悪い通学路
激動たる一日を終え、家に変えるなり僕は泥のように眠り、そしてまた太陽はのぼる。
……昨日は散々であった。
いきなり教室が変わり、無法地帯にぶん投げられた僕の高校生活はもうめちゃくちゃだ。
「あー……すごいな。こんなに学校って行きたくないもんなんだな」
生まれて初めて、心の底からこんなにも学校に行きたくない日が来るとは思わなんだ。
しかし世は無常なり、誰に対しても日は登り朝が来る。
うるさく鳴る目覚まし時計を僕はイライラしながら止めると、ベッドから憂鬱な身を起こし朝日が差し込む窓に近づいてカーテンを開けた。
「あたしより後に目が覚めるとはいい身分だなリキューよ」
──なんかいた。
「どぅおわっ!」
窓の外からガンを飛ばす茶々先輩を見て、僕はひっくり返るように転びながら悲鳴をあげる。
「さっさと仕度しろ。今日は最近調子こいてる地上げ屋を一掃しに行くぞ」
「学校は⁉」
「有給でもつけとけ」
「有給⁉」
なんてことだ、朝からとんだハードモードを叩きつけられた。
つーか学校に有給もクソもねえだろ……。
「あの~茶々先輩……大変恐縮なのですが、我々は学生という身分なので学校にはちゃんと行った方が──」
僕はなるべくこの猛獣を怒らせないように、極めて低姿勢でお願いをする。
「あん? だから学徒の本分を全うすべく、朝から部活動に励むんだろうが。貴様は殺道部の朝練をボイコットするんか? ああ?」
茶々先輩はそう言うと窓ガラスを拳でぶち割り、ずかずかと部屋に上がり込んで僕にアイアンクローをかましながら邪悪な笑顔をみせた。
「すんませんっした‼ 朝練一緒に励まさせてもらいます‼」
だめだ、ここで断ったら僕の頭蓋骨が割れるわ、拒否権なんてやっぱねえわ。
僕は大急ぎで支度を済ますと、勢いよく家の玄関から飛び出した。
「はあ、はあ……お待たせしました!」
「よし、こいつに乗れ」
茶々先輩が顎で僕に指図する。
家の前にはバカでかい黒く光る大型のバイクがあり、近所迷惑になるほどのマフラー音を出しながら厳つくアイドリングしていた。
「見ればわかるモンスターマシンじゃん……」
「さっさとケツに乗れ。首都高を飛ばしていくぞ」
僕は諦めたようにバイクの後部座席に乗り、茶々先輩は慣れた手つきでバイクのアクセルを吹かした。
「あっ先輩! まだヘルメットを──」
僕の言葉をさえぎるように猛スピードでバイクは発信した。
もちろん二人共ノーヘルで違反バリバリだ、海外の無法地帯かよ。
命綱のないジェットコースターのようにバイクはどんどんと加速していくので、僕は前世でなにか相当悪いことをしたのかな、と己が運命を恨んだ。
「なんだあ? リキュー、朝からしょっぺえツラしてるなあおい?」
誰のせいだと思ってんだこの人、口には出せないがこれ以上先輩の機嫌を損ねるのはまずいので、僕は愛想笑いしながら会話を返す努力をする。
「そ、そういえば茶々先輩は免許持っててすごいっすねえ」
「あたぼうよ、あたしを誰だと思ってんだ。ほれこれが免許証だ」
先輩はそう言うと得意げにポケットから免許証を取り出し、僕に見せてきた。
僕はそれを見てたまげた、だってこれ……調理師免許ですやん。
「えっと……ギャグですかね?」
「あ? お前の顔がか?」
どうやらギャグじゃないっぽい。
たぶんこの人、とりあえず免許証があれば何でもやっていいと思ってるやべー奴だわ。バイクは排気ガスをばらまきながら首都高を快適に飛ばす、僕は悟りを開いた僧侶のように無心でバイクの後ろに乗る。
もう考えれば考えるほど無駄だと本能が言ってるからである。
「あー喉乾いたな、おい飲み物くれ」
先輩が手をくいっと僕の方に向けながら言ってくる。
「の、飲み物っすか? すんません無いっす」
「あ? 何言ってやがる、そこら辺に沢山あるだろ」
ちょっと何を言ってるのかわからない、バイクには特にドリンクらしきものは見当たらない。
「えっ、どこっすか……?」
「ここにあるじゃねえか」
先輩はそう言うと、僕達の前に走ってたオープンカーに近づいて、その運転手が飲んでいたコーヒー缶を奪い取って豪快に飲んでみせた。
「っはー、ぬるいコーヒーだな」
やってること海賊なんよ。
僕はバックミラーに映るオープンカーの運転手を見ると、あまりの突然の事にぽかんとしているのがわかる。
「南無三……」
これしか言えねえ、むしろ缶コーヒー程度で済んで良かった。
「おいお前、腹減ったか?」
「いや、減ってないっす」
これ以上被害者を増やさないためにも、僕は即答した。




