06.幼馴染の行方
〜ニオ・クレマー〜
昨日家を飛び出したティナは、遂に僕が家を出る時間になっても姿を現さなかった。
玄関からはティナのカバンが消えていた。
心配する僕に、ジョーイは
「アイツ寂しいんだろうよ。ちっさい頃から一緒だもんな。兄貴みたいに思ってたんだろ。他に行くとこも無いし、気が済んだら戻ってくるさ。
というか、何にしろサラ様のところに行けんの羨ましすぎるんだが！俺と替われ!!」
と喚き続けていた。替われるものなら替わりたい。
約束の広場に着くと、既にお偉い様ひとりと付き人らしき人物が、見たことも無いゴージャスな馬車を背に立っていた。
事情を知る人も知らぬ人も集まり、ちょっとした見世物だ。
共に来ていた父母に背中を押され、ジョーイにも「行ってこい」と悔しそうに送り出され、
はぁ、とお偉い様に見えないように溜め息を吐いた僕は、彼の前に出ると背筋を伸ばして立つ。
そのまま跪き、頭を伏せて
「ニオ・クレマーです。サラ宮殿への召し上げ、恐悦至極に存じます」
と挨拶をすると、「ふむ、よろしい」と目の前の人物が胸を反らして僕に立ち上がるよう促す。
「私はサイモン・ロバーツ。サラ宮殿の人事裁量権は総て私が担っている。サラ様にすべてを捧げる覚悟で働け。心を潤して差し上げるべく尽くせ。もしご機嫌を損ねた場合、命はない。以上だ」
そうしてサイモン様は首をクイッと動かした。
馬車に乗れという合図だろう。
見たこともないゴージャスな馬車……の裏に控えていた質素な馬車が、僕の交通手段のようだ。
そちらに向かって一歩踏み出した時だった。
サイモン様の突発的な大声に僕は足を止めた。
「おい、そこのお前！そうだ、そこの金髪！こっちへ来い」
何事か、とざわめく人々の声。
両親とジョーイの戸惑った表情が先に目に入る。
嫌な予感をおぼえた僕がゆっくりとそちらを振り向くと、堂々とした足取りで、見慣れた人物がやってくる。
「何考えて……やめろ、来ちゃダメだ……」
声にならない声で呼びかけるが、その人は一切こちらを見ずにサイモン様の前に立つ。
「お前の名は？」
「“ティム”・フォスターです」
「お前も来い。サラ宮殿に！絶対だ！」
“ティム”は完璧な美貌を携えて、完璧な笑顔で、完璧な礼をとって跪いた。
「サラ宮殿への召し上げ、恐悦至極に存じます」
