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08.サラ宮殿へ


質素な方の馬車に乗り込み、私とニオは隣り合わせで腰掛けた。お偉い様のお付きの人がひとり、私たちの向かいに座った。

20代後半に見える彼は、「トマだ。よろしく」と短く自己紹介をして、御者さんに合図を出す。


動き出すと同時、困惑顔のニオが何か言いたげにこちらをジッと見つめてきた。


「ふふ、何?」


私が余裕たっぷりに笑ってみせると、ニオは思い切り眉を顰めた。


「何で来た?女性の心を潤す仕事なんて……」

「“オレ”の方が適任だと思ったからだよ。ニオよりうまいだろ?女の子の扱い」

「そうだけど……。ああ、クソッ。行くことお前に話すんじゃなかった」

「あとで知ったって追いかけてたよ。だったら一緒の方がいいでしょ?」


私たちの会話を聞いていたトマさんが

「なんだ、知り合いか?」

と尋ねてくる。


「はい。幼馴染です」

そう私が答えると、

「そうかそうか、そりゃ黒髪は災難だな」

と彼はニオを憐れみの目で見つめた。


「え、何故ですか?」

ニオが顔を上げると、


「お前、最初は整った顔してるなって思ってたんだよ俺。でも金髪が横に並んだ瞬間から、すっげぇ地味で平凡な男に見えんの。おもしろいくらいにな。サラ様への手柄も全部こっちに持ってかれそうだ」


そして、

「今までも、コイツに好きな子奪られまくっただろ?」

とトマさんは私を指差しながら言う。


()ったことはないと思うのだけれど、そもそも他の女の子と仲良くなる機会を(うば)っていた自覚ならある。

男装している目的が即バレした私は、思わず彼らから視線を逸らした。


「ああ、そうなんですね」

ニオは穏やかな声で言うと、私の頭に手を置いた。


「僕はそういうので困ったことは一度もないですよ。ティムが幼馴染で良かったです」


チラ、とニオの方を見ると、ニオも私を見ていた。


「だからティム。お互い心細いしさ、なるべく宮殿でも傍にいてよ」


お願いに見せかけた圧を感じて私が頷くと、ニオは目を細めて優しく笑った。


思わず見惚れて赤面した私を、トマさんが「わーい、照れてやんのー」と揶揄うもんだから、「うるさいなー違いますよー!」と、照れ隠ししているフリをして、その揶揄いに便乗させていただいた。


トマさんとも冗談が言い合える仲になり、3人で騒いで数刻が経った頃、馬車は都へと入った。


窓からサラ宮殿が見える。

私は自分の頬を叩き、改めて気を引き締めた。


身も心も男になりきる。

ニオとまた家に帰るまで。

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