⁉ お、お前は動物園で義務教育を終えたのか⁉」
敵も思わずツッコむほどのカオス。
そこら中で騒ぐ犬や猿、暴れる牛や鳥、走る豚もいれば踊るキリンもいる。
「はっはっは! 久しぶりだなてめえら! 元気しとったか!」
茶々先輩は何も不思議で無さそうに、挨拶代わりにいろんな動物達の肩と背中を叩く。
「ひ、人は⁉ なぜ人間がいない! こんな馬鹿な……!」
「ひゃははは! 視野が狭いな! あたしのダチは種族なんざ関係ねえんだよ」
先輩はうろたえる窓辺に言うと、近くにいた牛の背中を叩く。
「アキヨシ! まずはお前の力を奴に見せてやれい」
その牛は先輩に命令されると、いきなり二足歩行で歩き出した。
「グモー! グモー! オレは狂牛病じゃない! オレは狂牛病じゃない!」
「しゃべったーーっ⁉」
アキヨシと呼ばれた牛はいきなり日本語を喋りだし、二足歩行でずんずんと窓辺に近寄る。
「うおおっ⁉ 来るなぁ⁉」
「オレは狂牛病じゃない! 狂牛病はオレではない!」
よくわからない事を言いながら、アキヨシはその前足を大きく振りかぶると、勢いよく窓辺の顔面をぶん殴った。
思い切り殴られた窓辺は数メートルふっとばされると、混乱しながら起き上がる。
「ぐあ……っ! なんなんだ、この牛は⁉」
まじでわからん、ちなみにアキヨシの頭にはハチマキが巻かれていて『受験戦争』と書かれている、意味わからん。
「やるじゃねえかアキヨシ! よしっ次は森田、いってこい!」
先輩が森田と呼ぶのはブサイクなブルドッグだった。
「バウっ! バウバウ!」
どうやら今度はちゃんとした動物らしい、日本語は話せないようだ。
だがしかし森田は顔面はブルドッグなのだが、なぜか体は人間であり、しかもムキムキのボディビルダ―みたいなガタイをしている。
「いや、きしょいって‼」
僕がツッコミを入れると、森田はそのキモいガタイを弾ませながら敵へと突進する。
「くっ来るな! ぐはッ!」
窓辺は腕を上げてガードするが、普通にぶん殴られた。
「この世は諸行無常なり」
綺麗なストレートを放った森田は決め台詞を吐く、いやお前もやっぱ喋るんかい。
「ば、馬鹿な……こんなことが、あってたまるか……!」
窓辺はふらつきながら目の前の理不尽にキレる。
「どうした? この同窓会とやらはお前が【幹事】なんだろ? あたしをもっと楽しませてみろよ」
先輩が挑発すると、窓辺は辺りの動物達を見渡した。
「そ、そうだ……言葉が喋れるなら僕のお願いも通用するはずだ。同窓会に集まりし諸君、あそこにいる女の過去を語れ! とびきり黒歴史のやつをだ‼」
この言葉で数多の動物達がその喧騒をピタリと止めた。
すると、動物達の中からメガネをかけた頭の良さそうな一匹の猿が手を上げて、語りべに立候補した。
「それならこのわたくしめが一つ昔話をしましょうか。なに、茶々さんの事ならその辺の犬や豚より詳しく語れます」
知的な猿だ……話し方や姿勢の良さから育ちがわかるような賢そうな猿だった。
僕はどこか只者では無さそうなあの猿が気になり、先輩に聞いてみた。
「茶々先輩、あの猿は……?」
「知らん、誰だあいつ」
「グハッ‼」
いや知らんのかいッッ!
あの猿、先輩の一言がショックだったのか血を吐いて倒れたぞ。
「くそッ……! 他に誰か語れるやつはいないのか⁉」
窓辺が他の者を煽るも、みんな野生に帰ったようにまた暴れ出してそれどころでは無くなった。
「どうやらあたしの方が一枚上手だったようだな?」
先輩は不敵に笑いながら言う。
「こんな、こんな馬鹿げた同窓会があってたまるか……! 痛い過去や暗い思い出、人には恥ずかしいエピソードの一つや二つ必ず有るものなんだ!」
未だに信じられない現状に窓辺は不満を漏らす。
安心しろ窓辺、僕もこの状況はわりと意味わからんぞ。
「相性が悪かったな、あたしには〝やらかした〟過去しかねえ。生まれた時から今までずっとやらかしてきたからか、何が後悔でどこが恥部なのかあたしも知らねえんだよ」
いや最強すぎるだろその生き様、僕もそのくらい開き直りてえわ。
「それにな、本当の同窓会ってのはもっと頭をからっぽにして、ガキみてえに昔に戻りながら騒ぐもんだ。それこそ過去の思い出なんかは己のネタにするくれえじゃねえと生きづれえだろ? お前の能力は回りくどいんだよ」
なんかカッコいいようなセリフを先輩が言うと、窓辺は怒りでわなわなと震えながら特攻してきた。
「う、うるさいっ! どいつもこいつも黙って〝幹事〟に従っていればいいんだ‼」
吠えながら先輩に殴りかかる窓辺、しかし──それは悪手だ。
「 『 学 級 崩 壊 』 ‼ 」
よくわからん技名を叫びながら先輩は窓辺の顔面をぶん殴ると、彼は綺麗な弧を描いて空中へ舞い、キリモミしながら地面に落ちた。
「……ば、馬鹿な……ぐは……っ」
悪役らしいセリフを吐いて窓辺が意識を失うと、先輩の同級生なのかよくわからん動物達も瞬時に消えた。
「ひい……っ! せ、先生がやられた……お、お前ら覚えてろっ!」
すっかり後ろ盾がなくなったヤーさんは、用心棒の窓辺を置いてすたこらさっさと逃げようとする。
「はあ……遅いのお」
しかし、残党を逃がすまいとすごい速さで先輩がヤーさんの腕を掴み、曲がらない方向へとねじりあげる。
「あがああああああッ⁉」
「仲間ほっぽりだして逃げるたあ〝漢〟じゃねえなあ?」
先輩は関節を極めたままそいつに問う。
「おい、二度と地域住民を苦しめるようなクソみてえな事するんじゃねえぞ。これが破嵐高校、殺道部のやり方じゃあ。覚えとけコラ」
「す、すんませんしたあああああ‼」
先輩がそう脅すと、男は号泣して謝りながら気を失った。
ちなみに腕はありえない方向に曲がっていて、知恵の輪みたいになってる……こわっ。
「はっはっはあ! 楽勝、圧勝、快勝だなおい。ほれ、リキューも馬鹿セナもさっさと立たんか、今日の部活の朝練はこれで終いだ。帰って飯にするぞ」
その一言で僕はなんとか立ち上がるが、セナさんはショックが大きかったのかまだ気絶している。
それにしてもとんでもない敵だった。
まさかあの怪力のセナさんがこんな簡単にやられる程に、あんなとんでも超能力を使ってくる人間がいるなんて思わなかった。
それに僕は今の戦いで一番気になっていることがある。
「あの茶々先輩、さっきの動物達は本当に先輩の同級生だったんですか?」
正直この人ならありえる、まさかまじで動物園や山の中で義務教育を終えたのだろうかという疑問が尽きない。
「あ? 獣がダチなわけねーだろ。つっても奴等はあたしのダチであるには違いないけどな」
よくわからない矛盾した回答、友人だが友人じゃないとは何事か。
「つまり……どういうことっすか?」
僕が尋ねると、先輩はだるそうに口を開く。
「最初に奴に自己紹介しただろ、あたしが『カブトムシのメス』だってな。そのせいで奴の【持ち味】があたしという存在を誤認したんだ。人間なのか虫なのか情報が曖昧になった結果、同窓会は開けたもののあたしのダチ共は人間の姿じゃなく、なぜか動物に変換されたわけだ。まあそうだな一種のバグみてえなもんだ、要は最初からあたしはあいつに対して〝やらかし〟てたんだよ」
急に心理バトル漫画みたいな説明やめろ、なんかそれっぽくてカッコいいだろ。
「そ、そうだったんですね。あっ、だからあの動物達しゃべったり二足歩行で歩いてたりしたのか……」
納得したようなしてないような。
しかし深く考えるほど無駄であろう、茶々先輩もまたよくわからん『持ち味』とやらを持っているからできた芸当なんだろう。
「あっ、それともう一個疑問なんですが……茶々先輩は友達が動物化したのに名前を呼んでましたよね? なんでわかったんですか?」
どうみても区別がつかないのに、先輩は迷いなく動物にアキヨシとか森田とか声をかけていた。
なぜちゃんと認識できたのか不思議でしょうがない、僕なら絶対にわからん。
僕のささいな疑問を聞いた先輩は、鼻で笑いながらこう言った。
「てめえのダチがわからねえ訳ねえだろ。どんなに姿形が変わろうが仲間ってのは『心』で繋がってんだ。やべえ修羅場を乗り越えた友情ってのはな、互いに魂で共鳴し合うもんなんだよ」
な、なんかカッけえ……僕は普通に感心したし、いつか自分もそんな事が言える男になりたいとも思った。
「先輩カッコいいっす……! ん……? じゃあ、あの『猿』はいったい……?」
「知らん、なんだあいつ」




