恐るべき刺客!の巻
「おっしゃ、着いたぞリキュー」
爆走したおかげで、ものの二十分ほどで目的地に着いてしまった。
ちなみにここまでした信号無視の回数は七回におよぶ。
「着いたんですね……って、ここは……?」
僕はしぶしぶバイクから降りて辺りを見渡す。
そこには人の気配が無さそうな寂れた商店街が広がっていた。
「こんなところに用があるんですか……? 見たところ地方でよく見るシャッター街って感じの場所ですね……」
僕が不思議そうに言うと、茶々先輩は歯ぎしりさせながらその商店街を見つめた。
「チッ、ここまで廃れちまったか。この辺りはなあ、少し前までは寺の坊主も踊り出すくらい栄えていた商店街だった。だが、数年前からクソみてえな地上げ屋が各地で調子こき始めやがった。そのせいでこの有り様だ、胸糞わりいなぁおい」
先輩にしてはわかりやすい説明になるほどと僕は思ったが、まだ疑問がある。
「ここは先輩の地元とかですか? それとも思い出のある土地とか──」
「あ? 地元でもねーし思い出もクソもねえよ。ただあたしはムカついてるだけだ、でけえツラして雑魚から搾取してるカスどもを半殺しにして縛り上げて、そんで日本海にぶん投げてえだけだ」
もっとキレイな理由を期待していたが、正義の味方のような暴力の化身みたいな理由だった。
「さあて、そろそろあの馬鹿も来る頃だな」
「え? 誰か来るんですか」
先輩がタバコをふかしながらそう言う。
僕はその言葉を受けて周囲を見渡すと、遠くから何やらすごいスピードを出して自転車を漕いでやってくる一つの影があった。
その自転車はどんどんとこちらに近づき、そして僕たちの前でドリフトをしながら止まった。
「はあはあ、ぜえぜえ……お、おーほほ! 鹿馬セナ、ここに推参ですわ!」
現れたのはすごい息を切らしながら汗をかくセナさんだった。
「朝から精が出るな馬鹿セナ。馬と鹿もたまげる脚力と体力だな」
「馬鹿じゃなくて鹿馬ですわ! まったく、こんな朝からこんな何も無い場所に呼び出すなんて気が狂ってやがりますわ!」
それには同感と僕はバレないように首を縦にふる。
「セナさんおはようございます。ずいぶん息が上がってますが大丈夫ですか」
「あらおはようリキュー、わたくしの事なら心配無用ですわ。それよりも茶々、さっさと朝の部活動とやらを終わらせたいのだけれど?」
汗を優雅に拭きながらセナさんは流し目で茶々先輩を睨む。
「ふっ、安心せい。そろそろ敵も来る頃合いだ──ほれ、噂をすればなんとやらだ」
先輩が商店街の奥を指差すと、ガラの悪そうなサングラスの男が三人ほど肩を怒らせながらこちらへと歩いてきた。
「おうおうおうてめえか、最近俺達の仕事を邪魔してるクソ女ってのはよお。こんな人気の無いところに呼び出すとはよほど命知らずらしいな。クソガキだろうが女だろうが俺達は容赦しねえぜ」
見た目も言動も完全にヤーさんな男達は先輩を見るなり啖呵を切ってきた。
「はっ、そのクソ女にしてやられてるお前たちは滑稽よな。喜べ雑魚ども、わざわざ出張して来てやったんだ、今日はお前らの奥歯を全部折って紙粘土で作り直してやるよ」
先輩は楽しそうに返答をするが、僕はこれまでの人生で絡んだことのない人種の方々が出てきてさっきから震えが止まらない。
「せ、先輩! なんすかこの人たち、普通に恐いんですけど⁉」
「はあ? ならてめえ、あの雑魚どもがあたしより恐いとでも言うんか? あ?」
僕は先輩のその言葉を聞いて震えが止まった。そういやそうだわ、確かにこの人が一番こえーわ。
「はあ、なんなんですの? この品のない雑魚どもは?」
「おう、こいつらを殲滅したら朝練は終了だ。普段はあたし一人でやってたが、お前ら新入部員が増えたからまあ丁度いい練習相手を見繕ったわけだ」
セナさんはため息まじりに首をコキコキと鳴らすと、そのキレイな金髪をなびかせながら果敢に相手の前に立った。
「まあいいですわ。こんな雑魚ども一秒で片付けて、さっさとわたくしは登校することにしますわ」
「なめてんじゃねえぞ……死にてえようだなあ女ァッ!」
相手の男が激昂しながら二人がかりでセナさんを襲う。
「ふんッ!」
まさに一瞬であった──セナさんの体を掴もうとした男達は、その場に崩れるように倒れた。
その男二人の体の中心には拳一つほどのくぼみがくっきりと残されていた。
「アホだな、馬鹿セナに正面から挑むとはな。奴のパンチはヘビー級ボクサーより重いからな、ありゃあ一週間はろくに飯も食えんだろうよ」
倒れた男達はぴくりとも動かず、泡を吹いて気絶している……ほんとに気絶してる? これ死んでないよな、やや不安。
「弱すぎて肩がもげそうですわ……うちで飼ってる金魚より弱いですわね」
か、かっこいい……と僕は思うとセナさんは僕を見て、
「わたくしは二人片付けたからリキュー、あなたは残った一人をやりなさいな」
なんかとんでもねえこと言ってきた。
「……え? はあ……⁉ な、なんで僕⁉」
「ドアホ、当たり前じゃろ。これ部活だぞたわけ、リキューお前もこれくらいの雑魚を簡単に倒せるくらいの戦闘力が無ければこの先死ぬぞ」
「むむむむむ無理っす‼ 僕、喧嘩なんかしたことないし、あんな恐そうな人と戦ったらまじで死んじゃいます‼」
僕は全力で拒否するが、先輩は僕の首根っこを持って脅す。
「寝ぼけるなよリキュー、殺道部に『逃げ』の選択肢は無え。てめえもタマキンついてるなら背水の陣で人生イキろや」
はえ~この人、過激派な戦国武将みたいな事いいますねえ。
「わかったらさっさと行ってこい」
先輩は僕のケツを蹴り上げると、残った男の前に突き飛ばした。
「う、うおおっ、おおっ」
僕は手足を震わせ、男の前に立つ。
あー駄目だこれ、負ける未来しか見えん。
「くっ……なんだこいつら……」
しかしここで予想外な事が一つ、相手の男は先程のセナさんの強さを警戒してか、冷や汗を流してこちらを見ている。
無論それは僕なんかじゃなく、後ろに控えるあの最強女子二人を警戒してのことである。
「ちょ……ちょっと待て!」
相手の男は慌てるようにポケットから携帯を取り出して、どこかにかけ始めた。
「ちょっとリキュー、さっさとしなさいな。相手はのんきに電話なんてかけてやがりますわよ」
「あっ、っす……いやあ……」
セナさんが急かすように言うが、無理に決まってんだろ。
そんな会話をしてるうちに敵さんはどうやら電話を終えたらしく、なにやら不敵な笑みでこちらを見てきた。
「くくく……いま、助っ人を呼んだ……! うちの組の用心棒だ! お前らなんぞ簡単に捻り潰すことができる男がいま来るぞ……!」
男は自信あり気な態度で言うが、冷静に考えると女子高生に対してヤーさんが用心棒を呼ぶとか最高にダサいな。
「茶々先輩、なんか用心棒とやらが来るみたいなんですが……」
「そうか、じゃあまとめて倒せ」
仕事が増えましたやん。
「あっ! 先生、こっちです! お願いしゃす!」
商店街の奥から何者かが近づいてくると、男は待ってましたと声を掛ける。
どうやら近くに待機していたのか、むこうの用心棒とやらはすぐに現れた。
「……え、あの人が用心棒?」
僕は現れたその人物を見て首を傾げた。
なぜならそいつは僕たちと変わらぬ年齢くらいの男で、七三分けの髪と細い目つき、さらに体の線も細い。
そしてこの辺の学校じゃあまり見慣れない、黄色と緑が混じったような奇妙な学ランを着ていた。
「なかなか苦戦しているみたいですね。あとは私にまかせていいですよ、早めに終わらせるとしましょうか」
奇妙な学ランの男は涼し気な顔で簡単に言った。
あまりにもその辺にいそうな普通の学生にしか見えない彼を見て、僕はいまいち状況というか相手の意図が読めない。
「さて、どこの馬の骨か存じませんがやりましょうか」
学ランの彼がどうぞと手を開いて言ってくるが、とてもじゃないが強そうには見えない。
それとも実は空手の達人とかそういった隠れた強者なのだろうか、彼が僕に対して歩みを進めようとしたその時、茶々先輩が僕の前に身を乗り出した。
「きさま……超高のもんだな。なるほど、やっと合点がいったぞ。そうか、そういう事だったんだなあ! はっはあ!」
先輩は何かを理解してか大きく笑う、その様子に僕とセナさんは状況が飲み込めないでいた。
「ちょっと茶々! なにがどういう事なんですの?」
「なーに簡単な話しだ、近頃そこら中で悪さをしてる奴のバックについてる、言わば元凶みてえな奴等ってことよ。どうせ地上げ屋の連中にくだらんコンサルティングしてるのも貴様らなんだろ? ああ?」
先輩が豪気に学ランの彼に言うと、
「おや、あなたは我々をよく知っているようですね。ならば僕がどれだけ強いかも存じているはず、それでも戦いますか?」
彼はまるで負ける素振りすら見せない態度で言った。
こころなしか、さっきよりも彼が強そうにも見えてきた。
「茶々先輩、あの人そんなに強いんですか?」
「リキュー、お前は下がってろ。こいつは現段階ではあたしか馬鹿セナじゃないと倒せん」
え……先輩めっちゃ頼もしいやん。
僕は喧嘩しなくてよくなったこの状況にマジでラッキーと思ったが、男としては死ぬほどダサいことに今は気づいていない。
「申し遅れました、私は超高力スクール三年──『窓辺』と申します」




