36.私の男装は『Win-Win』なので
約束の外出日。
「その日の衣装も私がプロデュースするから!」
張り切ったサラに言われて、もう何でも来い!な気持ちになっていた。
とはいえあんまり目立ちすぎるのも動きにくそうなのも、せっかくの外出に差し障りが出そうだ。
トマさんがどうか人目の少ない場所を選んでくれていますように……。
そう願いながら控室の扉を開いた瞬間、
「ティム様失礼します!!」
サラの侍女さんたちに襲われた。
目隠しをされて訳がわからないうちに、意外と重苦しくなさそうな服を着せられて、モジャっとしたズボンらしき物を履かされて、なんだかモサモサしたものを被せられて、
「目隠し外すけど、まだ目は開けないでね!絶対だよ!!」
とサラから念を押された状態で目隠しを外され、
「やっぱり美しいですぅぅ」「睫毛長っ」とか言われながらメイクも受けた。
「こっちできたよー!ニオもできた!?これ絶対お似合いだよぉ!私天才!最高CP!!」
うふふ、と笑うサラに腕を取られ、こっちこっちと何処かに誘導された。
「じゃーん!ふたりとも目、開けていいよ」
そう言われて目を開くと、向かいにはニオがいた。
「わぁ、かっこいい!」
「でしょ!今日のイメージは『貴族の街ブラ』コーデだよ!!」
少し髪を切ってもらったのか、サイドがスッキリしている。
いつもおろしている前髪を、全体的にふんわりと立ち上がるように後ろへ流していて、毛先が散らばるように整髪剤で調整されていた。
そして髪型が似合っているからかいつもより瞳が際立って見える。柔和で整った目鼻立ち、優しげな口元。
更に今日は、普段は着ない黒シャツに、黒い細身のパンツ。
所々にシルバーの装飾が際立って、なんだか高貴な印象だ。
“ティム”で隣にいて本当によかった。こんなにカッコイイとニオがモテてしまう。
そんなニオは私を見て固まっている。
そして顔を紅くしたかと思うと頭を押さえ、ポツリと言った。
「余計なことを……」
「えっ!どうしよう、変!?オレどんな格好なの?!なんか頭もモサモサするし!!」
とりあえず見える範囲で確認すると、足のあたりにヒラヒラしたものが見える。
「ん、何これ?もしかして」
少しヒラヒラを持ち上げてみると、白いドロワーズが顕になってバッと隠した。
「え?!なんで!?スカート!!?」
紺に黄色の細いストライプが入った、光沢のある生地で仕立てられたコルセット風の編み上げワンピースが、白いボウタイブラウスに重ねて着せられていた。ウエスト下にはタックがあり、ワンピースの裾は広がっていて、細かなフリルがところどころにあしらわれている。
サラはパステルミントにピンクの細ストライプが入った、同じ形のワンピースとボウタイブラウスを着ていた。色違い!??
モサモサした被り物はどう考えてもカツラだった。編み込みをまとめてアップにしてある。
「え!?女装!?男装のオレが、『街に行くので初めて女装してみました』って感じ!?なんて複雑な設定!!!」
「なんでやねん」
サラにペチッと裏手で叩かれた。
意味不明過ぎてサラを見ると、
「これはツッコミと言います」
と真面目な顔で言われ、シーグル検索から『ツッコミ』について説明を受けた。
「女装じゃないよ、普通に女の子の格好したティム……ティナと遊びたいなって思っただけ」
「でもこんなに可愛い服。しかもサラと色違いなんて……!ニオも余計なこととか言ってるし、変なんじゃ?」
「もう、めーーーっちゃくちゃ可愛い!可愛いっていうか、とんでもなく美人!!美人すぎて怖いくらいだから誰にも見せたくなかったんでしょ。ね、ニオ」
ニオが顔を顰める。
「着飾ることとか興味なさそうだったし、同世代と会うときは殆ど男装してるから安心してたのに……」
「なるほど、男装が男除け代わりになってたわけだ」
思わぬ本音にビックリしすぎて私は口を開けて固まっていた。なんてことだ、私の男装はニオを女の子から、私を男の子から遠ざけていた。
つまり私たちにとっては『Win-Win』というやつだったのか。
「わぁすごい!私これからも男装頑張るね、ニオ!!」
「え、そっち!?」
皆がびっくりしてこちらを見ている。
Win-Winなのだから良さそうなものを……?
「てか本当に超キレイなんだから!ニオと美男美女でお似合い過ぎるよ?鏡見なよ」
など騒いでいると、ガチャリとドアが開く。
「おーい、3人とも。準備できたか?……え、誰?」
トマさんが顔を紅く染めてこちらを見るので、ニオは結局不機嫌になってしまった。