セイヤ
医務室から出た私はすぐに壁にぶつかった。
いや、壁ではない、温もりが微かにあった。人だ。
見上げると銀髪の青年が冷たい瞳をしてそこに立っていた。ユイはその顔に見覚えがあった。
レンの葬儀の日にブレザーをかぶせてくれた青年だ。思えば探すこともなくブレザーを借りたままだったと思い返した。
「あ、ブレザーの…」
「どこに行く気だ」
青年は淡々としていた。ブレザーが帰ってきていないことなど意に返していなさそうだった。ユイは怒気すら孕んでいそうな迫力に思わずたじろいだ。
「カ、カミラ先生のところに…話があって…」
「やめておけ、いいか、今後あいつには近寄るな」
追い詰められて、ユイの背中に硬い壁が当たる。
どん、と、畳み掛けるように青年は手をついた。あまりにもわかりやすい恫喝に、ユイは鼻白んだ。
「あなたには関係ないでしょ」
「関係?あるに決まってるだろ…お前覚えてないのか?」
覚えてない?果たしてなんのことを言っているのか。
ユイは青年の顔をじっと見つめた。端正な、整った顔立ちをしている。
「覚えてないのか…俺のことも…」
苦しそうな表情で言って、青年はユイの頬を撫でた。
ユイはその瞳を見たことがあるような気がした。黙ってされるがままにしておくと、青年は断ち切るように拳を作りユイから身体を離した。
「もしお前がカミラのところに行かないって約束するなら、あいつ、レンがどこにいるか教えてやる」
「レンの居場所を知ってるの!?」
今度はユイが青年に飛びついた。
狭い通路でユイは彼が頭を打ち付けるのにも構わず壁に押付けた。青年は痛みに顔を少ししかめた。
「どこ!どこに、どこにレンはいるの!?」
「約束を守れるなら、教えてやるよ」
興奮状態のユイをいなすように胸ぐらを掴んだ手を強引に離し、青年は立ち去った。
レンの居場所を知っている人がいる!
ユイは興奮状態で部屋に戻り、クリーニングに出してあったブレザーを取りだした。
学園の制服には胸元に名前が刺繍されている。彼の名前を知りたかった。
「セイヤね…」
彼はセイヤと言うらしかった。会ったことがある?しかしどこで?
思い出そうとしても全く覚えがなかった。いつ、どこで出会ったのか、出会ったとしたら一体どこで…。
ユイは頭を振って考えを追い出した。
これ以上考えても無駄なことだ。それより今はレンの居場所について知りたかった。
レンは一体どこへ?
彼がなぜその事を知っているのか、いやもしかしたら彼なら学園の謎も知っているのかもしれない。
私はアミティに会いに行くことにした。彼が役ありなら、詳しい情報が聞けるだろう。




